最後の日本人・タロウの物語

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異世界長編小説

翼の一族の少女・セビィ_魔物の塔に囚われた翼

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いつかあの空を……飛べるのかなぁ?

――――――――――――――――――――
死ぬまでに叶えたい夢がある。
だから……
羽ばたきてし止まん。
――――――――――――――――――――



???:セビィ……殺すの?

――魔物が巣食う塔の最上階。
夜風が吹き抜ける石造りの円形の部屋は、月明かりだけが静かに床を照らしていた。

その部屋には、背に白い翼を持つ少女が、冷たい鉄の鎖で両手両足を拘束されていた。
薄絹のワンピースは裂け、羽根の付け根には黒く乾いた血がこびりついている。
床には、抜け落ちた羽毛がいくつも散っていた。
彼女の白い翼は付け根から引き裂かれ、その傷跡が囚われの日々を静かに物語っていた。

タロウ:いや、そうじゃない。
    ……ここから、逃げたいか?

セビィ:セビィ……ここから出られるの?

タロウは無言で頷き、両手に握った剣を振り上げる。
刃が鎖へ叩きつけられ、金属の悲鳴が塔内に反響した。
白く透き通る肌には拘束の跡が赤黒く残り、その痛々しさに胸が締めつけられる。
鎖は一つ、また一つと砕け散り、断面から淡い光が滲み出した。

最後の鎖が床に落ちた瞬間、塔の奥底から低い唸りが響く。
まるで長く閉じ込められていた何かが解き放たれたかのように、空気が重く震えた。
石段を砕きながら、巨大な存在が迫ってくる音が階下から近づいてくる。

アリア:セビィ……逃げられない……ここから……

タロウ:大丈夫だ!
    俺があいつらをぶち回す!!

セビィの腕を引き寄せ、背後へと押しやる。
自分の体を盾にするように前へ踏み出し、魔物が現れるであろう方向に向けて両手に剣を構えた。

壁が内側から砕け散り、粉塵の中から巨大な魔物が姿を現す。

タロウは微動だにせず、セビィを背に庇ったまま、その影を真正面から睨み据えた。

鋭い爪と刃がぶつかり合い、火花が暗闇に散る。

砕けた壁の奥から次々と魔物が這い出し、咆哮と足音が部屋を埋め尽くした。
衝撃のたびに床石が割れ、塔全体が軋んだ。



タロウとセビィは、塔の最上階の縁へと追い詰められた。

魔物の群れが隙間なく迫り、逃げ場を塞ぐように殺到した。
その奥で、他を押し退けるように異様な影が動き、重い足音が一段低く響いた。
巨体の魔獣が低く唸り、床を蹴り上げ、突進し、鈍い衝撃が全身を打ち、剣ごと弾き飛ばされる感覚が走り、瓦礫ごとタロウの身体を押し出した。

――ぐあっ!?

視界が反転し、夜空が広がる。
月と星が滲み、タロウの身体が宙へ放り出された。

セビィ:タロウ!

月光を受け、白く透き通る翼が大きく広がる。
細い腕が必死に彼の身体を抱き寄せ、急降下しながら何度も羽ばたく。
風を切る音と共に落下の勢いが和らぎ、二人は空中で体勢を整えた。

タロウ:……逆に助けられたなぁ~
    ありがとう!!

セビィ:むむむむっ!

セビィは唇をきゅっと結び、震える腕に力を込めてタロウを抱え直し、離すまいとしがみつく。
二人が後ろを振り返ると、背後の塔は闇の中で崩れ始めていた。
魔物の咆哮は遠ざかり、やがて静寂だけが残る。
セビィは、朝日が昇る方角へと飛び立った。



???:それから?それから?
    パパとママ、結婚したの?

セビィ:そうよ!
    セビィリアス!!
    あの時、パパが私を囚われていた塔から助け出してくれて
    一緒に私の故郷の「空の諸島」まで旅をしたの。
    それから……色々あって……結婚したのよ!

セビィリアス:ケッコン!
       ケッコン!!
       ケッーーーコン!!!

セビィ:そう、そう!
    結婚したのよね!!
    タロウ?

柔らかな陽光が差し込む家の中。
白い羽根がふわりと舞うリビングで、少女が目を輝かせている。
窓の外には浮遊する島々と澄んだ青空が広がっていた。

タロウ:娘よ!
    ママと何の話をしているの?

セビィリアス:パパとママのラブラブのハナシ聞いているの?

タロウ:ラブラブ?

セビィ:この子は、パパとの馴れ初めの話を聞いているのよ。

タロウ:また、これは恥ずかしいお話を……

セビィの美しい羽を、タロウとセビィの間に生まれた娘・セビィリアスが無邪気に撫でる。
ふわふわとした羽毛は陽の匂いを含み、穏やかな眠気を誘った。
暖かな午後の空気と、家族の笑い声。
それらが溶け合い、意識がゆっくりと遠のいていく。

セビィリアス:あ~っ!
       パパ、お昼なのに、ソファ、寝そうになるぅ~!!
       遊んでよ!!
       ……あれ?
       みんな、後ろ、羽、あるのに、パパ、ないの?

セビィ:パパは、人間なのよ?

セビィリアス:人……間?

セビィ:そう、人間だから私たち翼の一族とは違ってよく寝るのよ。

二人のやり取りを、薄れゆく視界の奥に焼き付ける。
それは……
美しい……思い出だった。

まぶたが、自然と重くなっていく。
抗うことができず、健やかに目を閉じた。
胸の奥がじんわりと温かく、身体の力が少しずつ抜けていく。

深い水に身を委ねるような心地よさの中で、意識はゆっくりと遠ざかる。










どうやら、俺は死んだらしい。

理由は、わからない。

苦しまずに……死んだのだろうか?

もう二度と会えない2人のことを、ひたすら思い出す。

──セビィ
──セビィリアス

どうか、俺が死んでも幸せに……
その願いを抱いたまま、ひたすら暗闇に溶けるような世界を惑いながら彷徨う

――忘れたくない……なぁ……

二人の顔が浮かんでは……消えてゆく……
二人の声を想い出しては……反響して遠ざかる……
二人の暖かさを思い出しては……冷たくなる……

意識はさらに静かに薄れていく。

──嫌だ……
──いやだ……
──イヤダ……



時計の音がする
目を開けると・・・そこは・・・異世界だった。

俺は、また一人ぼっちになった。
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