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第二章 森林の街 ペンピスト
冒険者の宣誓
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「それでは、最後に冒険者手帳をお渡しします」
「冒険者手帳?」
「そう! 冒険者の証だよ!」
通常運転に戻ったマギナがレーシアの代わりに答えてくれた。
「請けた依頼とその結果を記録するのにも使いますね」
「なるほど」
レーシアはカウンターの下に手を入れ、黒い手帳を取り出した。
ポケットにすっぽりと収まりそうな大きさで、表紙の上部には白い文字で「冒険者ギルド」と刻まれている。その下には紋章が描かれている。右に剣、左に弓、真ん中に塔、それらを盾を模した五角形の枠で囲んでいる。
「えーっと……」
もう手に取っていいのかなとレーシアを見る。だけど彼女はカウンターの下に手を入れ、またなにかを取り出そうとしていた。
「んんぅ――」
艶っぽく聞こえなくもない声をあげながら、かなり分厚い本をカウンターの上に置いた。
あのカウンターの下ってどうなんてるんだろう……。
カウンターの下も気になるけど、その上に置かれたこの本……って呼んでいいのかな? 大きさはアニメの設定資料集くらいある。表紙は銅のような金属板で、厚みは二センチ前後ってところか。そして全体の厚みは、そこいらの辞書より分厚い。女の子が持ち上げるには一苦労な代物だ。
金属製の表紙の上部には丸い窪みがあり、その下には文字が刻まれていている。下部には冒険者手帳がぴったり嵌まりそうな窪みがあった。
手帳を手に取ったレーシアは、それを金属板の窪みに嵌めた。
そして、またもやカウンターの下から取り出した青いオーブを丸い窪みに嵌め込んだ。
レーシアは顔を上げ、僕を見据えた。
「お待たせしました。それではクーヤさん、冒険者手帳に手を。そして、冒険者として宣誓を」
これまでとは打って変わって凜とした態度のレーシアに気圧されそうになりながら、僕は手帳に触れた。だけど――
「あの……宣誓って……」
分厚い本に手を置いて戸惑っていると、視界に細い指が入ってきて表紙に刻まれた文字を指して止まった。
なんだろう……デジャヴかな?
その指を目で辿ると、マギナが微笑んでいた。
”意思疎通”の精霊書を思い出す。
あの時はわけも分からないまま読まされたっけ……。
思い出に浸っていると、指が文字を叩き始めた。
「ん!」
嗚呼、またもデジャヴだ。マギナさん、苛ついてらっしゃいますね。
それじゃあ読むとしますか……。
「”我は冒険者として、人々の信頼に応えることを神に誓う”」
次の瞬間、表紙に嵌められたオーブが青く光り始めた。同時に冒険者手帳とその上に乗せた僕の右手も光に包まれる。反射的に手を引っ込め――
「ちょっ、これ――えっ!?」
左手で本を押さえ、右手を引き剥がそうするが、どうにもこうにも離れない。
「あ、あの、暴れないでください」
「大丈夫だから! 落ち着いて!」
「え? え? でもっ……ぁ、うん……」
ふたりになだめられ、力を抜く。右手にはまだ少し力が入ってるけど。
呼吸を整える。
未だに右手は手帳諸共、光に包まれれいる。
さて、それでは先ほどなにが起こったのか分析しよう。
まず精霊書と思われる本が起動して右手が光に包まれた。それに危険を感じて思わず手を離そうとしたけど、右手は瞬間接着剤でも仕込まれてたんじゃないかってくらい離れなかった。だからちょっとだけ、ほんのちょっとだけパニックに陥ったのだ。
このことを少女たちに伝えなくてはならない。
「いや~、なんか手が離れないから、ちょっとだけ、驚いちゃったよ」
「は、はあ、そうですか……」
「うんうん、そうだね~。ちょっとだけ驚いてたね~。ところでクーヤ、顔が凄く赤いよ?」
気のせいだと思います。
「もう少しで終わりますから……」
情けが身に染みます。
レーシアが言った通り、右手を包んでいた光はゆっくりと弱まり、表紙に嵌められたオーブと一緒に消えた。本に変化はない。
なるほど、こういう精霊書もあるのか。
「お疲れ様でした。……もう手を離しても大丈夫ですよ」
「そ、そう……」
ゆっくりと手を離す。
手のひらを見てホッと息をつく。
満面の笑顔を浮かべたマギナが、僕の顔を覗き込んできた。
「よかったね~。終わったね~。これでクーヤも冒険者だよ。おめでとう!」
含みのある言葉について、今は敢えて聞くまい。
レーシアは表紙に嵌められていた手帳を取り、微笑みながら両手で差し出してくれた。
「おめでとうございます」
僕も両手で受け取り、マギナとレーシアに視線を送る。
「ありがとう」
お礼を言って手帳に目を落とす。
当然、中身が気になる。あれだけ分厚い精霊書を使ったんだから、きっとステータスとかスキルなんかも載っているに違いない。
期待に胸を膨らませつつ表紙を開く。一ページ目には、冒険者としての僕の名前と、連絡先としてアルメリス精霊書店の住所が載っていた。
続いて二ページへと進む。
……規約?
