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第二章 森林の街 ペンピスト
暮れなずむペンピスト
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店の外は夕暮れを迎えていた。
人も道も建物も、すべてが夕陽の暖かい光に包まれている。
人通りは少なくないけれど、昼間のような慌ただしさはない。気怠さと静かな活気が混ざり合ったような、独特の空気が漂っている。気を抜けば、あっという間にこの雰囲気に呑まれてしまいそうだ。
リムはもうあちら側に呑み込まれてしまっているようで、脱力して呆けた顔をしている。無理もない。あのドタバタから一気に解放されたんだ。僕も並んで緩みたいけど、家に帰り着くまでは我慢しないといけない。
マギナはまだ元気そうだ。笑顔で腰に手を当て、鼻から息を吐いている。彼女を照らす夕陽だけは、まるでスポットライトのようだ。まあ、マギナだけは被害に遭っていないわけだから当然か。
振り返り、ゴンギルの店を見上げる。夕陽に照らされても、やっちまった感は健在だ。
と、貼り付けられた布の裏側に光が灯る。次々と、建物全体が光るように。
……血も涙もない追い打ちでしかない。
「もう……帰ろう」
「そだね」
「……だな」
誰からともなく歩き出す。
十歩も進まないうちにセラン武器工房に辿り着いた。リムとはここでお別れだ。
「ちょっと待ってろ。持ってきてやるから」
「うん~」
あぁ、そうだった。武器を預かってもらってたんだ。
しばらく待っていると、僕の武器ふたつとジャラジャラと金属音のする袋を器用に持って出てきた。
そういえばマギナもなにか買ってたんだっけ。
僕たちはそれぞれ受け取る。今度こそお別れかな。
「で? 次はいつ行くんだ?」
まだでした。
「う~ん、クーヤの服ができるのが三日後だから、それくらいかな」
服の完成を待つってことは、冒険のことかな?
「念のため、四日後にしとこうぜ」
「うん、そうしよっか」
その口振りだとリムも一緒に行くってことかな? って――
「ちょっと待った。リムくんも冒険者だったの?」
リムはきょとんとした顔をする。
「言ってなかったか?」
頷く。
「あぁ、そういや言ってねぇな。まあ、こいつらだけじゃ危なっかしいからさ、俺が一緒に行ってやってんだよ」
「リムの癖に偉そうに……」
「なんだと?」
ふたりは睨み合いを始めた。
でも僕には気になることが……「こいつら」って言った?
「あの……もしかして、ほかにもメンバーがいるのかな?」
マギナとリムは、あっさりと睨み合いを止め、こちらに向き直った。
変なところで息が合ってるな……。
「あとはレーシアだけだよ」
あぁ、彼女か。まあ、意外……ではないか。
「たまにゴンギルのやつも来やがるけどな」
「…………え?」
「ちなみにゴンさんは白手帳で、わたしたちの師匠だよ!」
……………………きっと人違いだ。
「へぇ、同じ名前の人がいるんだ……」
「あんちゃん、落ち着いて聞いてくれ。ゴンギルってのは、さっきのあいつだ。俺も認めたくねぇけど、白手帳なんだ。で、だ……俺たちの……あれだ……師匠……なんだ」
言葉を紡ぐごとに、リムの顔は苦渋に満ちていった。
「リムくん、ごめん。辛い思いをさせてしまった」
「いや、いいんだ。分かってくれたならな」
リムは疲れた顔に儚い笑みを浮かべる。その顔には妙な色気が………………だが、男だ。
「そんなに嫌かなぁ?」
マギナが小首を傾げてなにか言っている。
「お前も同じ目に遭ってみりゃ分かるぜ」
「そうとも。きっとトラウマになる」
「それなんだけど、前に訊いてみたんだよね。わたしにはああいうのしないんだねって。そしたら、そんなことしたら自警団に捕まっちゃうでしょって言ってた」
チィッ! なんだその常識的な回答は! しかも女の子も襲撃対象になってるじゃないか!
「今度襲ってきやがったら自警団に駆け込んでやる! 男相手でも捕まるってこと教えてやるぜ!」
「あぁ、リムくんに女装させてでも捕まえてもらう!」
――間――
「しねぇよ。殴るぞ」
「……すいません」
真顔で拳を構えられたので謝った。
「ねぇ、そろそろ帰ろ?」
「あ、あぁ、そうだね」
気づけば、あたりは薄暗くなり始めていた。
「あ、そうだ、レーシアにはリムから伝えといてよ。もう帰っちゃってるかもだから」
「ん、あぁ……そうだな。俺のほうが……家、近いしな」
なに食わぬ顔でそう言ったリムは、少しだけ視線を反らした。
この反応……僕、気になります!
