『海色の町』シリーズ3部作

紬 祥子(まつやちかこ)

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第2話~風のこえ~

「ひーたん」(3)

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             ◇

 「こんにちは」
 いつものように堤防に腰かけている陽南に、今日はこちらから先に声をかけた。
 珍しく気づいていなかったようで、振り返った顔には驚きが浮かんでいる。いくぶん焦った様子で立ち上がりかけるのを、映見子は手と声で制した。
 「ちょっと待って。……15分でいいから、一緒にいてくれない? 話したいことがあるの」
 明日の夜に夫が帰ってくるので、午後には家に戻らなけれはいけない。だから、どうしても今日中に陽南と話したかった。
 しばらく躊躇してはいたようだが、結果的には陽南はまたその場に座り直してくれた。
 もし会えなかったら、家を訪ねようかとまで考えていた。だが他に人がいる場所では話しにくいし、近所とはいえ特に親しいわけではない自分が陽南を外へ連れ出すことは、彼女の家族がいい顔をしないかも知れない。だからここで会えてよかった。
 「──話したいことって、なんですか」
 尋ねる陽南の目はこちらを見ず、顔も海の方に向けたままでいる。けれど映見子は彼女の態度を気にしなかった。今日も祖母から借りているカートをなるべく陽南に近づけ、その上に座る。
 「この間、偶然あなたのクラスメイトに会ったの。それでね……」
 と、夏実との会話を映見子は詳しく話した。単語に至るまで、実際に言ったことをできるだけ正確に思い出しながら。
 「……だから学校に行ってみたら、なんて言うのは短絡的だと思うけど」
 そんなことはきっと、飽きるほどにいろんな人から言われているに違いない。
 「でも、陽南ちゃんのクラスは優しい子が多いのね。よかったわ」
 映見子は本心からそう言った。いずれ、彼女が自分から学校へもっと足を運ぶ気になった時、居場所がないわけではないのだ。一気には無理でも、夏実を始めとするクラスメイトたちは、陽南を少しずつ受け入れていってくれるだろう。
 そういう子たちが陽南の身近にいることを、本当によかったと思う。
 とりあえず話したかった話題を終えても、陽南は相変わらず黙ったままでいる。何を思っているのかは、静かすぎる横顔からは読み取れない。……どうしようかな、と映見子は考えた。
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