ページを摘まんだ指先を擦り合わせてみる。
……ふむ、これが二ページ目か。まあ、規約は重要だよね。きっとこのあとだ。
さらにページを捲る。規約が続く限り捲る。
……白紙?
白紙が続く限りパラパラと捲る。
そして最後のページに辿り着く。
……白紙だ。
もしかして、さっきびびって手を離そうとしたから不具合が生じたのかな?
レーシアに訊いてみよう。
「あの……これでいいのかな? その……ステータスとかスキルとか……」
レーシアは不思議そうな顔をする。
「はい? ステータスとスキル……とは? ちょっとお借りしてもいいですか?」
「うん」
手帳を閉じてレーシアに渡す。
彼女は僕と同じようにゆっくりとページを捲った。
「どうかしたの?」
マギナが僕と手帳を交互に見ながら訊いてきた。
「あぁ、いや、ちょっと……」
僕は曖昧に答えた。下手に説明すると、僕が異世界人であることがばれるかもしれない。もしくは変人だと思われる。
「問題はないようですが……」
「あぁ、そうなんだ。だったらいいんだよ。ちょっと思ってたのと違っただけだから」
「そう……ですか」
怪訝そうな顔をするレーシア。
とりあえず笑顔で誤魔化しとこう。
「クーヤは時々変なこと言うけど気にしないでね」
「はい……」
変人ルートへのフォローをありがとう。
しかしガッカリだ。こういうのってステータスとかスキルとか魔法――この世界だと精霊術か――とかが載ってるのが異世界ってもんでしょうに……。
「ところで、さっきの精霊書はなんのために使ったのかな?」
「わたしも詳しいことは知りませんが、冒険者手帳の盗難や悪用、偽造を防止することができるそうですよ」
「そうなんだ……」
つまり、そういうことが横行したからこその対策なのだろう。
異世界も世知辛いなぁ。
「それとですね、精霊書とは関係ないのですが、宣誓の時に神様に誓いを立てたので、請けた依頼を無責任に放り出すことはできませんのでご注意ください」
「あぁ、そういえば確かに――」
言ったなぁ。というか、言わされたようなものだけど。
神託の強制力で誓いを破れないってことなのかな? だけどそれっぽい神託は……あぁ、第三神託あたりか。もしくは、単に神への誓いを破ってはいけないってことなのかもしれない。
どちらにせよ、僕には関係ないか。任された仕事に関してだけは最後まで責任を持てないと気が済まないし。
「問題ないようでしたら、冒険者ギルドのシステムについて説明を――」
「ねぇ、そろそろお昼にしない?」
マギナがお腹を押さえながら割り込んできた。
昼食にはまだ早い時間のはずだけど……。
「いや、まだ説明――」
「レーシアもそろそろお昼休みだよね? 一緒に食べよ!」
「はい! お仕事を片付けてすぐ行きます!」
「え、ちょっ――」
「レーシアはなに食べる?」
「マギナちゃんにおまかせで!」
「クーヤは?」
「え? あ、じゃあ僕もおまかせで――」
「じゃっ、席取っといて!」
「うん、分かっ――……行っちゃったよ」
嵐が去った。
もう、なにがなんだか。手持ち無沙汰で退屈だったのかな?。
「ふふふっ、楽しみです」
職務を疎かにするギルド職員がいる。
マギナに甘いどころじゃない。なんていうか、溺愛?
