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異世界長編小説
村の聖女・セビィ_彼女の歌が終わるまで・・・
しおりを挟む歌うことは罪ですか?
――――――――――――――――――――
死ぬまでに叶えたい夢がある。
だから……
歌いてし止まん。
――――――――――――――――――――
・
とある辺境の村【エルメヒア村】で、村民として暮らしていた
異世界を旅する最後の日本人――タロウ。
昼は、村の共同で管理している畑を手伝い
夜は剣を両手に携え、村の警護団の男たちと一緒に交代で村の周囲を巡回する日々。
なぜなら、夜ごと村は魔物に脅かされ、闇の向こうから得体の知れぬ気配が忍び寄ってくるからだ。
夜の冷たい風が村外れを吹き抜ける中、タロウは巡回中、魔物と遭遇していた。
そんな最中、戦闘態勢に入った彼の背後から、聞き慣れた声が飛んでくる。
???:タロウ!
今日も私の歌を聴いてね!!
タロウ:無理するなよ。
――ホォォォォォォ!!!
目の前の魔物が咆哮を上げたが、その声は澄んだ歌声にかき消されるように潰え、魔物の身体は黒く崩れ落ちる。
セビィは胸元を押さえ、軽く息を整えてから振り返った。
???:ご清聴、ありがとうございました!
周囲にいた警護団のあちこちから拍手と歓声が湧き起こり、喜びの声が広がった。
タロウは拍手に加わらず、両手に剣を携えたまま一歩離れた場所で、ただ彼女の姿を静かに見つめていた。
彼女は、この村の近くで野垂れ死にしかけていた俺を救ってくれた存在。
――セビィ。
彼女は、歌で魔物の命を狩る村の聖女。
透き通る声が空気を震わせ、闇に潜む魔物たちは苦悶の叫びを上げ、地に伏して絶命させる。
村人たちはそれを……
――奇跡の歌
と呼んだ。
タロウ:奇跡の歌、ねえ……
セビィ:私の歌、嫌い?
タロウ:……正直に言ってもいい?
セビィ:うん?
タロウ:なんていうかさ。
セビィが歌ってるところを見てると……
セビィ:うん??
タロウ:村で飼ってる
鳥の「コカトリス」が、首を締められながら夜に鳴いてるみたいで……
セビィ:うんんん???
タロウ:カワイイよ!
セビィ:あ~っ!
そんなこと言うんだぁ~!?
だが村人たちは知らない。
その歌が、彼女自身の命を削っていることを。
・
タロウ:……無茶するなよ。
セビィ:じゃ、はい。
窓から差し込む月明かりが寝室を淡く照らす中、寝台に横になった彼女の傍らで、タロウは腰を下ろし、眠りかけたセビィの手をそっと握った。
セビィ:命を削ってでも歌うよ。
ここが、私の故郷で……
父と母、ご先祖様が眠っている場所だから……。
それに――
タロウと、お腹のこの子のためにも……ね?
タロウ:……そうだな。
セビィ:ねぇ、タロウ。
タロウ:なんだ?
セビィ:今日も、タロウの故郷の「ニニホン」の歌
教えて!
タロウ:いいよ……
じゃあ、今日は軍歌……
セビィ:軍歌じゃなくて、童謡教えて(笑)
セビィが歌うたびに、血の気は失われていく。
唇は白くなり、瞳は次第に人の色を失い、光を薄くしていった。
それでも彼女は、喉の痛みを押し殺し、息を整え、みんなの前では微笑みを崩さなかった。
そんな彼女を見つめながらタロウは、胸の奥で何度も湧き上がる、この村から遠くへ逃げたい衝動を押し殺し、唇が赤く腫れるまで唇を噛み噛みした。
タロウ:セビィが望んでいないからなぁ……
セビィの周りで村人たちが親しげに言葉を交わすその輪から一歩離れ、タロウは遠くに立ったまま、苦々しい思いでそれを眺めていた。
・
――ある夜
村を覆い尽くすほどの巨大な魔物と大規模な群れが村を襲撃した。
突然の襲撃に警護団の大半が抵抗することなく食い尽くされていく絶望……
村の教会に立て篭もり耐え凌ぐことに。
セビィは歌った。
大地は震え、空気は焼け、歌の抑揚に呼応するかのように、巨体から炎が揺らめく。
触れたものすべてを飲み込む無情な炎が、巨大な魔物を灰とし、崩れ落とした。
村は
――救われた。
ギャャャァァァアアアアアアアア!!??
