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第2話~風のこえ~
「ひーたん」(7)
しおりを挟む「──あ」
思わず声が出ていた。子供が、その瞬間を狙ったかのように、しかもいつもよりも強く蹴ったのだ。……実際、狙ったのかも知れないと思った。
陽南も、その元気の良さに驚いたように、はっとした表情になる。──いや、たぶん理由はそれだけではない。目を見開いたまま、触れる前よりも一層ゆっくりした動きでお腹から離した手を、もう片方の手で包みこむ。
「……ひーたん、て」
半ば自分に向かってつぶやくようなその声は、少し震えていた。
「直くんの声が、そう呼んでくれたのが、今」
「私にも、そう聞こえたわ」
同意した途端、陽南の顔が真っ赤になった。慌てた様子で口を押さえ、映見子に背中を向ける。
ほどなくして小さな肩が震え出した。声は懸命に抑えているが、泣いているのは明らかだった。
どうするべきか、どうしたいかしばらく考えて、映見子はカートから腰を上げる。陽南の斜め後ろに立ち、彼女の頭と肩を包むように手を置いた。自分と、そして子供の、陽南を元気づけたい気持ちが少しでも伝わればいいと願いながら。
◇
バスが来る予定時間まで、あと5分ほどである。
映見子は周囲を見回してみたが、車が数台行き交うだけで、知っている姿は見当たらなかった。
……やっぱり、来ないかなと考える。
昨日、陽南が泣きやんだ後、出産予定は12月の初めだと話した。
そして──生まれたら知らせるから、それまでにもしいい名前を思いついていたら教えてほしいとも言ってみた。
陽南は赤くなった目を丸くして、しばらくは戸惑ったようにうつむいていたが、やがて「考えてみます」とぽつりと答えた。その声には、泣き止んだばかりで少しかすれていたものの、前向きな力がこめられているように感じられた。
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