さて、仕方ないから空いてる席を探そうか。
「それじゃあレーシアさん、僕は席を――」
「ところでクーヤさん」
レーシアが微笑んでいた。顔に貼り付けたような、冷たさを感じる微笑みだ。
「マギナちゃんとは遠い親戚……ということでよろしかったですか?」
「う、うん」
「本当に? 本当に? 本当にですか?」
あれ? この娘って、初めはオドオドしてらした方ですよね? 敵意――いや、これって殺気? 下手なことを言おうものなら死亡エンドですか?
ここで慌ててはいけない。命懸けの嘘は、相手の目をしっかり見てつかなければならない。
「……うん、お互い知らなかったくらい遠縁だけどね」
「そう……ですか。ではなぜマギナちゃんのお家に? 街に居を構えてもよろしかったのでは?」
「そ、それは、女の子の独り暮らしは危ないから……まあ、番犬的な?」
レーシアはカウンターから身を乗り出した。微笑んだまま。殺気を滲ませながら。
「でしたら犬小――小屋でも建てればよろしいのでは?」
犬小屋って言おうとした。
確かに、この世界の犬が住めるような犬小屋なら、人間も寝泊まりできるだろうけど。
「さすがにそれは――」
「なにより! あなたとひとつ屋根の下というのが危険だと思うのですが」
さすがに親子ほどに歳の離れた女の子に手を出そうとは思わない。なにより卑劣だし。追い出されたくないし。無一文だし。小屋を建てるとかそんな重労働したくないし。そんな技術もないし。
ここは少しばかりプライドを捨てよう。
「僕にそんな度胸があるように見えるかい?」
「……見えませんね」
ええ、そうですとも。臆病者ですとも。ちょっと手が光ったくらいでびびるヘタレですとも。
おっと、へこんではいられない。レーシアが少しばかり引き下がった今が好機!
「そろそろ仕事に戻らないと、マギナさんとの合流が遅れるんじゃないかな?」
僕の言葉に、レーシアはハッとする。
「そうでした! ……続きはまた今度にします」
また今度がありませんようにと塔を登りたい気分だ。
というか、レーシアのあれは溺愛ってレベルを超えてる。僕にとってはとても危険だ。不可抗力でも非道い目に遭わされかねない。これからは、入室時にはノックを、転けた時は地面にキスを、風が吹いたら目を塞ごう。
「冒険者手帳?」
「そう! 冒険者の証だよ!」
通常運転に戻ったマギナがレーシアの代わりに答えてくれた。
「請けた依頼とその結果を記録するのにも使いますね」
「なるほど」
レーシアはカウンターの下に手を入れ、黒い手帳を取り出した。
ポケットにすっぽりと収まりそうな大きさで、表紙の上部には白い文字で「冒険者ギルド」と刻まれている。その下には紋章が描かれている。右に剣、左に弓、真ん中に塔、それらを盾を模した五角形の枠で囲んでいる。
「えーっと……」
もう手に取っていいのかなとレーシアを見る。だけど彼女はカウンターの下に手を入れ、またなにかを取り出そうとしていた。
「んんぅ――」
艶っぽく聞こえなくもない声をあげながら、かなり分厚い本をカウンターの上に置いた。
あのカウンターの下ってどうなんてるんだろう……。
カウンターの下も気になるけど、その上に置かれたこの本……って呼んでいいのかな? 大きさはアニメの設定資料集くらいある。表紙は銅のような金属板で、厚みは二センチ前後ってところか。そして全体の厚みは、そこいらの辞書より分厚い。女の子が持ち上げるには一苦労な代物だ。
金属製の表紙の上部には丸い窪みがあり、その下には文字が刻まれていている。下部には冒険者手帳がぴったり嵌まりそうな窪みがあった。
手帳を手に取ったレーシアは、それを金属板の窪みに嵌めた。
そして、またもやカウンターの下から取り出した青いオーブを丸い窪みに嵌め込んだ。
レーシアは顔を上げ、僕を見据えた。
「お待たせしました。それではクーヤさん、冒険者手帳に手を。そして、冒険者として宣誓を」
これまでとは打って変わって凜とした態度のレーシアに気圧されそうになりながら、僕は手帳に触れた。だけど――
「あの……宣誓って……」
分厚い本に手を置いて戸惑っていると、視界に細い指が入ってきて表紙に刻まれた文字を指して止まった。
なんだろう……デジャヴかな?
