精霊書店の異世界人

多々羅

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第二章 森林の街 ペンピスト

セラン武器工房 1

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「こんにちは~」

 店に入るなりマギナは元気のない声で挨拶した。だけど誰もいない。
 コンビニを思い出す広さの店内。だけど陳列されているのは剣や斧、棍棒、戦鎚、弓、天井ギリギリの長さの槍などなどだ。
 奥にはカウンターがあって、さらに奥には扉が見える。

「マギナか?」

 カウンターのほうから声がした。だけど姿は見えない。
 前に立つマギナは肩を落としたままだ。声は聞こえているはずだけど、なにも言わない。

「返事くらいしろよ!」

 カウンターから頭が飛び出した。
 女の子ならショート、男ならセミロングの髪は紺色で、詰問するかのようにマギナを睨む双眸そうぼうは青色だ。
 カウンターは僕の胸の下くらいの高さで、マギナがあそこに立てば、あんな感じになりそうだ。器用に頭だけ出したのかな?

「なんだ、どうした?」

 端正な顔立ちが怪訝そうに歪む。
 その顔が向きを変え、横に動き、カウンターの影から全身が現れる。
 足も腰も曲がっていない。
 つまり、マギナと同じくらいの身長だったということだ。
 そのままこちらへと歩いて来る。
 白のTシャツの上にベージュのシャツ、カーキのハーフパンツ。どれも着古しているようで、よくいえばワイルド、悪くいえばルーズだ。
 マギナの前で止まった。
 マギナはノロノロと壁を指した。いや、例の店か。

「あれ、どうにかなんないかな?」
「あれか……どうにかしてぇんだけどな……」

 男なら高い声、女の子なら少し低い声だ。
 ……どっちだ!?
 隣の店なんてどうでもいい。男か女、どっちなんだ!?
 顔立ちは女、服装は男、体格は女、言動は男、声は中性的。判定はドロー!
 おっと、こっちを見た。僕の視線に気づいたか。

「わりぃ、挨拶が遅れたな。あんたがクーヤか?」
「あぁ、うん、正確にはクウヤ・ソラノだけど」

 もっと正確にいえば空野空也なんだけど。

「変わった名前だな。ク……クゥ……」

 そんなに発音が難しいのか……。

「クーヤでいいよ」
「そっか、よろしくなクーヤ。俺はリム・セランだ」

 リムは口角を片方だけ上げて笑った。
 「俺」って言った。男なのか? いや、個性的な女の子なのかもしれない。

「こちらこそ、リム……――」

 どの敬称を使うべきか悩む。

「俺は男だぜ」

 リムの口角が震えている。

「よ、よろしく、リムくん」

 そうか、男だったのか……。可愛い顔してるのに。

「また間違われてやんの!」
「うっせぇ! お前、本当は男なんじゃねぇのか?」
「どこ見て言ってるの!? ちびリム!」

 元気を取り戻したマギナとリムによる団栗どんぐりの背比べが始まった。
 それにしても、男だったのか……。



「で、どれにするんだ?」
「どれにする?」

 ひとしきり罵り合ったあと、リムとマギナは何事もなかったかのように訊いてきた。ついて行けない。

「え~っと、見させてもらってもいいかな?」
「あぁ、好きなだけ見てくれ」
「うん」

 リムは腰に手を当てて笑った。品質に自信ありって感じかな。
 さてさて、それじゃあ物色してみようか。まずはやっぱり剣だ。
 店内を見回すと、中央あたりに大小様々な刀剣が立て掛けられていた。
 早歩きで近寄る。
 さて、よさそうなものは……。さすがに日本刀はないか。でもサーベルはある。

「触ってみても?」
「いいぜ。なんなら抜いて構えてみてくれ。けど、振り回すのは勘弁な」
「分かったよ」

 左手でそっとサーベルの鞘を握り、持ち上げる。思ったより重くない。
 鞘を軽く腰に当て、右足を一歩前に、腰を落とす。柄を右手で握り、鯉口こいぐちを切るようにナックルガードを親指で押す。そしてゆっくりと刀身を鞘から抜き、下段に構える。
 おぉぉ、これが本物か……。
 小さな拍手が起きる。
 振り返ると、マギナが目を輝かせていた。

