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第2話~風のこえ~
「直くん」(2)
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「どうしたの、こないだも帰ってきたとこじゃなかった?」
事情を説明すると、おばさんは納得顔でうなずいた。初孫だから坂田さんも心配なんだろうね、と映見子の両親について触れ、
「そろそろ、どっちかわかる時期でしょ。調べてもらったの」
「はい、先週──」
と話しながら実家に向かっていると、道の向こうから走ってきた子供が、急に足を止めるのが目に入った。女の子だ。
映見子がなにげなくそちらを見ると、その子はやけに真剣なまなざしで見返してくる。なんだか目をそらせなくて、道幅分の距離を保ってすれ違うまで見つめ合いは続いた。
おばさんも途中から女の子に気づき、気づいた瞬間から、なにやら複雑そうな表情を浮かべた。
すれ違う時、女の子の視線は映見子の顔から下、ふくらんだお腹へと移った。まばたき1回分ぐらいの短い間見つめた後、後ろへ──映見子たちが歩いてきた方向へ走り去っていく。
その子の背中を映見子はしばらく見送った。なぜか、そうせずにはいられないものを感じた。
「あの子──」
知らず出たつぶやきに、おばさんが少し重々しい声で答えた。
「ああ、浅井さんのところの、陽南ちゃんよ」
「えっ……まさか」
同様に実家と町内会が同じの、浅井家の兄妹のことはよく覚えている。兄の直也は自分より4歳下で、同じ登校班で小学校に通っていた時期がある。
直也は9歳違いの妹を、周りが感心するほどによく面倒を見、可愛がっていた。
兄妹の微笑ましい姿が失われたのは5年前。夏の終わりに体調を崩した直也が入院し、冬が来る前に亡くなったのだ。脳腫瘍だったと聞いた。
映見子はまだ実家にいたから、妹の陽南がその頃いくつだったのか正確に記憶している。その年の春、小学校に上がったばかりだった。だから、今はずいぶん大きくなっているはずだ。
けれどさっきの女の子は。
「あの子のお兄ちゃんのことは覚えてる? ……あれ以来、ずっと大きくならないそうよ。あれでもう、12歳になったの」
事情を説明すると、おばさんは納得顔でうなずいた。初孫だから坂田さんも心配なんだろうね、と映見子の両親について触れ、
「そろそろ、どっちかわかる時期でしょ。調べてもらったの」
「はい、先週──」
と話しながら実家に向かっていると、道の向こうから走ってきた子供が、急に足を止めるのが目に入った。女の子だ。
映見子がなにげなくそちらを見ると、その子はやけに真剣なまなざしで見返してくる。なんだか目をそらせなくて、道幅分の距離を保ってすれ違うまで見つめ合いは続いた。
おばさんも途中から女の子に気づき、気づいた瞬間から、なにやら複雑そうな表情を浮かべた。
すれ違う時、女の子の視線は映見子の顔から下、ふくらんだお腹へと移った。まばたき1回分ぐらいの短い間見つめた後、後ろへ──映見子たちが歩いてきた方向へ走り去っていく。
その子の背中を映見子はしばらく見送った。なぜか、そうせずにはいられないものを感じた。
「あの子──」
知らず出たつぶやきに、おばさんが少し重々しい声で答えた。
「ああ、浅井さんのところの、陽南ちゃんよ」
「えっ……まさか」
同様に実家と町内会が同じの、浅井家の兄妹のことはよく覚えている。兄の直也は自分より4歳下で、同じ登校班で小学校に通っていた時期がある。
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映見子はまだ実家にいたから、妹の陽南がその頃いくつだったのか正確に記憶している。その年の春、小学校に上がったばかりだった。だから、今はずいぶん大きくなっているはずだ。
けれどさっきの女の子は。
「あの子のお兄ちゃんのことは覚えてる? ……あれ以来、ずっと大きくならないそうよ。あれでもう、12歳になったの」
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