精霊書店の異世界人

多々羅

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第一章 塔の異世界

異世界の少女

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「%$#=!」

 最近、主人公が異世界に飛ばされるラノベとかアニメが流行はやってるけど、まさか自分がそうなるとは思ってもみなかった。

「$%"#(*@|\=  #&%'_\!?」

 とはいえ、願望がなかったわけじゃない。異世界でチートスキルを使って大暴れしたり、可愛い女の子に囲まれたり――とか……。

「=+*@'&%"! #-=^~\=;:?/!!」

 だけどそれは現実逃避的な妄想でしかなくて、現実に起こりうることじゃないわけですよ。

「#@-/<=\%&!」

 無職になって三年、ニートをこじらせて異世界に来ちゃったか……。

「……%=^?」

 ……そんなわけないか。

 さて、さっきから聞き覚えのない言語で僕に話しかけている女の子がいるんだけど、彼女の存在こそ、ここが異世界だと判断した大きな理由だ。
 まずはなにより髪。ボーイッシュなショートカットで、後ろ髪だけ伸ばしてリボンで束ねている。問題なのはその色で、照明が薄暗いから正確じゃないかもしれないけど、濃い緑だ。カツラにしては精巧すぎるし、こんな手の込んだドッキリを仕掛けられる心当たりもない。
 次に僕をを見る瞳。髪と同じような濃い緑だけど、これは地球人でも珍しくない……むしろ髪の色以外は顔立ちも日本人に近いような……。活発で気の強そうな印象の女の子だ。
 背丈は僕の胸あたりまでしかないから、百四十センチ以下ってところか。ちっちゃくて可愛い。
 ……いやいや、僕はロリコンではないですよ? 多分……おそらく……多分……。
 さてさて次は服装だ。まず目を引くのは茶色のローブ。大き過ぎるのかそでを折って着ている。その袖から出た両手は細い腰に当てられている。そしてローブの下には白いブラウス。ひかえめな胸から視線をがして下に向けると、ひざ上あたりまでの赤いスカート。まるで魔法使いのような服装だ。
 そんな彼女の表情は……嗚呼ああ、とてもお怒りの御様子である。
 当然だ。さっきから何度も話しかけているのに相手はノーリアクション。心中お察し致します。とはいえ、僕はこの世界の言葉を知らない。日本語なんて通じないだろう。だけどこのままではらちが明かない。とりあえず駄目で元々、こちらも話しかけてみよう。

「え~っと、その髪って地毛?」

 おっと、つい心からの疑問を口走ってしまった。
 さらに怒らせてしまうかと思ったけど、少女の顔からは怒りが消え、代わりに疑問符を浮かべて首をかしげてしまった。やっぱり彼女も僕の言葉が分からないってことか。
 だけど確認も兼ねてもう一度話しかけてみよう。やっぱり最初は自己紹介からだ。

「ぁ、と、僕の名前は空野空也そらのくうや、三十七歳、無職……です」

 どもってしまった。まあ、この歳で無職で独身で自称駄目人間のファーストコンタクトなんてこんなものだ。
 ――と、少女の様子が変わった。かたむいていた首を元に戻し、なげくように頭を抱え――

「アァ~~」

 やっと彼女の言葉が理解できた。いや、言葉とはいえないか。
 それにしても、苦悩のうめき声って異世界でも共通なんだなぁ。僕も一緒に呻きたいところですよ。なんてったって異世界に飛ばされ、おまけで付いてくるはずの言語理解能力もないわけですから。

 そういえば、元の世界からこの世界に飛ばされる途中、神様っぽい「なにか」に願いをかれたけど、この世界の言葉が理解できますようにと願えばよかった。だけどあの時はまさか異世界に飛ばされるとは思ってなかったから、別のことお願いしちゃったしな……。
 とか考えていると、少女は腕を組み、項垂うなだれ、うなり、なにかを決心したかのように顔を上げ、きびすを返して壁際の本棚に向かった。そして本をあさり始めてしまった。

 ふむ、どうしたものか……。とりあえず自分の状態を確認しておこうか。
 服装はここに飛ばされる前と変わっていない。黒い薄手のダウンジャケット、その下に着込んだ黒のトレーナーに黒のジーンズ、黒のボディバッグと全身黒ずくめ。靴だけはグレーだ。改めて見ると、これって不審者……。いや、黒い服が好きなだけだ!