突如、タロウの背後で咆哮が上がった。
獣の唸りにも似た呻き声に、人の声が絡みつき、喉を裂くようなその叫びの奥に、確かにセビィの声が混じっていた。
彼女の小さな身体を突き破るように、巨大で黒く変じた塊が現れる。
皮膚は裂け、骨は歪み、あらぬ方向に折れ曲がる。
血の匂いが立ち込め、朝焼けがその姿を残酷なほど鮮やかに照らした。
先ほどまで崇めていた存在を見て逃げ惑う村人たち。
悲鳴と恐怖が交錯する中で、タロウは両手の剣を強く握りしめ……
――彼女だった“バケモノ”と、向かい合った。
ダロ……ヴゥ……
ダロ……ヴゥ……
引き裂かれた声帯から、悲鳴とも呻きともつかぬ鋭く掠れた声が零れ落ちる。
旋律は崩れ、濁り、耳を塞ぎたくなるほど歪んでいた。
血に染まった夜明けの村で、
その壊れた歌だけが、誰にも届くことなく虚しく響き続けていた。
彼女だった“バケモノ”は、タロウの元にゆっくりと一歩を踏み出す。
ぐしゃり、と肉が擦れる音が静寂を引き裂く。
タロウは一歩も動かず、剣を納めて立ち続けた。
ウ…ザ……ギ
オイ……ジ
ガノヤ……マ
ゴブ……ナ
ズ…リシ……
ガ…ノ……カ……ワ
――ふるさと
それは、
いつの日か俺が教えた、日本の歌。
タロウ:日本語……上手くなったな……
タロウは、彼女だった“バケモノ”を抱きしめた。
彼女の身体から滲み出る黒い液体に触れ、痛みを感じながらも、
彼女の身体が灰のように崩れ、歌が終わるその瞬間まで……
・
彼女だった“バケモノ”――
いや、セビィを、タロウはたった一人で弔った。
村外れにある、草しか生えていない小さな丘。
人の寄りつかぬその場所で、彼は折れかけた剣を鍬代わりにし、地面を掘り進めていた。
刃が土と石を削るたび、乾いた音が静寂を裂く。
掘り終えた穴へ、灰となったそれを、両手でそっと流し込む。
指先から零れ落ちる灰は、まるで風に溶けるように、すぐ地面と一体になった。
祈りの言葉はなかった。
代わりに、朝の冷たい風が丘を吹き抜け、タロウの頬と髪を静かに撫で続けていた。
彼はしばらく、その場に膝をついたまま、目を伏せていた。
脳裏に浮かぶのは、記憶の中のセビィの顔。
人であった頃の、あの穏やかな表情。
やがて、最後の一掬いの土を手に取り、静かに灰の上へかぶせる。
小さな盛り土ができあがり、それが彼女の墓となった。
タロウ:……ありがとう。
あの日、野垂れ死にした俺を助けてくれれて……
それだけを口にして、彼はゆっくりと立ち上がった。
――ザリ……ザリ……
草を踏み潰す音が、複数、同時に響く。
一つではない。
丘の周囲、あらゆる方向からだ。
――グギャァァァ……
――ギィ……ギィィィ……
――ゴロロロロロ……
低く濁った声が幾重にも重なり、空気そのものが震える。
前、後ろ、左右。
どこを向いても、喉を鳴らし、歯を打ち鳴らす影が蠢いていた。
――ギシャァァァァァ!!
