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22決着
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リチャード様はテーブルに置かれた解毒薬を手に取ると、中身を確かめてから、私に飲ませてくれた。それから、いつの間にか手にしていたナイフで、手早く腕と脚の縄を切る。
「よし、これで大丈夫だ。しばらくは身体が熱いかもしれないが」
「リチャード様、ご無事なのですね・・・?」
そこには、先ほどまでの、熱に浮かされたような表情はもうない。落ち着いて穏やかな、いつものリチャード様だ。
「ああ、すまない。嫌な思いをさせたね」
私の乱れた髪を直しながら、申し訳なさそうに微笑んだ。
「な、なぜじゃ・・・?!」
先ほどよりもきつく縛り上げられ、再び床に転がされたファティマ皇女がうめいた。
「もう息も絶え絶えだったではないか。好きにしてくれ、と懇願しておったではないか!なぜあの状態から、こんなことになるのじゃ?!」
リチャード様は、ゆっくりとファティマ皇女のほうを見やり、淡々と答えた。
「僕に媚薬は効かない」
「な、なんじゃと?」
「ずいぶんと若い頃から、強引に迫られることが多かったからね。ありとあらゆる媚薬に身体を慣らしてある。もちろんさっきの薬もね」
「そ、そんなことができるわけが・・・」
「できるさ。現に僕は正気だ」
うう、とうめき声を発して、皇女は言葉を継げなくなった。媚薬の効果に絶対の自信を持っていたようだから、崩れた時のことなど考えたこともなかったのだろう。
「さあ、行こう、グレイス。ご両親と兄君がお待ちだ」
「無事だったのですね?!」
ああ、よかった!覚悟は決めていたけれど、本当は気が気じゃなかったから。
「ああ。早く会いに行こう。僕のせいで怖い目に合わせたことをお詫びして、それから結婚のご挨拶だ」
結婚、挨拶・・・!そうだった。これから進めないといけないことがたくさんある。
お父さまお母さま、びっくりなさるでしょうね。特にお兄様が心配だわ。ロイドと婚約したときは、ぼくは認めない!と大騒ぎだったもの。
結婚、という言葉を聞いて、ファティマ皇女が喚く。
「そんな小娘のどこがよいのじゃ?!わたくしを娶れば、ザッハールがその手に入るのじゃぞ?!」
だけれどリチャード様は、眉ひとつ動かさずに答える。
「そんなものに興味はない」
「なんじゃと?」
「ザッハールが欲しければ、自分で手に入れる。わざわざ婚姻などという煩わしい手段を使わなくてもね。だけど、そんなもの欲しくもないよ」
「なっ、なぜじゃ!ザッハールには世界のありとあらゆる富が集まる。ザッハールを手にするは、世界を手にすることじゃぞ?!」
「ザッハールに、僕がほしいものはない」
「な、なに?」
訳が判らず声を上げるファティマ皇女に、リチャード様は淡々と答える。
「そこに、グレイスはいないからね」
「・・・?!」
「グレイスのいない国など、手に入れても何の価値もない。国を落とせば彼女が手に入ると言うなら、そうするだけ。そういうことさ」
これには私も飛び上がった。国王陛下ともあろう方が、大国よりもただの貴族の娘の方に価値がある、とおっしゃるの?!
ファティマ皇女は、もはやうめき声さえ出せずに黙り込んでしまった。王族という身分だけに価値を見出すこの方には、おそらく全く理解できない言葉だったろう。
だけど、完全に拒絶されたことはわかった。呆然として、無言で空を見つめている。
リチャード様を想う気持ちには偽りがないと思うから、私は胸が痛んだ。けれど、私の同情など、この方をを傷つけるだけだろう。
「さ、行くよ、グレイス。迎えが来る頃だ」
リチャード様もそう思ったのか、それ以上は言葉をかけず、ドアの方へ向かう。
あっ、そうだわ。ここ、敵陣の真っ只中だった・・・!
