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第2話~風のこえ~
「直くん」(4)
しおりを挟む帰ってきた日以降は、彼女の姿を見ていなかった。小さな町で近所とはいっても、生活サイクルの違う大人と子供がそうしょっちゅう偶然に顔を合わせることはない。映見子が外に出るのは午後の早い時間がほとんどだし──と考えて、そういえば今日は平日だったと思い出した。時間は午後2時すぎである。
小学生とはいえ6年生にもなれば、3時台までは授業があったはずだ。もしかしたら、今の教育課程では違っているのかも知れないけど……陽南が今ここにいるのはそういう理由からではない、という気がした。つまり、学校に行っていないのではないか。
たぶんそうなのだろうと思ったが、口にも出して尋ねてみた。
「学校は?」
陽南は答えない。無言で映見子の顔を、そしてお腹のあたりを交互に見ている。
こないだ会った時もそんなふうに見てたなと思いつつ、押してきたカートの上に腰を下ろした。祖母の持ち物で、疲れたらすぐ椅子替わりにして休めるようにと、買い物に行く時は毎回持たされている。実際にそうやって使ったのは今が初めてだった。
そういえば、彼女は自分を覚えていない、というかほとんど知らないのではないだろうか。実家にいた頃の陽南は小さかったし、帰郷した際にも、顔を合わせたことはこれまで一度もなかった。
「あ、ごめんねいきなり。えっと、私は」
「知ってますよ」
その時初めて、陽南が口を開いた。
「え?」
「坂田さん家の、上のお姉さんでしょ。直くんが小学生の時、一緒の登校班だったっていう」
「……そうよ。よく知ってるわね」
そこまで知っているのが逆に意外である。陽南が、自分から兄のことに触れたことにも驚いた。母親や近所のおばさんたちを真似て、直也のことを直くんと呼んでいたのだ。
見た目は小学校低学年の(正しくは兄が亡くなった当時の歳、7歳なのだろう)女の子が、妙に丁寧な口調で話すのを聞くのは、正直言って違和感を感じる。相手のしゃべり方が、実年齢以上に落ち着いて聞こえるからでもあった。
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