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モミザの港街へ

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 翌朝、伯爵が俺達の部屋に来た。

「伯爵、メルク様。この度は、本当にありがとう御座いました」

「陛下も君の事を気にいった様で良かったよ。私はここで用があるので、2、3日残る事になった」

「国王も将軍も、私の思惑を知りながら乗って下さった様です」

「ふふ」

「私達はボルチスカ王国に行きます」

「君にもやる事があるのだね。では、また会おう」

「はい、それではお元気で」


城の外に出るとミリさん達が待っていた。

「アキさん、ここでお別ですね」
「港街のモミザに行くんでしょ」

「はい、船でボルチスカ王国へ行こうと思って」

「セシルちゃん海が見れるわね」
「はい、楽しみです」

烈風の牙の人達と別れてから、馬車の運行商会に行く、モミザの港まで2泊3日だ。

1日目は、ティネスの街だ。

大好きなハンフリー・ボガートの真似をして飲み始めた酒、バーボンが飲みたくなったので酒場に来ている、同じ物があるか分からないので似た味の酒があるか色々試してみる。

「これ凄く不味いです」
「セシルは果実酒がいいよ」

「マスター、この子にアポーハニーを1つ。俺にはその棚にある酒を左から順にショットグラスでくれ」

「あいよ」

『アキ、お酒強いのね?』
「映画の主人公のマネをしてたら強くなったのさ」

『嫌な匂いが来たわよ』
せっかく楽しく飲んでるのにな。

「アキ様で御座いますか?」

「ああそうだ」
「ご相談が有りまして」

「どんな事かな?」

「宝珠を手に入れたと聞いていますが、本当でしょうか?」

「持ってるよ」

「私に売ってくれませんか、金貨2000枚でどうです?」

『安く見られたな』

「宝珠は誰にも売る気は無いよ」
「そうですか、残念です。では」


『20人いるわね』
『1人を除いて、たいした事の無い奴ばかりだ』
『待たして置けばいいよ』


「ご主人様、これ甘くて美味しいです」
「飲み過ぎちゃダメだよ」


何杯目かに飲んだ『ボアロゼス』と言うのが好きな味だった、セシルはいい感じで酔っていて楽しそうだな。

店を出て裏の路地に入ると、さっきの男が出て来た。

「先ほどはどうも、死にたく無ければ宝珠を私にください」

『アキ、いいかしら?』
『あいつは残しておいて』
『いいわ』

「大人しく帰った方がいいのでは?」

「それは無理ですね。お前達、行くぞ!」

「……えっ?」

「死にたく無ければ、そいつらをかたづけて帰ってくれ」

固まっている男を無視して、宿に戻り、酔いざましに風呂に入る。

「ご主人様、だいしゅき!」
「うぷっ」

泡つきオッパイがぷるん。

セシルのオッパイは[ぷるん]だった。


はしゃぐセシルを抱っこしてベッドに置くと寝てしまった。

俺の頭の中で、天使と悪魔が戦っている。

「オッパイをツンツンしろ!きっと、あんあん言うぞ」

「ダメよ、セシルはまだ子供なのよ」

「15才は、この世界では立派な大人だ。ツンツンしろ」


『アキ、いい加減にしなさい』
「はい、もう寝ます」


 馬車は次の街、コルンに向かって走る、俺達の他に4人組のパーティーがティネスの街から乗ってきた。

世間話をしながらお互いに自己紹介をした、人族の男2人、エルフの女2人の混合パーティーだ。

「では、アキさん達もボルチスカ王国のダンジョンへ行くんですね」

「そうです、それにしても、エルフの国ににダンジョンが有ったなんて知りませんでした」

「そうですか、けっこう有名ですよ。貴重な精霊石が出るので」

「精霊石?」

「ええ、種類もたくさんあって綺麗な石で、とても高価なんです」

「精霊を呼べるのですか?」

「残念ながら、それは出来ません」

「昔はエルフと砂の民が、出来たと言われていましたけど」

また、砂の民が出て来たな。

「今、出来るとしたら、神殿にいらっしゃるエリクシール様ぐらいでしょう」

あの女性、エリクシールって名前なのか。

「エリクシール様ってどんな方ですか?」