その指を目で辿ると、マギナが微笑んでいた。
”意思疎通”の精霊書を思い出す。
あの時はわけも分からないまま読まされたっけ……。
思い出に浸っていると、指が文字を叩き始めた。
「ん!」
嗚呼、またもデジャヴだ。マギナさん、苛ついてらっしゃいますね。
それじゃあ読むとしますか……。
「”我は冒険者として、人々の信頼に応えることを神に誓う”」
次の瞬間、表紙に嵌められたオーブが青く光り始めた。同時に冒険者手帳とその上に乗せた僕の右手も光に包まれる。反射的に手を引っ込め――
「ちょっ、これ――えっ!?」
左手で本を押さえ、右手を引き剥がそうするが、どうにもこうにも離れない。
「あ、あの、暴れないでください」
「大丈夫だから! 落ち着いて!」
「え? え? でもっ……ぁ、うん……」
ふたりになだめられ、力を抜く。右手にはまだ少し力が入ってるけど。
呼吸を整える。
未だに右手は手帳諸共、光に包まれれいる。
さて、それでは先ほどなにが起こったのか分析しよう。
まず精霊書と思われる本が起動して右手が光に包まれた。それに危険を感じて思わず手を離そうとしたけど、右手は瞬間接着剤でも仕込まれてたんじゃないかってくらい離れなかった。だからちょっとだけ、ほんのちょっとだけパニックに陥ったのだ。
このことを少女たちに伝えなくてはならない。
「いや~、なんか手が離れないから、ちょっとだけ、驚いちゃったよ」
「は、はあ、そうですか……」
「うんうん、そうだね~。ちょっとだけ驚いてたね~。ところでクーヤ、顔が凄く赤いよ?」
気のせいだと思います。
「もう少しで終わりますから……」
情けが身に染みます。
レーシアが言った通り、右手を包んでいた光はゆっくりと弱まり、表紙に嵌められたオーブと一緒に消えた。本に変化はない。
なるほど、こういう精霊書もあるのか。
「お疲れ様でした。……もう手を離しても大丈夫ですよ」
「そ、そう……」
ゆっくりと手を離す。
手のひらを見てホッと息をつく。
満面の笑顔を浮かべたマギナが、僕の顔を覗き込んできた。
「よかったね~。終わったね~。これでクーヤも冒険者だよ。おめでとう!」
含みのある言葉について、今は敢えて聞くまい。
レーシアは表紙に嵌められていた手帳を取り、微笑みながら両手で差し出してくれた。
「おめでとうございます」
僕も両手で受け取り、マギナとレーシアに視線を送る。
「ありがとう」
お礼を言って手帳に目を落とす。
当然、中身が気になる。あれだけ分厚い精霊書を使ったんだから、きっとステータスとかスキルなんかも載っているに違いない。
期待に胸を膨らませつつ表紙を開く。一ページ目には、冒険者としての僕の名前と、連絡先としてアルメリス精霊書店の住所が載っていた。
続いて二ページへと進む。
……規約?
ページを摘まんだ指先を擦り合わせてみる。
……ふむ、これが二ページ目か。まあ、規約は重要だよね。きっとこのあとだ。
さらにページを捲る。規約が続く限り捲る。
……白紙?
白紙が続く限りパラパラと捲る。
そして最後のページに辿り着く。
……白紙だ。
もしかして、さっきびびって手を離そうとしたから不具合が生じたのかな?
