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第2話(2)

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時計の針が0時を過ぎても、十和子は帰って来なかった。
母親にもう一度連絡をしてみたが、来ていないし電話をしても繋がらなかったらしい。
綾史は意地になってベッドに入ったが、十和子のことが気になっているせいか数時間後に目が覚めてしまった。


(着信は……ない、か…)


もう何十回も十和子に電話をして、メッセージも送り続けている。
それなのに彼女は夫からの連絡を無視し続けている。
こんなことは初めてだった。


(なんなんだよ…本当にバレたのか?今までだって礼良の世話するって出掛けたり、泊って帰ったことだってあったのになんで…。どこで疑われた?何がいけなかったんだ?)


美舞とのことは十和子に上手く隠せていると思っていた。
だがもしかするとそれは勘違いだったのかも知れない。
もし十和子がすべてを知っていた上で黙認してきたのなら、いつこうなってもおかしくはなかった。
そうとも知らずにショッピングモールにふたりを置き去りにして、自ら浮気を確信させる要因を作ってしまった。


(あのときの十和…元気なかったな)


帰り際の十和子の様子を思い返してみると、彼女はどこか暗い顔をしていた。
寿真の世話を全部任せきりにしてしまっていたことに、今更ながらに気が付く。
エニコランドで綾史は美舞達と思い切りアトラクションを楽しんだが、十和子は寿真がいるからと見ているばかりだった。
昼食のときも夕食のときも、十和子とまともに会話をした記憶がない。
自分達のようにはしゃぎ回ったわけではないから元気が有り余っているだろうと決めつけていたが、彼女も疲れていたのかも知れない。


(確かに十和子と寿真のことは二の次にしてた。だからって家出するなんて…)


過去の行動を悔やんだところで、時間が巻き戻ることはない。
綾史は溜息を吐きながら、十和子が喜びそうな言葉を考えてスマホに打ち込んだ。


《ごめん十和子。いつも寿真の世話ありがとう。
これからは俺も手伝うようにするから。
帰ってきたら話し合う時間を作ろう。》


(これでいいか。はあ…めんどくさ…)


メッセージを送信し終えた綾史は、自分の気持ちを認めたくなくて、投げ遣りにスマホをベッドの上に放った。
十和子に無視されていることをこんなにも気にしている自分に。
十和子に嫌われたかも知れないと怖がっている自分に。
このままふたりが帰らず、二度と会えなくなることを恐れている自分に。
仕事での失敗ならいくらでも割り切れるのに、十和子のことになると上手くいかない。
ややしばらくして、綾史は反応のないスマホを拾い上げた。
十和子とのやり取りを遡って読み返してみる。
彼女は本当にこまめに返信をしてくれていた。
綾史が返事をしなくてもそのことを責めるようなことは言わなかったし、仕事で疲れている夫のことをいつも労って、どんなことにも寛容だった。


(なんで帰って来ない?今どこで何してるんだ?なあ…返事してくれよ)


スマホの不具合でメッセージを読めない状況なのか、あえて読もうとしていないのかはわからない。
今送ったメッセージが彼女のこころに響くかどうかも定かではないが、全くの嘘でもないので読んでもらいたいとは思う。
一昨日までと同じように返信がくることを願いながら。

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