駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第13話 ウィスドム、神の声を聞く。

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 ――宗教国家『ピルグリム』

 その国の成り立ちは遥か昔、勇者が魔王を討伐する旅に同行した巡礼者たちが集まって創られた国だと言われている。
 実際どうなのかは、同時を知る人が居るわけが無いから分からない。
 けどそう言われているからか、この国は勇者信仰が異常なまでに強かった。
 街の広場に行けば、初代勇者を模したと言われている巨大な石像が建っており、毎朝街の人たちが跪いて頭を下げて祈っている。
 教会に行けば勇者の教えとして、巡礼者たちが聞いたと言われる勇者の格言が語られる。
 一に勇者、二に勇者、三に勇者と勇者勇者と勇者信仰に染まりきった街。
 簡単にいうならば自分たちの信じる勇者の教えに従って、自分たちの信じる勇者信仰を広めていく。
 それが今のこの国のあり方だった。

 ……でも、そんな考えをわたし――ウィスドム――は受け入れることが出来なかった。
 父も母も上や下の兄や姉たちも、口を開けば勇者勇者勇者。何時か現れる勇者のために自分たちは今此処に居る。
 そんな考えを持ちながら何時か来る日を信じて待っていた。

 ――ふざっけんじゃないわよ! そんな人生、わたしは願い下げ!

 だからわたしは家族に反発するように、回復魔術を覚えなければいけないのにわざと攻撃魔術を覚えることに集中した。
 当然、家族とは衝突し、時には父から平手打ちを受けたりもした。さらには母からは『魔族に操られているに違いない』とか訳の分からないことを言われたりもした。
 そんな両親を見ていたからか兄や姉たちもわたしを擁護することはなく、勇者の教えに従わないわたしを蔑んだ目で見るだけだった。
 頼れる者も居ない、敵しか居ないこんな状況。けれどわたしは自分が間違っていないと信じていた。

 わたしがこの国の教えに従わないことを決めてから2年経ち、両親は諦めたのかわたしを家の奥へと閉じ込めた。
 ただし、閉じ込める代わりとして両親は攻撃魔術を主体とした魔術書を与えてくれた。
 与えられた魔術書を前にわたしは目を輝かせ、同時に約束をされた。
 『絶対に攻撃魔術をここでは放たないこと』という約束。
 この国は嫌いだけれど、わたしだってやってはいけないことの区別は付いているつもりだ。
 だからわたしは素直に約束に従った。
 そして、わたしは限られた場所での生活だけれど……とても充実した日々を送ることが出来るようになった。
 それは今日も、明日も……ずっと続いていくものだと考えていた。
 だけど現実はそう上手くはいかないようだと、改めて今日思い知ることとなった。

 ●

 薄暗くジメジメとした本に快適な室内、その中に置かれたテーブルに本を山積みにしながら椅子に座っていた。
 ぱらり、ぱらりと紙が捲れる音が室内に響き、わたしは書かれた文字に目を走らせる。

「……なるほど、この術式を利用したらあの魔術はああなるのね」

 読み進めて得た知識を頭の中で自分の得た魔術の中に組み込んで行く。
 多分、これで良いと思うけど……、頭の中で思ってるだけだから実際に出来ないのはちょっと辛いと思う。

「あの約束、ちょっと面倒だったって今になって思うわ……」

 呟きながら、わたしは両親と約束をした魔術をこの国では使わないという約束に眉を寄せる。
 あのときはそれで良いと思ってた。だけど、この国から出ることが出来ないのに、この国で攻撃魔術使うな。なんて生殺しもいい所だ。

「あ~あ、どうにかならないかしらね……。せめて覚えた魔術だけでも使えたら……、いやいっそ約束破ってぶっ放すとか?」

 などと馬鹿なことを考え始めるわたしだが、決して好きにはなれないけれど嫌いにもなれないこの国で馬鹿をする気は無かった。
 でも本当、どうにか出来ないだろうか?