合図でもあったかのように、叫び声が一斉に跳ね上がる。
咆哮は輪となり、丘の中心に立つタロウを締め上げた。
逃げ道は、もうない。
不快で耳を刺す咆哮が、四方から押し寄せる。
気づけば、魔物らしき大群が丘を完全に包囲し、獲物を見るような視線で彼を見据えていた。
――ここは、セビィが眠る場所だ。
タロウ:貴様らに、ここを荒らされてなるものか。
タロウは折れかけの剣を両手で握りしめ、魔物たちを睨みつける。
刃は欠け、柄も軋んでいる。
震える顔に、腕に、足に、力を込め……
立ち上がった。
――――――――――――――――――――
死ぬまでに叶えたい夢がある。
だから……
歌いてし止まん。
――――――――――――――――――――
掠れた声が、夜気に溶けるように響いた。
それは歌とも祈りともつかない、か細い旋律だった。
次の瞬間、闇の中から魔物の群れが雪崩れ込むように襲いかかった。
――ゥ゛ルゥ゛ゥ゛ゥ゛ァァァアアアアアッ……ッ!!!!
牙が肩に食い込み、爪が脇腹の肉を引き裂いた。
血が噴き、視界が揺らぐ。
それでもタロウは剣を握り直し、倒れ込みながらも刃を振るった。
一体、また一体と魔物は斃れていく。
――――――――――――――――――――
誰も知らな(い/異)……世界で歌う……
叶えたい……
夢が……おうて……
――――――――――――――――――――
喉が裂け、声が途切れても、唇は動き続けた。
――――――――――――――――――――
死ぬまでに……
だから……
――――――――――――――――――――
歌が途切れたあとに、丘に残されたのは
無数の数多の魔物の死体
黒く煤けて滴る二本の剣、砕けた骨と肉片、引き裂かれた服の切れ端。
そして、人であったらしき何か――
傷だらけのフレームに、割れたガラスがかろうじて掛かったまま、そこに残っていた。
――――――――――――――――――――
丘の上に、草に半ば埋もれるようにして、小さな墓がひとつ佇んでいる。
長い年月を越えた風が吹き抜け、足元の草は静かに揺れていた。
墓の傍らには、忘れ去られた遺品のように、いくつかの物が無造作に残されている。
割れた眼鏡。
色の抜けた服の切れ端。
刃こぼれし、鈍く光る二本の剣。
それらはもう、誰のものであったのかを語らない。
墓石は低く、簡素で、
表面には一つの名前が刻まれていた。
――セビィ。
そして、裏面には、かすれながらも、こう刻まれている。
▢ 聖女
▢ 歌にて村を護りし者 セビィ
▢
▢ 夜ごと歌い
▢ 魔を退け
▢ 人が眠れるようにした
▢
▢ だが
▢ ここに眠るのは
▢
▢ 歌を愛し
▢ 歌に愛された
▢ 村の女の子 セビィ
▢
▢ どうか 忘れないで欲しい
風に削られ……
苔に覆われながら……
その言葉だけは、消えずにそこに在り続けていた。
タロウ:……そうか
またこの異世界に訪れたのか……
彼は墓の前に立ち、ゆっくりと片手を伸ばして、冷たい墓石にそっと触れる。
その隣で、この村の子孫である少女――セビィリアス
が、両手で抱えた小さな花束を供えた。
セビィリアス:ねぇ、ねぇ!
タロウ!
村長やお母さん、お父さんが聖女様が眠る
神聖な丘とか言っていたけど……
本当に眠っているのかなぁ?
タロウは墓を見つめ、壊れかけの眼鏡をそっと掛け直す。
タロウ:その通り。
ただの歌が好きな村の女の子がここに眠っているだけだよ。
――――――――――――――――――――
歌いてし止まん……
――――――――――――――――――――
セビィリアス:何か、変なウタァ~( ̄▽ ̄)~
タロウ:よく言われるよ!
娘よ!!
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