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第3話~空のおと~
同級生の彼女(2)
しおりを挟む厳密には、現時点ではまだ、休職扱いになっているらしいが。
連絡なしの突然の帰省に、実家の両親は当然ながら驚いた。良行は隠すことなく、会社を辞めたと説明した。体調を崩したため、医者から療養を勧められたのが理由だとも。
それは事実の一部ではあるが、全部ではない。両親もそのことは察した様子だったが、気遣ってなのか問い詰めはしなかった。良行は多少の申し訳なさを感じつつも、本音ではほっとした。
10日間ほどは、週2回の通院以外はほぼ、文字通り引きこもっていた。2月半ばの冷え込みが体に障るから──というよりは、なるべく人に会いたくなかったことが理由だ。
にもかかわらず最初の1週間に、良行の帰省を確認するメールが2・3通届いていた。差出人は皆、高校での知り合いだったが、いずれにも返信せず無視した。
いったい、帰省をどこで聞きつけたのか。もしかしたら外へ出た時……病院の出入りを見かけられたのか。だとしたらさぞかし、面白がられているのだろう。別に親しくもなかった同級生がメールしてくる裏には、少なからずからかう気持ちがあってのことに違いない、と思う。
あの頃の自分は、可愛げも愛想もない「優等生」と思われていただろうから。
今、彼らと顔を合わせたら何と言われるか。逃げる気まではなかったが、想像するだけで憂鬱に襲われそうになるのは、如何ともしがたかった。……そんなふうに他人の存在を気にした覚えなどほとんどなかったのに。変われば変わるものだと、自分自身を皮肉らずにはいられない。
母に「寄ってくつもり」と言った場所は、病院から程近い場所にある市立の図書館。1週間ほど前から、毎回の診療後の習慣にしている。
まだ、再就職活動を始めるほどには気力も体力もない。だが同時に、あまり長く実家で厄介になるわけにもいかない、と考えるだけの意識も働き始めている。何はともあれ、世間や必要な情報から、遠ざかりすぎないようにするのが第一だろうと思った。
この市の図書館は、規模自体は中程度ながら、新聞・雑誌の種類が多い。そして、コンピュータ関連は少々マイナーな専門誌に至るまで、良行が読んでいた雑誌はほぼ全種類そろっていた。
平日も午後遅くになると、来館者の数は少なくない。学校帰りらしい中高生が結構いるし、日によっては親子連れの数も増える。たいていは絵本の朗読会や紙芝居の日だ。
今日がその日ではないことを、ロビーに掲示されている館内行事一覧で確認して、胸をなで下ろす。蔵書の検索機をおもちゃ感覚で長く使う子供が、時々いるのだ。良行が検索機自体を使うことはめったにないのだが、雑誌の棚が検索機コーナーと隣接している。もともと子供には苦手意識がある上、彼らの甲高い声が今は特に、神経に障る気がしてしまうのだった。
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