 ――ウィスドム、ウィスドム……ワシの声が聞こえますか?
「うん? 今、声がした?」

 気のせい。そう思いながら、わたしは再び文字の世界へと飛び込もうとした。
 だがそれよりも先に……。

 ――気のせいではありません、ワシの声が聞こえるなら耳を傾けてください。
「……誰よ? 精霊? 妖精? それとも悪魔の囁きでも言うつもり?」

 またも聞こえてきた声、それは気のせいじゃ無いようだ。だけど、こんな風に自分に声をかけてくるのなんて今言ったぐらいしか思い付かない。
 だけど、精霊はこの国には何故かより付かないし、妖精は最初は興味本位で現れたことは覚えてるけど……興味が無いことを知ると来なくなった。
 だったら考えられるのは悪魔の囁き、所謂魔王軍への勧誘というものだ。
 けどお生憎様、何度も言うけどわたしはこの国が嫌いだけど滅ぼしたいと思わない。残念だったね。

 ――違います。ワシは神です。
「――――――は?」

 なにいってるん、こいつ?
 えっと、……え、なんだって? かみ? かみ? ……疲れてるか。

 ――ワシは疲れてはおらんし、お主も疲れてはいません。ですから、ウィスドム……ワシの話を聞きなさい。

 ……どうやら心が読めるらしい? それとも、わたしは心の病になってしまったのだろうか?
 一度、無理を言ってでも神官に相談してみ……いや、口を開けば勇者を信仰していないからだとか言うに決まっている。
 はあ、どうするべきか……。

 ――じゃから、その勇者が大変じゃって言うとるんじゃよっ!!

 何か急に口が汚くなった。その声の主は……。というか、勇者?
 その単語を聞き、わたしは眉を顰めて苦い物を食べた顔をする。
 だけど、嫌いな言葉が平然と出たからわたしの妄想じゃ無いようだ。……とりあえず、コンタクトを取ることにしよう。

「仮にあんたが神だってするけど、わたしに何をさせたいのよ? わたし、勇者って言葉が嫌いなんだけど?」
 ――それは知っておる。じゃからお主を選んだのじゃ。
「は?」
 ――ああいや、何でも無いのじゃ何でも。まあ、兎に角じゃ、お主には今から勇者を助けに行ってもらいたいのじゃ。
「何だか含みのある言い方ね……。って、わたしが勇者を助けに? ――お断りよ!」

 話は良く分からない。だけど、勇者を助けに行って欲しいなんてお断りだった。
 誰が好き好んで嫌いな対象に近づかないといけないのだ。……って、ちょっと待ちなさい。

「勇者って、御伽噺の存在じゃないの?」
 ――最後に現れたのは数百年前じゃったが、数日前にある少年が勇者に目覚めたのじゃ。
「少年……。本当に勇者って居たのね。この国の創り出した偶像なんかじゃなかったのか……」

 そう呟きながら、わたしは勇者となったという人物を考えるけれど……、勇者と言う単語でイラッとしてしまう。

 ――うわぁ、予想以上に勇者嫌いが拗れておるのう……。
「五月蝿い。とにかく、わたしは助けになんて行かない。誰か他の人に頼みなさい」
 ――仕方ないのじゃ。最終手段を使うのじゃ。
「何? 強制的にでも連れて行こうって思ってる? だったら、勇者なんて助ける気ないから意味無いわ」

 はんっ、とちょっと女性らしく無い態度を取りながら、虫を払うように手を軽く振る。

 ――そんなつもりは無いのじゃ。お主はきっと行きたくなるぞ? 何故ならお主は大事なことに気づいておらんからのう。
「大事なこと? いったい何よ?」
 ――勇者を助けにお主は外へと送られる。つまりは、この国以外に行くこととなる。つまりは、魔術使い放題じゃ――「行くわ」――早っ!?

 わたしは即答した。何でこんな簡単なことを忘れていたのだろうか?
 送られる=国外=魔術使い放題。
 今まで知識として得ていた魔術を使うことが出来るのだ。
 迷わずわたしは神を名乗る存在に返事を返した。
 すると、契約が成立したのかわたしの足元に光が広がる。
 こんな魔法でも魔術でも無い初めて見る現象……いや、奇跡。どうやら本当に神だったのだろう。
 改めてそう考えながら、わたしは側に立てかけていた杖を掴んだ。直後光は最高潮に達し、それが収まるとわたしは薄暗い室内から薄暗くも光が差し込む森の中に立っていた。
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