精霊書店の異世界人

多々羅

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第二章 森林の街 ペンピスト

お爺ちゃん逃げてっ!

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 五人用の丸いテーブルを三人で囲んで昼食をとる。
 僕の反対側にマギナとレーシアが並んで座っている。つまり僕の左右の席は空いている。正確には、右の席にマギナが背負っていたリュックが置かれている。
 別にけ者にされたわけじゃない。この席に座らざるを得なかった。
 だって、彼女たちの前には大食いチャンピオンでも決めるのかってくらいの料理が並んでるもの。
 マギナがよく食べるのは知っていた。摂取した栄養はどこにまわっているのか……それ以前に、あの小さな身体のどこに料理が収まっているのかが分からない。
 そしてレーシアもマギナとほとんど変わらない量を食べようとしている。彼女の場合、栄養はきっちりまわってそうだけど。
 周りを見ても、彼女たちほど食べている人は見当たらない。ほとんどの人は僕と同じくらいだ。むしろ驚きとも感心ともつかない顔でこちらを見る人もいる。異常なのは、彼女たちのほうらしい。
 それにしても、随分と席が埋まってきてるな……。

「どうしたの? 食べないの?」

 食事の手を止めてマギナが訊いてきた。

「いや、随分お客さんが増えたなと思って」
「これからもっと増えるよ」
「それを見越してお昼に誘ってくれたんですよね?」

 先刻の殺気はどこへやら。レーシアはとても嬉しそうに微笑んでいる。

「そう! その通りだよレーシア!」

 嘘だっ!!
 空腹だったか退屈だったかのどちらかだ。間違いない。
 まあ、おかげで快適なランチタイムを過ごせているわけだから、結果的にはよかったんだけど。
 僕は鶏肉らしきものをフォークで突き刺して口に運んだ。
 ぁ、美味い。
 香辛料がいい感じできいてる。後味もさっぱりしてるし。だけど鶏肉とはなにかが違う。
 この世界の食材はこういうものばかりだ。見た目も味もなにかが違う。だけど食べられることは目の前で嫌というほど証明され続けているし、味も悪くない。今となってはこの違和感も楽しめている。
 さて、そろそろ本題に入ろう。

「ところで、冒険者ギルドのシステム……だったっけ? 続きが聞きたいんだけど」
「そうでしたね。それではまず、冒険者の階級から説明しますね。先程クーヤさんにお渡しした手帳の色は覚えていますか?」
「黒……だよね」

 ポケットから手帳を引っ張り出して確認する。

「はい。まずは初心者の黒手帳です。一定の功績を挙げることで手帳の色が変わっていきます。黒、黄色、緑、赤、青、そして最高位の白手帳と、全部で六段階あります」
「ちなみにわたしは緑手帳だよ!」

 マギナはリュックから緑色の手帳を取り出し、見せつけるように突き出した。

「えーっと、ふたつ上ってこと?」
「だね。レーシアもそうだよね?」
「はい、わたしも同じです。お揃いですね」
「ねー!」

 ――ん?

「レーシアさんってギルドで働いてるんじゃないの?」
「いえ、わたしはギルドの依頼で時々働かせてもらっているだけです」
「依頼ってそういうのもあるんだ……てっきり魔獣の討伐とか遺跡の探索とか、そういうのばっかりだと思ってたよ」
「昔はそうでした。冒険者ギルドは本来、登塔者ととうしゃを育成するための機関でしたから」
「今はお使いとかお手伝いの依頼もあるよね」

 マギナはそう言って、食事を再開した。

「はい。誰でも気軽に参加できるように、幅広く依頼を受け付けていますから」
「なるほど、本来の目的は形骸化しちゃったと……」
「そうですね。登塔者の育成は教会がになっていますし」

 登塔者とはその名の通り、塔の頂上を目指す人たちのことだ。
 そして教会――正式名称、塔神教教会とうしんきょうきょうかい――は、教義を広めたりとかそういう活動はしていないらしい。そもそも神託以外、広められる教義もないし。だから、教会は宗教団体というよりも、登塔者の支援団体的な存在らしい。

 こういう知識は毎夜の読み聞かせ会で得られているんだけど、そういえば冒険者に関する本は読んでもらえてないな……。もしかすると、この日のためだったのかもしれない……とは思いたくない。

「それで、依頼はどうすれば請けられるのかな?」
「フロアの中央と壁際の掲示板に依頼書が張り出されていますから、請けたい依頼があれば受付に持って行ってください」

 フロアの中央――真後ろに身体をひねると、この建物に入った時にも目に入った掲示板が見えた。そして壁にも……あるね。掲示板。
 体勢を戻すと、レーシアは食事を再開していた。
 現在、マギナは単独首位をキープしている。続くレーシアは僕との会話がタイムロスとなり大幅に引き離されている。だがしかし今大会では僕が断然有利、圧倒的物量差の前には――

「ごちそーさま!」

 決まったぁーっ! やはり期待を裏切らない! ブラックホールストマック、マギナ・アルメリスの優勝だー!
 とか考えてないで、僕もさっさと食べよう。

「あ、そーだ。依頼を請ける時は難易度と危険度に気をつけてね」

 口の中のものを飲み下す。

「載ってる?」
「載ってるよ。でも、危なくない依頼には難易度しか載ってなかったかも」
「そうれふ――そうですね。危険度は危険な依頼にだけ記載されています」

 そんなに焦って食べなくてもいいのに……。

「危険な依頼は中央の掲示板に張られますから、選ぶ時は注意してくださいね」
「あぁ、それは分かりやすい――ん?」
「なにか分からないことでも?」
「いや……ギルドに入った時、その掲示板の前にお爺さんがいたような……間違って見てただけかもしれないけど」

 かなりヨボヨボだったし、そもそも冒険者ですらないだろう。

「その方は多分、白手帳のヨルクム・バルファンさんですね。わたしもお見かけしました」
「……白手帳!? 最高位の?」
「わたしも見たよ。ヨルクムお爺ちゃん。まだ現役だよね?」
「はい、先日も暴走したフタツノジカの大群を討伐してくださったそうですよ」
「やっぱ凄いね~」

 フタツノジカ? 鹿? いやいや、かれるって、あのお爺さん。
 駄目だ。悲惨な光景しか思い浮かばない。話題を少し変えよう。

「ところで、白手帳の人って何人くらいいるのかな?」

 レーシアは記憶を辿るように宙を見た。

「わたしの知る限りではペンピストに三人、国内でしたら五十人前後ですね」
「……少なくない?」
「白手帳の方々は生きる伝説ですから、どちらも多いほうですよ」
「そうだったんだ~。白手帳って凄いんだね」

 足元からパタパタという音が聞こえる。
 食事を終えて暇を持て余したマギナが、ギリギリ届く爪先で地面の感触を楽しんでいるのだろう。

「癖のある方々ですから、偉業よりもそちらのほうが目立っていますね」
「だよね~」

 ふたりして苦笑している。
 いったいどんな人たちなんだろう。
 ひとりは見た。だけど、癖とかそれ以前の問題のような……。絶対轢かれるって、あのお爺さん。



 その後、全員食事を終えて雑談を交わした。主にマギナとレーシアが。
 昼食会はレーシアの昼休み終了に併せてお開きとなった。
 レーシアは非常に惜しみつつも僕たちを――主にマギナを、むしろマギナだけを見送ってくれた。
 扉が閉まる直前、何気なく振り返ってみると、青ざめた顔で口元を押さえて走り去るレーシアが見えた。
 ……よかった。マギナの食べっぷりが異常なんだと分かって。
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