おじょうさまとごえい

ハフリド

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17. 雨の姫

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傘一つで空を飛ぶ。

というのは常識的に考えてそれなりの怖さがある行為だと思うのだが、由貴子の反応にその色は全くなかった。

「もう、終わりなの。もっと飛んでいたかったわ」

むしろ楽しんでいたかったらしい。

もっとも傾斜のゆるやかな屋根に降り立った由貴子はそっと腰を下ろした。自分の膝にバスケットを置く。那由が傘をたたんだ。それを預かる。その横に那由が座る。

月之宮家の敷地は高台にあるため、街の灯りを見下ろす形になる。無意識に自分の家をさがす那由の横顔を、由貴子は見つめた。預かっていた傘を脇に置き、隣に座る少女に手を伸ばす。頬に触れた指は拒否されない。

そのまま唇に触れる。

那由が不思議そうな視線を向ける。

この人はなにをしているのだろうか。という不思議そうな目がなんとも心地よい。

「那由――」

横にいる少女の名前を読んだときだった。

『ごめんなさい!』

聞いたことのある声が、二人の――より正確に言えば、二人とその周囲にいる護衛たちの頭に響いた。

その声には聞き覚えがある。

静久。

雨の姫として、鬼たちに――少なくとも形式上は――かしずかれている少女の声である。

『ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! でも、もういやなの! もう限界なの! 夢の中であっても、これ以上殺されたくないの! 眠りたいの! 死にたくないの! 死にたいの! 殺されたくないの! 殺されたいの!』

悲痛な声がこだまする。

そして。

『ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい――ごめんなさい』

最後の一言に重なるように、一滴の雨が落ちた。

それが雨の姫による攻撃であると看破した者はいた。

だが対応するだけの時間は得られなかった。

熟練の者たちが練り上げた結界は、年端もゆかない少女の天性の力だけで突破された。

天から落ちた雨粒が、月の姫とその隣にいる少女に落ちた。

わずか数秒の通り雨。

痕跡すら残らないようなその雨に打たれた二人の少女は、屋上から消えた。
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