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第3話~空のおと~
同級生の彼女(3)
しおりを挟む並べられた雑誌の中から、数冊の記事内容を確認する。必要なページ数を書き出したメモと雑誌3冊を抱え、カウンターへと足を向ける。全て最新号だから借りることはできない。すぐに、かつ家でじっくり読むためには、コピーサービスを利用する必要があった。
カウンターの、「書庫の本貸出・コピーご希望の方はこちら」と札の下がった一角には、幸い先客はいなかった。座って何やら作業している職員の女性に、コピーお願いします、と声をかける。
相手が顔を上げた瞬間、良行は「?」と思った。見覚えがある。だがこの図書館内では見たことのない顔。……誰だろう、と考えていたのはたぶん、せいぜい2・3秒のこと。
しかし思い出して驚くよりもわずかに早く、相手が先に「あっ」と言った。
「桂木くん?」
呼びかけられたのと、良行が反射的に名札を確認したのはほぼ同時。そして「……小野寺」と驚きとともに呟いたのも。
間違いなく彼女は、中3の時のクラスメイトである、小野寺繭子。
1学期の最初の1ヶ月は、席の並び方が出席番号順だったので、その間は隣同士でもあった。
だが縁と言えばそれぐらいで、部活は違ったし委員会も同じになったことはない。彼女は、学内では注目の的だった。小野寺家は、国や県の議員が何人も出ている、いわゆる名士と呼ばれる家。その家の娘である繭子は「お嬢様」で、しかも絵に描いたような才色兼備だったから、ほとんどの男子にとっての憧れ、高嶺の花だったのだ。
誰にも話したことはないが、良行もその一人であった。しかし、いつも推薦でクラス委員を務めていた人気者の繭子に対し、自分はただひたすら地味な、どちらかというと嫌われる意味での「優等生」。つまりまるで対照的で、親しく話せた機会など一度もなかった。
だからこそ、何も言わないうちに彼女がこちらを見分けたことが、信じられなかった。
おまけに、律儀にもこちらの呟きを聞き取ったらしい。
「わあ、覚えててくれたの。ね、桂木くんでしょう、第一中の3年3組だった」
「……あ、うん」
嬉しそうに笑いながらたたみかけるように言われた勢いで、頷いてしまう。
当然ながら、クラスメイトだった頃でさえ、こんな満面の笑みを向けられたことはない。気圧されて、どぎまぎする。
同学年なのだから彼女も今年27歳のはずである。だが中学の頃と全然変わらない──と言ったらさすがに大げさだが、あまり変わっていないようには見える。どこかまだ10代のような、濁りのない雰囲気を彼女は持っていた。
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