 次に周囲にも目を向けてみる。
 薄暗い六、七畳程度の部屋で壁は石造り。窓はない。そして独特のひんやりとした空気……ここは地下室なのかもしれない。
 床と天井と柱は木製で、高さ二メートル半くらいの天井には唯一の光源が吊されていた。それはフラスコのような形で、古めかしい電球に見えなくもないけど、中に入っているのはフィラメントではなくて光る石ころだった。魔法かなにかかな?
 右奥には扉がある。出入口だろう。
 正面には大きな本棚があり、大小の区別なく並べられた本を少女があさっている。
 左の壁際には簡素な机と椅子があって、机の上にはペンとインクとランタンが置かれている。ランタンの中にも天井の照明と同じように石が入っているけど、こっちは光っていない。

 ひとしきり周囲の観察を終えて正面を向くと、少女が分厚い本を持って戻ってきた。
 眉間にしわを寄せ、渋い顔で持ってきた本を見つめている。
 なにかするのかな?
 少女は表紙を開き、一ページ、二ページとめくった。そしてそこに書かれた文字を見つめ、口を開けたところで止まった。
 そして少女は口を閉じ、目も閉じて唸り始めた。
 しばらく唸ってから僕を見上げ、開いたままの本をくるりと回して押しつけてきた。
 なんだろう……魔法の本かなにかかな?
 僕は恐る恐るそれを受け取った。
 本に目を落としてみる。そこには十文字程度の文字が並んでいた。だけど全然読めない。ルーン文字に似てなくもない。
 目を細めてみる。
 やっぱり読めない。
 唸るしかない。
 頭を捻っていると、視界に細い指が入ってきて、文字の上で止まった。

「$=*;\%@\」

 読めってことかな? 読めばなにか起こるのかな? なにが起こるのか怖いんですけど。

「$=*;\%@\!」

 すっとぼける僕に苛立いらだったのか、少女は本の文字を指先で叩きつつ、さっきの言葉を繰り返した。
 一体なにが起こるんだろう?
 いやいや落ち着け。今の状況から考えるに、これは言語の壁を越えられるなにかのはずだ。
 そうに違いない!
 多分!!

「$   =  *  ;   \  %    @ \」

 今度は子供に文字を教えるかのように、一文字一文字丁寧ていねいに読み上げた。
 ……観念するしかないか。

「$   =  *  ;   \  %    @ \」
「ティ エ ジ ト レ ヴィ ン レ」

 少女に合わせて声を発すると本が青く光り始めた。そして光は粒となって室内に広がった。それにともない、僕の手から本の重みが消えていく。
 呆気にとられていると、青い光の粒が突然僕に襲いかかってきた。

「っ! ちょっ、待っ!」

 慌てて頭をかばう。
 なんだなんだ!? なにが起こるにしても穏便おんびんにっ!
 ――と、光はなにをするでもなく消えた。本とともに、跡形もなく。

「あ……れ?」

 腕を下ろして両手を見る。
 特に変わってない。
 握ってみる。
 うん、変わってない。
 ……ん? 終わり? 施術終了ですか?

「ねぇ、わたしの言葉、分かる?」

 聞き慣れた言語が僕の耳に飛び込んできた。
 声の主に視線を向けると、さっきまで知らない言語でしゃべっていた少女が、まるで道でもたずねるかのように小首を傾げていた。

「分かるの!? 分からないの!?」
「ぁ、うん、はい。分かる……ります」

 突然日本語を喋り始めたから、変な言葉づかいになってしまった。

「よしっ! 成功だね! あ~よかった。神暦しんれき前の貴重な精霊書だったから、効かなかったらどうしようかと思ったよ」

 少女は初めての笑顔を見せる。活発そうな良い笑顔だ。
 聞き慣れない言葉も混ざってるけど、とりあえず通じるようになったみたいだ。

「あ、まずは自己紹介からだね! わたしは、マギナ・アルメリス! よろしくね。下僕!!」

 ありがとうございますっ!!
 って、僕には下僕と呼ばれてよろこぶような性癖せいへきはない! ここはガツンと……いや、もう少しやんわりと抗議しよう。

「いや、下僕は……ちょっとぉ……」
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