「首長達の中の首長、大首長バンデ様の娘でリッカフェの王女様です」


<げっ、あの女、王女だったのか>
<態度でかかったものね>


「王女様が神殿の女神像の前で与える加護ってどんな加護ですか?」


「王女様が加護をですか?」
「ええ、シェレーニア様の加護です」

「聞いた事がありませんが」

「そうですか、ありがとう御座います」

みんなで話しをしていると、時間が経つのは早い、お面の人達の襲撃なども無く、夕方に2日目の街、コルンに着いた。

「セシル、何が食べたい?」

「今日も、甘いお酒が飲みたいです」

それは、いい。お風呂で[ぷるん]が待っている。

「じゃ、酒場で何か食べながら飲むか」
「はい」

宿の娘さんに、店の事を聞いてみたら、高台にシーフード主体の料理を出す酒場が有るそうだ。

行ってみる事にした、少し坂を登ると、オープンテラスがあってちょっとしたカフェバーみたいな洒落たお店だ。

せっかくなので、テラスに座ると女の娘が注文を取りに来た。

「店のお勧め2人前、それとパナッポハニーとボアロゼスをダブルで」

「かしこまりました」

可愛い女の子がいて、旨いお酒にきれいな夜景、なんてロマンチックなんだろう。


『アキ、また来たわ』

もう、雰囲気ぶち壊しだ。

「死にたいのですか?」

「ち、違います。部下達とも話しあって決めたのです。話を聞いてください」

「一応、話して見て」

「この間、戦って起こった事を師団長に報告して、もっと強い人をと言ったんですが、信用してくれないのです」

『気の毒に』

「そうなの」

「それに今は、暗殺部隊のハイクラスの人達は、逃げた勇者を追いかけているので、お前達で何とかしろと言われて」

『大変なのね』

「貴方はけっこう強いし、いいスキルを持ってるから他の国で働いたら?」

「えっ、……やはり貴方に敵うはずがないという事を確信しました。マグラ様は裏切り者に厳しい御方で、必ず見つかって始末されます、国に家族が居る者もいます」

「う~ん、人質を取られているって訳か」

「新しく来た私の部下も、死にたく無いと言ってます。何かいい方法は無い物かと思いまして」

「じゃ、みんな死んだ事にすれば」
「どうやってですか?」

「耳を貸して、ゴニョゴニョ」

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俺達は、酔いざましで大通りを歩いて帰る事にして、露店などを見て回る。

街中は、まだ買い物する人達がけっこういた。


「キサマ、シニタクナケレバ、オトナシク、ホウジユヲ、ワタスノダ」


なんと酷い棒読みだ。

「なんだ?」「ケンカか?」「盗賊らしぞ」

「誰か、衛兵を呼んでこい」


「ふざけるな、断わる!」
「ミンナ、カカレ!」

「ダークヘルストーム!」

『卑弥呼さん、お願いします』
『ふふ、幻影!』

「グワァァァ!」

「凄い。みんな一瞬で燃え尽きてしまったぞ」

「ほ、ほんとだ」


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「ガムイン隊長、アキさんがいい人で良かったですね」

「ああ、感謝せねばな」

「これから、どこへ?」

「我々はこれより、グラコス王国に潜伏して、自分達を鍛えながらダネン王国から家族を救う機会を待つ」


「「「「「おお!!!」」」」」




翌日の朝、予定通り馬車はモミザに向かって出発した。

「昨日、大通りで騒ぎが有ったらしい」

「アキさんって、もしかしてアルダバランのダンジョンを制覇したアキさんですか?」

「そうなんです。昨日も宝物を狙った盗賊に襲われて」

「大変ですね」

「ほんと、迷惑な話しです」

「大体、ダンジョンを制覇するほどの人なのだから強いと思わないのかな?」

「欲に目が眩むんじゃない」

「バカよね」

ダンジョン制覇の話しをしている内に、昼前にモミザの港街に着いた。

気のいいパーティーの人達と別れて、先ずはメシだ。

ゆっくり店をさがす事にしよう。



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