リチャード様があまりにあっさりドアを開けたので、私は焦ったけれど、敵が殺到してくることはなかった。
「心配ない。屋敷内はすでに制圧してるころだ。ほら、迎えがきたよ」
数名の足音がして、ローザン兵が姿を現した。様子からして、ひと乱闘あった後のようだ。
「陛下、屋敷内外ともに、完全に我らの支配下に置いてあります!」
上官らしき人物が、敬礼しながら報告する。
「ご苦労さま。君たちは、あそこで伸びてる奴隷商と皇女さまを頼むよ」
そういうとリチャード様は、私の方に歩いてきて、抱え上げてしまった。
「えっ!?あの、リチャード様?私、私歩けますからっ!」
「ダメだ。身体にダメージがあるかもしれないし、疲れてるだろう。僕が抱いて行く」
そうして私は、有無を言わされず、敬礼しながら見守る兵士たちの間を、リチャード様に抱きかかえられて通るハメになったのだった。
「よし、これで大丈夫だ。しばらくは身体が熱いかもしれないが」
「リチャード様、ご無事なのですね・・・?」
そこには、先ほどまでの、熱に浮かされたような表情はもうない。落ち着いて穏やかな、いつものリチャード様だ。
「ああ、すまない。嫌な思いをさせたね」
私の乱れた髪を直しながら、申し訳なさそうに微笑んだ。
「な、なぜじゃ・・・?!」
先ほどよりもきつく縛り上げられ、再び床に転がされたファティマ皇女がうめいた。
「もう息も絶え絶えだったではないか。好きにしてくれ、と懇願しておったではないか!なぜあの状態から、こんなことになるのじゃ?!」
リチャード様は、ゆっくりとファティマ皇女のほうを見やり、淡々と答えた。
「僕に媚薬は効かない」
「な、なんじゃと?」
「ずいぶんと若い頃から、強引に迫られることが多かったからね。ありとあらゆる媚薬に身体を慣らしてある。もちろんさっきの薬もね」
「そ、そんなことができるわけが・・・」
「できるさ。現に僕は正気だ」
うう、とうめき声を発して、皇女は言葉を継げなくなった。媚薬の効果に絶対の自信を持っていたようだから、崩れた時のことなど考えたこともなかったのだろう。
「さあ、行こう、グレイス。ご両親と兄君がお待ちだ」
「無事だったのですね?!」
ああ、よかった!覚悟は決めていたけれど、本当は気が気じゃなかったから。
「ああ。早く会いに行こう。僕のせいで怖い目に合わせたことをお詫びして、それから結婚のご挨拶だ」
結婚、挨拶・・・!そうだった。これから進めないといけないことがたくさんある。
お父さまお母さま、びっくりなさるでしょうね。特にお兄様が心配だわ。ロイドと婚約したときは、ぼくは認めない!と大騒ぎだったもの。
結婚、という言葉を聞いて、ファティマ皇女が喚く。
「そんな小娘のどこがよいのじゃ?!わたくしを娶れば、ザッハールがその手に入るのじゃぞ?!」
だけれどリチャード様は、眉ひとつ動かさずに答える。
「そんなものに興味はない」
「なんじゃと?」
「ザッハールが欲しければ、自分で手に入れる。わざわざ婚姻などという煩わしい手段を使わなくてもね。だけど、そんなもの欲しくもないよ」
「なっ、なぜじゃ!ザッハールには世界のありとあらゆる富が集まる。ザッハールを手にするは、世界を手にすることじゃぞ?!」
「ザッハールに、僕がほしいものはない」
「な、なに?」
訳が判らず声を上げるファティマ皇女に、リチャード様は淡々と答える。
「そこに、グレイスはいないからね」
「・・・?!」
「グレイスのいない国など、手に入れても何の価値もない。国を落とせば彼女が手に入ると言うなら、そうするだけ。そういうことさ」
これには私も飛び上がった。国王陛下ともあろう方が、大国よりもただの貴族の娘の方に価値がある、とおっしゃるの?!
ファティマ皇女は、もはやうめき声さえ出せずに黙り込んでしまった。王族という身分だけに価値を見出すこの方には、おそらく全く理解できない言葉だったろう。
だけど、完全に拒絶されたことはわかった。呆然として、無言で空を見つめている。
リチャード様を想う気持ちには偽りがないと思うから、私は胸が痛んだ。けれど、私の同情など、この方をを傷つけるだけだろう。
「さ、行くよ、グレイス。迎えが来る頃だ」
リチャード様もそう思ったのか、それ以上は言葉をかけず、ドアの方へ向かう。
あっ、そうだわ。ここ、敵陣の真っ只中だった・・・!
リチャード様があまりにあっさりドアを開けたので、私は焦ったけれど、敵が殺到してくることはなかった。
「心配ない。屋敷内はすでに制圧してるころだ。ほら、迎えがきたよ」
数名の足音がして、ローザン兵が姿を現した。様子からして、ひと乱闘あった後のようだ。
「陛下、屋敷内外ともに、完全に我らの支配下に置いてあります!」
上官らしき人物が、敬礼しながら報告する。
「ご苦労さま。君たちは、あそこで伸びてる奴隷商と皇女さまを頼むよ」
そういうとリチャード様は、私の方に歩いてきて、抱え上げてしまった。
「えっ!?あの、リチャード様?私、私歩けますからっ!」
「ダメだ。身体にダメージがあるかもしれないし、疲れてるだろう。僕が抱いて行く」
そうして私は、有無を言わされず、敬礼しながら見守る兵士たちの間を、リチャード様に抱きかかえられて通るハメになったのだった。
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