『海色の町』シリーズ3部作

紬 祥子(まつやちかこ)

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第3話~空のおと~

彼女の婚約者(4)

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 「卒業以来、だからこそ声をかけるんでしょう。おかしい?」
 「けど、別に親しかったわけじゃないし……まともに話したこともなかったよね」
 「そうだった? でもね、桂木くんは結構印象強かったもの、わたしにとっては」
 「……え」
 「テストでも模試でも、ずっとクラスで一番だったでしょう。結局一度も、科目別でも勝てなかったのよね、わたし」
 ああそういう意味でか、と納得すると同時に、つい複雑な気分にもなる。少しだけだが。
 「特に理科は、小学校の時からすごく好きで負けたことなかったから、ショックだったわ」
 「ごめん」
 「どうして謝るの。努力した結果がそうだったんだから、桂木くんは悪くないじゃない。ね」
 裏のない口調でそう言って、にっこりと笑う繭子は可愛らしくて──快晴の空と、青く光る海を背にした姿は、今までで一番綺麗に見えた。

             ◇

 滝本たきもとに会ったのは全くの偶然だった。その日は借りる本もなかったため図書館に寄らず、少し遠回りして商店街へ行ったのである。母に、行けたらでかまわないからとの条件付きで、米を買うように頼まれたからだ。
 そこで、配達帰りだという滝本に会ったのだった。
 彼も中3の時のクラスメイトで、どういうわけか、進んで良行と友達付き合いをしていた珍しい人物である。高校ではクラスが、大学は学校自体が分かれたが、月に何回かは連絡を取り合っていて、年に2・3回は就職して以降も会っていた。だから、お互い何をやっているのかはずっと知っていた。
 確か、去年の終わりには、近々転職するようなことを言っていたが……
 「だから、転職したんだよ。家業継ぐことにしたんだ」
 今は夜、場所は商店街の中の居酒屋。滝本の仕事が終わるのを待って落ち合ったのである。
 「家業、って何やってたっけ」
 「酒屋だよ、酒屋。おまえ相変わらず薄情なとこあるよな。メールにも無視しっぱなしだったろ」
 その通りだった。帰省後すぐにメールを寄越した相手の中には滝本も含まれていたのだが、その時は彼とさえ関わる気が起きなかったため、返信しなかったのだ。その後も何度か送られてきていたが、全部同じ対応を取っていた。
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