『海色の町』シリーズ3部作

紬 祥子(まつやちかこ)

文字の大きさ
25 / 51
第2話~風のこえ~

「ひーたん」(4)

しおりを挟む

 他にも話したいことがあると言えばあるのだが、その話をいきなり始めるのはためらわれた。何の前置きもなしに言うには、唐突すぎると思うからだ。
 迷っていたその時、陽南がくるりと体ごと振り返った。
 まともに視線が合う。陽南の目の中で様々な感情が行き来するのを、映見子は静かに見守った。
 やがて、感情は一つの位置に落ち着いたらしい。何か覚悟を決めたような表情を浮かべながら、陽南は口を開いた。
 「変な人ですね、お姉さんて」
 「そう?」
 「なんでそんなにわたしを気にするんですか。家族でも、友達でもないのに」
 「私だけじゃないわよ。近所の人たちだって」
 「知ってます。でもそれは、──珍しい動物とか、自分に関わりない事件のニュースを見るような気持ちででしょう」
 好奇の目で自分を見る人のことを、陽南はずいぶんと辛辣に表現した。それが普通の反応なのもわかってます、と付け加えてから、
 「だけど、お姉さんは最初からそうじゃなかった」
 「──どうしてそう思うの?」
 少しの間。
 「……目が、他の人と全然違うから。初めからお母さんに似てて、でもお母さんよりももっと近い人みたいな、そんな気がする時もあって」
 一緒にいるとなんだか落ち着かなくなって、それで映見子をつい避けていたのだ、という。陽南のその言葉に、映見子は少なからず驚かされた。けれど意外なことではないかも、とも思った。彼女の持つ「勘」が、はっきりとではないにせよ、そのことを感じ取っている証拠と言える。
 それでも、口にするにはもう少しの勇気、あるいは何かきっかけがほしい。そう考えていると、
 「ずっとこのままなんて、無理だってわかってます」
 にわかに、陽南の口調が強くなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...