レーシアに訊いてみよう。
「あの……これでいいのかな? その……ステータスとかスキルとか……」
レーシアは不思議そうな顔をする。
「はい? ステータスとスキル……とは? ちょっとお借りしてもいいですか?」
「うん」
手帳を閉じてレーシアに渡す。
彼女は僕と同じようにゆっくりとページを捲った。
「どうかしたの?」
マギナが僕と手帳を交互に見ながら訊いてきた。
「あぁ、いや、ちょっと……」
僕は曖昧に答えた。下手に説明すると、僕が異世界人であることがばれるかもしれない。もしくは変人だと思われる。
「問題はないようですが……」
「あぁ、そうなんだ。だったらいいんだよ。ちょっと思ってたのと違っただけだから」
「そう……ですか」
怪訝そうな顔をするレーシア。
とりあえず笑顔で誤魔化しとこう。
「クーヤは時々変なこと言うけど気にしないでね」
「はい……」
変人ルートへのフォローをありがとう。
しかしガッカリだ。こういうのってステータスとかスキルとか魔法――この世界だと精霊術か――とかが載ってるのが異世界ってもんでしょうに……。
「ところで、さっきの精霊書はなんのために使ったのかな?」
「わたしも詳しいことは知りませんが、冒険者手帳の盗難や悪用、偽造を防止することができるそうですよ」
「そうなんだ……」
つまり、そういうことが横行したからこその対策なのだろう。
異世界も世知辛いなぁ。
「それとですね、精霊書とは関係ないのですが、宣誓の時に神様に誓いを立てたので、請けた依頼を無責任に放り出すことはできませんのでご注意ください」
「あぁ、そういえば確かに――」
言ったなぁ。というか、言わされたようなものだけど。
神託の強制力で誓いを破れないってことなのかな? だけどそれっぽい神託は……あぁ、第三神託あたりか。もしくは、単に神への誓いを破ってはいけないってことなのかもしれない。
どちらにせよ、僕には関係ないか。任された仕事に関してだけは最後まで責任を持てないと気が済まないし。
「問題ないようでしたら、冒険者ギルドのシステムについて説明を――」
「ねぇ、そろそろお昼にしない?」
マギナがお腹を押さえながら割り込んできた。
昼食にはまだ早い時間のはずだけど……。
「いや、まだ説明――」
「レーシアもそろそろお昼休みだよね? 一緒に食べよ!」
「はい! お仕事を片付けてすぐ行きます!」
「え、ちょっ――」
「レーシアはなに食べる?」
「マギナちゃんにおまかせで!」
「クーヤは?」
「え? あ、じゃあ僕もおまかせで――」
「じゃっ、席取っといて!」
「うん、分かっ――……行っちゃったよ」
嵐が去った。
もう、なにがなんだか。手持ち無沙汰で退屈だったのかな?。
「ふふふっ、楽しみです」
職務を疎かにするギルド職員がいる。
マギナに甘いどころじゃない。なんていうか、溺愛?
さて、仕方ないから空いてる席を探そうか。
「それじゃあレーシアさん、僕は席を――」
「ところでクーヤさん」
レーシアが微笑んでいた。顔に貼り付けたような、冷たさを感じる微笑みだ。
「マギナちゃんとは遠い親戚……ということでよろしかったですか?」
「う、うん」
「本当に? 本当に? 本当にですか?」
あれ? この娘って、初めはオドオドしてらした方ですよね? 敵意――いや、これって殺気? 下手なことを言おうものなら死亡エンドですか?
ここで慌ててはいけない。命懸けの嘘は、相手の目をしっかり見てつかなければならない。
「……うん、お互い知らなかったくらい遠縁だけどね」
「そう……ですか。ではなぜマギナちゃんのお家に? 街に居を構えてもよろしかったのでは?」
「そ、それは、女の子の独り暮らしは危ないから……まあ、番犬的な?」
レーシアはカウンターから身を乗り出した。微笑んだまま。殺気を滲ませながら。
「でしたら犬小――小屋でも建てればよろしいのでは?」
犬小屋って言おうとした。
確かに、この世界の犬が住めるような犬小屋なら、人間も寝泊まりできるだろうけど。
「さすがにそれは――」
「なにより! あなたとひとつ屋根の下というのが危険だと思うのですが」
さすがに親子ほどに歳の離れた女の子に手を出そうとは思わない。なにより卑劣だし。追い出されたくないし。無一文だし。小屋を建てるとかそんな重労働したくないし。そんな技術もないし。
ここは少しばかりプライドを捨てよう。
「僕にそんな度胸があるように見えるかい?」
「……見えませんね」
ええ、そうですとも。臆病者ですとも。ちょっと手が光ったくらいでびびるヘタレですとも。
おっと、へこんではいられない。レーシアが少しばかり引き下がった今が好機!
「そろそろ仕事に戻らないと、マギナさんとの合流が遅れるんじゃないかな?」
僕の言葉に、レーシアはハッとする。
「そうでした! ……続きはまた今度にします」
また今度がありませんようにと塔を登りたい気分だ。
というか、レーシアのあれは溺愛ってレベルを超えてる。僕にとってはとても危険だ。不可抗力でも非道い目に遭わされかねない。これからは、入室時にはノックを、転けた時は地面にキスを、風が吹いたら目を塞ごう。
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