『海色の町』シリーズ3部作

紬 祥子(まつやちかこ)

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第2話~風のこえ~

「ひーたん」(6)

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 「でも、人前で呼んだことはあんまりなかったのに」
 一人言のようにそう付け加えた陽南に、映見子は頷いた。
 「たぶんそうよね。私も聞いた覚えはないし」
 いまだ一心にお腹を見つめ続ける陽南が何を思っているのか、推測はできた。子供の「声」に気づいた時から映見子も考えていたからだ──おそらくは同じことを。
 「わかる、と思うことがほんとにこの子の言いたいことなのか、いつも100パーセント確信できるわけじゃないの。……まして、この子が直也くんの生まれ変わりなのかどうかは、私にもわからない。でもこの子が陽南ちゃんを心配してるのは確かだと思う──確信持てないって言ったのと矛盾してるけど、でもね」
 少しわざとらしいかもと思うぐらいににっこり笑い、口調も明るくしてみせた。
 「どうせ誰にもわからないことなら、信じちゃった者勝ちかな、って。そんなふうにも思うのよ。……変かしらね、やっぱり」
 奇妙なことを聞いた、といった表情で陽南が見上げたので、最後の部分には苦笑いが混ざった。
 映見子自身、頭のすごく理性的な部分では、変なことを言っている気がしている。
 けれど他の大部分では本当に、そんなふうに考えている。どう解釈するかは個人の自由だ。それなら、自分の好きなように信じた方がずっといい。それは違う、とは誰にも断言できないことなのだから。
 「……わたし」
 「ん?」
 「近所で亡くなった人とか、お盆に帰ってくる人の声とかも聞いたことあります。……けど、直くんの声は今まで一度も聞こえたことがなくて。だから」
 ここにはもう帰ってきてはくれないのだと、思い込んでいたと陽南は言った。そして、
 「さわっても、いいですか」
 映見子の前に立ち、お腹の手前数十センチのところまで手を近づけ、そう尋ねてきた。
 「もちろんよ」
 微笑みながら答えると、陽南の手がおそるおそる、さらに近づいてくる。そうしてとても遠慮がちな感じで、小さな手のひらが映見子のお腹に触れた時。
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