十の加護を持つ元王妃は製菓に勤しむ

水瀬 立乃

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ルフナ

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太陽が真上に移動した頃、お祭り会場の広場では旅芸人達による見せ物が始まっていた。
出店が並ぶ通りにも次第に人の数が増えてきている。
一人で店番をしていたマロアは、最後尾のお客に笑顔で商品を渡すと、通りを歩く人々を何気なく眺めた。
いつもと少しだけ違う光景に首を傾げていた時、出店の裏に人影が射した。

「母さん、お疲れ」
「あら、ルフナ。早かったじゃない。どうしたの?」

やってきた男の子は、まだあどけなさの残る顔でにこりと笑った。
正式な名前は『ルーフェナハト』。私の息子だ。
名前が長いので皆からルフナと呼ばれ、本人も公式の場以外ではルフナと名乗っている。
ルフナはマロアにとっても息子のような存在で、彼女が結婚するまでは2人で育てていた。
彼は勝手知ったる様子で箱の中からエプロンを取り出す。

「理由はわからないけど王都から騎士団が来てて、祭りの巡回も騎士団が担当することになったんだ」
「ふうん…何かあったのかしらね?やけに騎士が多いなとは思ったのよ」
「さあ?俺らは何にも聞かされてないからわからないや。とにかく今日はもう手伝えるから、母さんは休憩してきたらいいよ」

慣れた手つきでエプロンを身に付けたルフナは、にこっと笑ってマロアの肩をぽんと叩いた。
そして店の前に回って、真剣な顔で並べてある商品をひとつひとつ確認していく。

「シフォンとデイムとプリンシア、ね」
「デイムはそれぞれ2枚ずつ、全部で10枚入ってるわ。プリンシアは6枚入り。値段は同じ300コーゼよ」
「了解。わかりやすくっていいね」
「それじゃあちょっとお願いしようかしら。休憩がてらステアの様子を見てくるわ」
「うん。母様とゆっくりしてきてよ」

ルフナはマロアのことを『母さん』、私のことを『母様』と呼んでいる。
そうしろと言ったわけではないのだけれど、いつの間にかそれが普通になっていた。
2年くらい前にギニギル村の警備隊に入隊したけれど、休みの日や早く仕事が終わった時はこうしてお店を手伝ってくれる。
もうすぐ17歳の誕生日で、顔にはまだ幼さが残るものの、体は鍛えているからかしっかりと大人の男性に近づいている。
小さなことにも気がついて助けてくれるし、頼もしい限りだ。

母親が2人いるという特殊な環境だったせいか、ルフナは幼い頃から「父親の代わりに俺が母様達を守る」と使命感を燃やしていたように思う。
父親がいないことを何故かと問われたのは一度だけ。
いないことを寂しく思っていたかも知れないけれど、嘆いている声を聞いたことはない。
年頃になってもこうして小さな頃と変わらずに接してくれるのは、母としてはとても嬉しいものだ。
マロアにとってもそれは同じなのだろう。
ひらひらと手を振って見送るルフナに笑顔で手を振り返して、店に続く坂道を上っていった。
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