だけど変に追求すると殴られそうだから、今日のところはやめておこう。
「じゃあ、よろしくね~」
マギナは手を振り歩き出す。
それに応えるようにリムは右手を上げる。
短剣とハンマースピアで両手が塞がっている僕は、軽く頷いてリムと別れた。
マギナは歩きながらリュックから肩を抜いて、体の前で開けた。袋をリュックに入れたいのだろう。
「マギナさん、それ持つよ。僕も短剣を入れさせて欲しいし」
「いいの? ありがとう!」
笑顔のマギナからリュックを受け取り、まずは袋を、次に短剣を仕舞い、左肩に担ぐ。
まあ、かなりお金を使わせちゃったみたいだし、荷物持ちくらいはしておかないと。
帰る途中、森の中で夜を迎えてしまった。家まではそう遠くないけど、このまま進むのは危ない。
僕はここぞとばかりに精霊術で光を生み出して夜道を照らした。
そして、アルメリス精霊書店に辿り着き、ホッと一息ついたところで、僕は昏倒した。
調子に乗って精霊術を使い過ぎてしまったようだ。
人も道も建物も、すべてが夕陽の暖かい光に包まれている。
人通りは少なくないけれど、昼間のような慌ただしさはない。気怠さと静かな活気が混ざり合ったような、独特の空気が漂っている。気を抜けば、あっという間にこの雰囲気に呑まれてしまいそうだ。
リムはもうあちら側に呑み込まれてしまっているようで、脱力して呆けた顔をしている。無理もない。あのドタバタから一気に解放されたんだ。僕も並んで緩みたいけど、家に帰り着くまでは我慢しないといけない。
マギナはまだ元気そうだ。笑顔で腰に手を当て、鼻から息を吐いている。彼女を照らす夕陽だけは、まるでスポットライトのようだ。まあ、マギナだけは被害に遭っていないわけだから当然か。
振り返り、ゴンギルの店を見上げる。夕陽に照らされても、やっちまった感は健在だ。
と、貼り付けられた布の裏側に光が灯る。次々と、建物全体が光るように。
……血も涙もない追い打ちでしかない。
「もう……帰ろう」
「そだね」
「……だな」
誰からともなく歩き出す。
十歩も進まないうちにセラン武器工房に辿り着いた。リムとはここでお別れだ。
「ちょっと待ってろ。持ってきてやるから」
「うん~」
あぁ、そうだった。武器を預かってもらってたんだ。
しばらく待っていると、僕の武器ふたつとジャラジャラと金属音のする袋を器用に持って出てきた。
そういえばマギナもなにか買ってたんだっけ。
僕たちはそれぞれ受け取る。今度こそお別れかな。
「で? 次はいつ行くんだ?」
まだでした。
「う~ん、クーヤの服ができるのが三日後だから、それくらいかな」
服の完成を待つってことは、冒険のことかな?
「念のため、四日後にしとこうぜ」
「うん、そうしよっか」
その口振りだとリムも一緒に行くってことかな? って――
「ちょっと待った。リムくんも冒険者だったの?」
リムはきょとんとした顔をする。
「言ってなかったか?」
頷く。
「あぁ、そういや言ってねぇな。まあ、こいつらだけじゃ危なっかしいからさ、俺が一緒に行ってやってんだよ」
「リムの癖に偉そうに……」
「なんだと?」
ふたりは睨み合いを始めた。
でも僕には気になることが……「こいつら」って言った?
「あの……もしかして、ほかにもメンバーがいるのかな?」
マギナとリムは、あっさりと睨み合いを止め、こちらに向き直った。
変なところで息が合ってるな……。
「あとはレーシアだけだよ」
あぁ、彼女か。まあ、意外……ではないか。
「たまにゴンギルのやつも来やがるけどな」
「…………え?」
「ちなみにゴンさんは白手帳で、わたしたちの師匠だよ!」
……………………きっと人違いだ。
「へぇ、同じ名前の人がいるんだ……」
「あんちゃん、落ち着いて聞いてくれ。ゴンギルってのは、さっきのあいつだ。俺も認めたくねぇけど、白手帳なんだ。で、だ……俺たちの……あれだ……師匠……なんだ」
言葉を紡ぐごとに、リムの顔は苦渋に満ちていった。
「リムくん、ごめん。辛い思いをさせてしまった」
「いや、いいんだ。分かってくれたならな」
リムは疲れた顔に儚い笑みを浮かべる。その顔には妙な色気が………………だが、男だ。
「そんなに嫌かなぁ?」
マギナが小首を傾げてなにか言っている。
「お前も同じ目に遭ってみりゃ分かるぜ」
「そうとも。きっとトラウマになる」
「それなんだけど、前に訊いてみたんだよね。わたしにはああいうのしないんだねって。そしたら、そんなことしたら自警団に捕まっちゃうでしょって言ってた」
チィッ! なんだその常識的な回答は! しかも女の子も襲撃対象になってるじゃないか!
「今度襲ってきやがったら自警団に駆け込んでやる! 男相手でも捕まるってこと教えてやるぜ!」
「あぁ、リムくんに女装させてでも捕まえてもらう!」
――間――
「しねぇよ。殴るぞ」
「……すいません」
真顔で拳を構えられたので謝った。
「ねぇ、そろそろ帰ろ?」
「あ、あぁ、そうだね」
気づけば、あたりは薄暗くなり始めていた。
「あ、そうだ、レーシアにはリムから伝えといてよ。もう帰っちゃってるかもだから」
「ん、あぁ……そうだな。俺のほうが……家、近いしな」
なに食わぬ顔でそう言ったリムは、少しだけ視線を反らした。
この反応……僕、気になります!
だけど変に追求すると殴られそうだから、今日のところはやめておこう。
「じゃあ、よろしくね~」
マギナは手を振り歩き出す。
それに応えるようにリムは右手を上げる。
短剣とハンマースピアで両手が塞がっている僕は、軽く頷いてリムと別れた。
マギナは歩きながらリュックから肩を抜いて、体の前で開けた。袋をリュックに入れたいのだろう。
「マギナさん、それ持つよ。僕も短剣を入れさせて欲しいし」
「いいの? ありがとう!」
笑顔のマギナからリュックを受け取り、まずは袋を、次に短剣を仕舞い、左肩に担ぐ。
まあ、かなりお金を使わせちゃったみたいだし、荷物持ちくらいはしておかないと。
帰る途中、森の中で夜を迎えてしまった。家まではそう遠くないけど、このまま進むのは危ない。
僕はここぞとばかりに精霊術で光を生み出して夜道を照らした。
そして、アルメリス精霊書店に辿り着き、ホッと一息ついたところで、僕は昏倒した。
調子に乗って精霊術を使い過ぎてしまったようだ。
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