「なんか様になってるね!」
「まあ、見てくれはな」

 対してリムは苦笑い。

「それだと親指切れそうだな」
「あぁ、やっぱり?」
「そうなの?」

 マギナは気づいてないようだ。
 僕はサーベルを――指を突かないよう慎重に――鞘に収めた。
 ふたりに向き直り、さっきと同じようにナックルガードに親指を当てた。

「付け焼き刃の知識でしかないんだけど」

 と、前置きをして、ナックルガードを押す。

「こうやって抜こうとすると、親指が刃の真上にくるよね?」
「うん」

 マギナは興味津々といった感じで僕の手元を見ている。

「ゆっくり抜くなら大丈夫なんだけど、咄嗟に抜こうとすると――」

 サーベルを引き抜き、切っ先を親指に当てる。

「危ない危ない!」

 それは、不自然な体勢で腕と切っ先がプルプル震えてるから言ってるのかな?

「こんな……感じで、親指が……切れる……かも……しれないんだよ」
「なるほど~」

 慎重に鞘に収める。
 マギナは感心してくれたけど、リムは苦笑いのままだ。

「それ以前に、そんなことしねぇでも抜けるけどな」

 鞘をしっかり握って柄を引っ張ると、ほとんど抵抗もなく抜けた。

「そうみたいだね」

 鞘口がこんなにスカスカだとは思わなかった。

「じゃあ、なんであんなことしたの?」
「いや、それは……」

 マギナに問われて言葉に詰まる。
 さっきやったのは日本刀の抜き方だ。だけど、この世界に日本刀はないはずだ。似たようなものはあるかもしれないけど……思い切って訊いてみようか。

「リムくん、刀ってないかな?」
「カタナ?」

 リムは腕を組んで顔をしかめる。

「なんか聞いたことあんな……どんな剣なんだ?」

 おっ、もしかしてあるのかな。

「えーっと、鍔の広い曲刀で……刀身の幅がこれより少し広くて……玉鋼たまはがね――鋼でできてるんだけど……」

 サーベルを指で囲んで、鍔のジェスチャーをする。

「やっぱ聞いたことがあるだけだな。うちにはねぇよ」
「ないかぁ」

 ガッカリだ。でも、似たようなものが存在しているのかもしれない。

「けど、そういう剣ならさっきみたいな抜き方もできそうだな」
「そうなんだよ! 鍔が広いから刃の真上を避けて指が置けるんだよ!」
「お、おう……あんちゃん、マギナみたいになってるぜ?」
「あぁ、ごめん。つい……」

 いかんいかん、テンション上がり過ぎてしまった。

「失礼だな~。わたしはもっとこう……あれだよ」
「あれってなんだよ」

 僕みたいになってるマギナと呆れ顔のリム。

「クーヤなら分かるよね!」
「え!? あ~、その……」

 こっちに振ってきたか。困った。なんか凄い期待してる目で見てるし。

「マギナさんは……元気がある? って感じかな」
「そう! 元気だよ!」

 あぁ、こういうのでよかったんだ。

「あ~はいはい、無駄にな」

 リムは、ドヤ顔で迫り来るマギナを追い払うように手を振り、僕を見た。

「で、どうする? それにするか?」

 文句を垂れ流し始めたマギナを無視して、リムが訊いてきた。

「うーん……」

 どうしよう。日本刀は模造刀を買ってしまうくらい好きだけど、サーベルはそんなに好きじゃない。こうして持ってみても、なんか心許ない。刀身が細いから簡単に折れそうだし。なにより、使いこなせるだけの技術がない。

「いや、これはやめとくよ」
「ま、そうだな。あんちゃんには向いてないかもな」

 向いてないとまで言われるとは……。
 サーベルを鞘に収めて、元の場所に戻す。

「じゃあ、片っ端から見ていくか?」
「そうさせてもらえるかな」

 苦笑しながら頷く。
 こうして、僕の武器選びが始まった。

「……あれ? 元気なだけ? ……馬鹿にされてる?」
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