『海色の町』シリーズ3部作

紬 祥子(まつやちかこ)

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第1話~波のうた~

誠広さん(6)

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             ◇

 その日以降、同じ場所で誠広さんとは何度も会った。
 正確に言うと、来ていないかなとほぼ毎日通っていたのだけど、誠広さんはいつも同じ時間に来ているわけではなかった。来てない日もあったかも知れない。
 それに、宿題のノルマが思うように進まなくて、夕方までかかった日は行けなかった。家から海岸までは少し遠い。帰りが夕食に間に合わないと母さんが判断する場所に、夕方から行くのはダメなのだ。
 だから、それから2週間の間に会えたのは、4回か5回ぐらいだった。
 誠広さんはいつも、最初に会った時と同じように、海を描いていた。会えるのはたいてい晴れた日で、1時間ぐらいスケッチして帰っていく。色を塗るのは家でやるのだと言っていた。
 帽子をかぶっていてもやっぱり、真夏の日差しは強くて暑い。確かにずっと外にいるのは辛いだろう。
 それに留守番させている奥さんが気になるのかも知れない。ある日そう聞いてみると、誠広さんは「まいったな」というような、照れくさそうな表情をした。
 少しずつ話をする中で、奥さんのことも教えてもらった。雪乃ゆきのという名前で、学生時代の同級生だという。独身の頃、ドライブでたまたまこの町に来て以来、雪乃さんがここの海をずいぶん気に入ったらしい。そして、いつかはこの町に住みたいと言うようにもなったのだそうだ。
 せがんで一度だけ、写真を見せてもらった。それを見る限りでは、体が弱いとは思えないぐらい元気そうに笑う、きれいな人だった。
 「実は、彼女も絵を描くんだよ。水彩じゃなくて、イラストだけど」
 それを仕事にしていて、ある程度まとまった収入もあるらしい。誠広さんは別に仕事を持っているけど、今はしばらく休んでいると言った。
 「あの家が空いてるのを見つけてね、どうしても住みたくなって借りたんだ。……仕事先はここからだと少し遠いし、暑い時期に、慣れない土地で彼女を一人にしておくのは心配だから」
 だから、誠広さんも外へ出るのは絵を描く時と、買い物の時ぐらいだという。
 会うのが4回目ぐらいになった時、どうして、海ばかり描くのか聞いてみた。見たところ、誠広さんのスケッチブックは、この砂浜から見た海でいっぱいだったから。
 そしてどの絵にも必ず、あの二人がいる。
 今日の絵には、波打ち際を手をつないで歩く二人──誠広さんと雪乃さんが描かれていた。それについてはなんだか聞きづらくて悩んでいたら、誠広さんの方が察して答えてくれた。
 「こんなふうに、二人で海を見に来たいから……って彼女がね。今はちょっと無理だけど、せめて絵の中でだけでもと思って」
 話す口調は、ちょっと寂しそうではあったけど、同時にとても優しく聞こえた。自由に外を出歩けない奥さんを少しでも喜ばせたい、そういう気持ちがよく表れていたから。
 当たり前だけど、よっぽど雪乃さんのことを愛しているんだなあと、そう思った。
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