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本編後
希未・第7話
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転職してから初めての飲み会で緊張していたこともあって、私は開始早々に少しのお酒でほろ酔いになってしまった。
「藤本さんってお酒弱いんですね。あんまり飲まないの?」
「はい。お酒は数年ぶりに飲みました」
「それじゃあ久しぶりだったんですね。旦那さんと晩酌したりしないんですか?」
「彼は飲みますけど、飲んでもビールをひと缶くらいで…あまり家では飲まないですね。仕事の付き合いでは結構飲むみたいですけど」
「そうなんだ~」
「私には考えられない生活ですね」
「ハハ、リーダーは酒豪ですもんね」
「私もお酒がないとダメ!飲まないと1日終われないー!」
「海部(あまべ)さんもお酒好きだよね~」
他愛ない話から仕事の話にもなり、気がついたら2時間近く経っていた。
席の時間もあったのでお開きになり、ぞろぞろと居酒屋を出る。
私はビールを1杯と、オレンジとピーチのサングリアを1杯ずつ飲んだだけでふらついていた。
先輩が心配して声をかけてくれたので笑顔で答える。
「大丈夫ですよ。ちょっとふわふわしているだけですから」
「結構酔ってますよそれ。2次会はやめた方がいいですね。藤本さんのお家どの辺でしたっけ?」
「電車で10分くらいです」
「僕、同じ方向なんで途中まで一緒に帰りますよ」
「私も駅までなら!一緒に帰ろう?藤本さん」
酔って更に陽気になった海部さんがぎゅっと私を抱きしめた。
彼女の声を聞いていたらなんだか楽しくなってきて、私もふふっと笑い声がもれてしまう。
「あったかい…海部さん」
「そんな藤本さんは可愛いよお~!このままお持ち帰りしたいっ」
「発想が男だよ海部さん」
「僕が言ったらセクハラですよね。言いませんけど」
「あはは、私おじさんですから~!」
「こらこら、海部さん。絡みすぎだよ。引き剥がして、波柴さん」
「仰せつかまつりました」
「でた、武士口調」
「波柴さんも酔ってるなー」
賑やかな笑いに包まれていると、なんだか私もとても楽しい気持ちになってくる。
こんなふうに晴れやかな気持ちで職場の人達と笑い合えるのも水城があの日助けてくれたおかげだと思うと、無性に彼に会いたくなった。
「希未」
会いたいと思っていた時にちょうどよく水城の声が聞こえたような気がして振り返る。
幻聴のような気がしていたけど、少し離れた先に本当に水城がいて驚いた。
仕事帰りにまっすぐ来てくれたのかスーツ姿のままで、歩く姿も格好良くて見惚れてしまう。
もしかしなくても迎えに来てくれたのだろうか。
そう思ったら物凄く嬉しくて、会社の人の前なのにだらしなく頬がにやけた。
小走りになって駆け寄ったら彼は少し驚いたようだったけど、両手で私の肩を受け止めてくれた。
「水城っ…どうしてここにいるの?迎えにきてくれたの?」
「ああ。店の名前教えてくれてたからな。結構飲んだのか?」
「ううん。そんなに飲んでないよ」
「そうか…弱かったんだな」
ぽんぽんと頭を撫でてくれる水城の手が心地よくて、無意識にすり寄ってしまう。
普段なら人前で甘えるなんて恥ずかしくてできないのに、気にならないのはお酒のせいだろうか。
彼は何も言わずに目を細めると、少し離れたところにいるみんなの傍まで近づいて頭を下げた。
「初めまして、藤本の夫です。妻がお世話になっています」
「あ…ええ、こちらこそ…お世話になってます」
予期せぬ展開にみんな呆気に取られたような反応をしている。
何の前触れもなく後輩の身内が迎えに現れたからかも知れない。
「すみませんが彼女はここで失礼します。介抱していただいてありがとうございました」
「あっ…みなさん今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
「気をつけて帰ってくださいね」
「また月曜日にね~」
頭を下げるとみんなにこやかに見送ってくれた。
人が多いからと水城が手を繋いでくれて、2人で停めてある車まで移動する。
私は水城が傍にいてくれることが嬉しくて、ずっと頬が緩みっぱなしでいた。
車の中でもじっと横顔を見つめていたら、「そんなに見られたら穴が開く」と言われて頬をつつかれた。
伸ばされた大きな手を捕まえて握ってみるけど、彼は苦笑いを浮かべるだけで拒否はしない。
酔っている今なら普段は絶対にしないようなお願いも素直にできそうな気がしてきた。
「みずき」
「んー?」
「私ね…水城と、したいな」
「何を?」
「……」
勇気を出して誘ってみたけど全然伝わらない。
少しがっかりしたけど、お酒で気が大きくなっていた私は諦めずにチャレンジした。
今度はちゃんと伝わるように今までしたことのない大胆な行動に出る。
運転中の水城に手を伸ばして股間の膨らみにそっと触れると、彼は驚愕して一瞬私を振り向いた。
「こういう、こと…」
「…大分酔ってるな。まだ家まであるから少し寝な。着いたら起こすから」
せっかく頑張ってみたのに、気の迷いだと思われて諭すように頭を撫でられてしまった。
本気にしてもらえなかったことが悲しくて俯く。
子どものように少し唇を尖らせて拗ねていると、赤信号で覗き込むようにキスをされた。
「…可愛いすぎ。久しぶりだし、酔ってるからって手加減できないからな」
