駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第71話 逃亡魔族、画策する。

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「クククッ、さあ来い……勇者よ! お前を殺して、あの魔王に一泡吹かせてやろうではないか!!」

 続々とモンスターが集まっていく中、私は魔マ王とか言い抜かし始めた魔王が泣き崩れる未来を想像する。
 そうでもしないと、私は死んでも死に切れないだろう。
 と言うか、死ぬのは確定かも知れないが、本当に一矢報いてやろう!

「それもこれも、魔王……お前が帰ってきたのがいけないのだ!!」

 十数年前に魔王が行方を眩ましてから、私は魔王城で行動を起こし始めた。
 初めに、強い力を持ち……頭が良いわけではない魔族を探した。
 目的の魔族を見つけると、私は彼に「魔王が居なくなった今こそ貴方が魔王となるのです」と唆した。
 その結果、そいつは気持ち良いくらいに上手く動いてくれた。
 力こそ全てと言いながら、その魔族は魔王を名乗り始めてくれて……刃向かう者達を薙ぎ払った。
 それを行うに連れて、その魔族に刃向かう魔族は減って行き、段々と力こそ全てと魔族達は思い始めていった。

 同時に私は魔王が大事にしていた湖を毒の沼に変えると……その水を使って城の壁や床を汚していった。
 途中、侍女どもが私をゴミを見るような眼差しで見ていたが、今となってはそれは快感だ。
 そうすることで、4年ほど前になると……美しかった魔王城の外観は見事に汚く邪悪に染まり、中の秩序も力こそ全て、問答するなら殴り合えが当たり前となってくれた。
 その様子を私は興奮しながら、魔王なんかよりも遥かに上の存在である本当の主に告げる。

「どうですか、邪神様。この邪悪な様相を! もうすぐです、もうすぐ魔族達は力こそ全ての者達となり、人間や亜人どもに攻撃を仕掛けることでしょう!!」
『クックック、そうか。スグニーケよ、最後まで注意し……破壊と混乱の果てに我がこの世界に現れることが出来るようにするのだ』
「ははっ、お任せください邪神様! このスグニーケ=サレールにお任せを!!」

 聞こえてくる声に返事を返しながら、私は地べたに頭を擦り付けながら主の期待に応えるべく返事を返す。
 そう、後は力馬鹿の脳無し魔族が魔王となって人間どもに戦いをすれば良いだけ。
 ……だが、そう簡単に上手く行くことは無かった。
 何故なら、前魔王の威光が強すぎたようで、魔族達は自分達で殴り合って実力を示すだけで終わっていて人間どもに攻撃を仕掛けるという事はしなかったのだ。
 何度も自称魔王となった奴に仕掛けるよう唆したと言うのに、最後の最後で古い魔族が抵抗をしていた。

「ならん、ならんっ! 魔王様は人間亜人、それらに手出しは無用。向こうが何かをしてこない限りは手を出すなとお達しだ! だから、自分で魔王を名乗っている貴様が勝手なことを言うではない!!」

 特に、魔族の中の大臣だったか宰相の位置に立っている魔族が一番の抵抗を見せていたのだった。
 それが何年も続き、後一歩、後一歩で自称魔王が率いる新生魔王軍が人間亜人に宣戦布告をするはずだったのに……。
 魔王が帰ってきたのだった。
 当然、初めは魔王だと判るはずが無かったが、異常なまでの能力を見せつけ、自称魔王を屈服させた。
 それを見た瞬間、私は全力で逃げ出していた。

 いったい何がいけなかったのだ!?
 力しかない脳無しを魔王にしようとしたのが不味かったのか?!
 下準備に時間をかけすぎたのが駄目だったのか!?
 魔王の実力を甘く見ていたのがいけなかったのか?!

「はあ、はあ、はあっ! じゃ、邪神様! 邪神様っ!! 緊急事態です、緊急事態です!!」

 魔王城を抜け、鬱蒼とした森へと入り、その中央辺りで私は天に向かって叫ぶ。
 何時もならば心で語り掛ければ邪神様は声をかけてくださる。その後は普通に話をしていたけれど、緊急事態のため大声で叫んだ。
 すると、少し遅れて邪神様が話しかけてきてくださった。

『ア、アー……ァー。どうした、スグニーケよ?』
「邪神様? な、なにやら声が……?」

 かけられた声に若干の違和感を感じ、私はすぐに問いかける。
 何と言うか、相手が違う様な気がしたからだ。

『うむ、少し唄を歌いすぎて喉がおかしいだけだ。それで、どうしたのだ?』
「は、はい、ま……魔王が帰還しました」
『な、なんだとー? それはいちだいじではないかっ。して、スグニーケよ、おまえはどうするのだ?』

 …………なんだ? この邪神様のやる気のなさは……?
 何か、何か危険だと私の本能が囁いている気がする。……いや、邪神様を疑ってはいけない。
 だが、それなのに……。

『答えよ、スグニーケよ』
「っ!! は、はっ! 私はこれより、人間どもが安全と思っている国を襲い、魔族への怒りを高めさせようと思っております!!」

 そうだ。何を悩む必要があった。私の目的は邪神様の降臨だ。
 だったら、私独り……いや、モンスターを伴って、人間どもの負の感情を高めさせたら良いじゃないか。

『ほう? 期待しているぞ、スグニーケよ』
「ははぁ! 貴方様の降臨を心よりお待ち申し上げております!!」

 その言葉を最後に、邪神様の声は聞こえなくなった。
 とりあえず、どの国に攻撃を仕掛けるか……。

「そうだ。魔族の領域から遥かに離れた国……ハジメーノ王国を狙おう。あの国ならば日和見過ぎた人間どもばかりのはずだ」

 目的地を決め、私は森の中を駆け出していく。
 待っていろハジメーノ王国、私が貴様らに滅びを招いてやるからなっ!!
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