『海色の町』シリーズ3部作

紬 祥子(まつやちかこ)

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第3話~空のおと~

彼女の婚約者(5)

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 「……悪い、あんまり知り合いには会いたくなかったから」
 「まあいいよ。なんかあったんだろうな、とは最初から思ってたし」
 言いながら、ビールの大ジョッキを瞬く間に空けてしまう。
 「大丈夫か?」
 「平気平気。すいませーん、ビール大もう1つ」
 良行が思わず聞いてしまったのは、今ので4杯目だったからだ。数年前まで滝本はアルコールが苦手で、大して飲める方ではない良行以上に下戸だった。しかし就職後半年ほどして会った時には、何がきっかけだったかいまだに知らないのだが、堂々たる酒豪になっていた。
 以前とのギャップに慣れはしたものの、飲むたびについ聞いてしまう。明日は店が休みらしいのでそれはいいとしても、この後ちゃんと家に帰り着けるのだろうか。
 こちらの心配をよそに、滝本は5杯目のビールを変わらない勢いであおる。ジョッキを置くと同時に何か思い出したらしく、「あ、そうだ」と呟いた。
 「あのさあ、新山先生覚えてるだろ、中3の時の担任。来年で定年らしいんだ」
 「え、もうそんな年だったのか」
 「で、地元に残ってる奴らの中から、先生の退職祝いついでに同窓会やろうかって話が出ててさ。まだ本決まりじゃないんだけどな。……ちょっと、不都合もあるし」
 そこで滝本は、苦いものを飲み込むように言葉を切る。不都合、と言った時の口ごもりがちな、だが確実に何か伝えたそうな響きで、良行は思い至った。
 「小野寺のことか」
 こちらから言ってやると、滝本は安心したように「ああ」と息を吐いてから、
 「知ってたか。そうなんだよ、同窓会ほんとに開くとなると、彼女呼ばないわけにいかないだろ。……けどなあ、ああいう状態だからな。はっきり言って辛いんだよ。想像つくか?」
 「……ん、まあ」
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