いつの間にその気になったのか、ギラついた視線を向けられてドキッとする。
私達は目的地を自宅からホテルに変更した。
「藤本さんってお酒弱いんですね。あんまり飲まないの?」
「はい。お酒は数年ぶりに飲みました」
「それじゃあ久しぶりだったんですね。旦那さんと晩酌したりしないんですか?」
「彼は飲みますけど、飲んでもビールをひと缶くらいで…あまり家では飲まないですね。仕事の付き合いでは結構飲むみたいですけど」
「そうなんだ~」
「私には考えられない生活ですね」
「ハハ、リーダーは酒豪ですもんね」
「私もお酒がないとダメ!飲まないと1日終われないー!」
「海部(あまべ)さんもお酒好きだよね~」
他愛ない話から仕事の話にもなり、気がついたら2時間近く経っていた。
席の時間もあったのでお開きになり、ぞろぞろと居酒屋を出る。
私はビールを1杯と、オレンジとピーチのサングリアを1杯ずつ飲んだだけでふらついていた。
先輩が心配して声をかけてくれたので笑顔で答える。
「大丈夫ですよ。ちょっとふわふわしているだけですから」
「結構酔ってますよそれ。2次会はやめた方がいいですね。藤本さんのお家どの辺でしたっけ?」
「電車で10分くらいです」
「僕、同じ方向なんで途中まで一緒に帰りますよ」
「私も駅までなら!一緒に帰ろう?藤本さん」
酔って更に陽気になった海部さんがぎゅっと私を抱きしめた。
彼女の声を聞いていたらなんだか楽しくなってきて、私もふふっと笑い声がもれてしまう。
「あったかい…海部さん」
「そんな藤本さんは可愛いよお~!このままお持ち帰りしたいっ」
「発想が男だよ海部さん」
「僕が言ったらセクハラですよね。言いませんけど」
「あはは、私おじさんですから~!」
「こらこら、海部さん。絡みすぎだよ。引き剥がして、波柴さん」
「仰せつかまつりました」
「でた、武士口調」
「波柴さんも酔ってるなー」
賑やかな笑いに包まれていると、なんだか私もとても楽しい気持ちになってくる。
こんなふうに晴れやかな気持ちで職場の人達と笑い合えるのも水城があの日助けてくれたおかげだと思うと、無性に彼に会いたくなった。
「希未」
会いたいと思っていた時にちょうどよく水城の声が聞こえたような気がして振り返る。
幻聴のような気がしていたけど、少し離れた先に本当に水城がいて驚いた。
仕事帰りにまっすぐ来てくれたのかスーツ姿のままで、歩く姿も格好良くて見惚れてしまう。
もしかしなくても迎えに来てくれたのだろうか。
そう思ったら物凄く嬉しくて、会社の人の前なのにだらしなく頬がにやけた。
小走りになって駆け寄ったら彼は少し驚いたようだったけど、両手で私の肩を受け止めてくれた。
「水城っ…どうしてここにいるの?迎えにきてくれたの?」
「ああ。店の名前教えてくれてたからな。結構飲んだのか?」
「ううん。そんなに飲んでないよ」
「そうか…弱かったんだな」
ぽんぽんと頭を撫でてくれる水城の手が心地よくて、無意識にすり寄ってしまう。
普段なら人前で甘えるなんて恥ずかしくてできないのに、気にならないのはお酒のせいだろうか。
彼は何も言わずに目を細めると、少し離れたところにいるみんなの傍まで近づいて頭を下げた。
「初めまして、藤本の夫です。妻がお世話になっています」
「あ…ええ、こちらこそ…お世話になってます」
予期せぬ展開にみんな呆気に取られたような反応をしている。
何の前触れもなく後輩の身内が迎えに現れたからかも知れない。
「すみませんが彼女はここで失礼します。介抱していただいてありがとうございました」
「あっ…みなさん今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
「気をつけて帰ってくださいね」
「また月曜日にね~」
頭を下げるとみんなにこやかに見送ってくれた。
人が多いからと水城が手を繋いでくれて、2人で停めてある車まで移動する。
私は水城が傍にいてくれることが嬉しくて、ずっと頬が緩みっぱなしでいた。
車の中でもじっと横顔を見つめていたら、「そんなに見られたら穴が開く」と言われて頬をつつかれた。
伸ばされた大きな手を捕まえて握ってみるけど、彼は苦笑いを浮かべるだけで拒否はしない。
酔っている今なら普段は絶対にしないようなお願いも素直にできそうな気がしてきた。
「みずき」
「んー?」
「私ね…水城と、したいな」
「何を?」
「……」
勇気を出して誘ってみたけど全然伝わらない。
少しがっかりしたけど、お酒で気が大きくなっていた私は諦めずにチャレンジした。
今度はちゃんと伝わるように今までしたことのない大胆な行動に出る。
運転中の水城に手を伸ばして股間の膨らみにそっと触れると、彼は驚愕して一瞬私を振り向いた。
「こういう、こと…」
「…大分酔ってるな。まだ家まであるから少し寝な。着いたら起こすから」
せっかく頑張ってみたのに、気の迷いだと思われて諭すように頭を撫でられてしまった。
本気にしてもらえなかったことが悲しくて俯く。
子どものように少し唇を尖らせて拗ねていると、赤信号で覗き込むようにキスをされた。
「…可愛いすぎ。久しぶりだし、酔ってるからって手加減できないからな」
いつの間にその気になったのか、ギラついた視線を向けられてドキッとする。
私達は目的地を自宅からホテルに変更した。
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