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不浄の門編

不浄

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 賢者が作ったと言う辞典を引きながら、魂の世界だか精神の世界かの入口を造る手順を覚えていく。

「はぁ~」

こう言う地道な作業は、ため息が出る。次は"ナジス"どう言う意味だ?……ふんふん、不浄と言う意味だ…………不浄ね、不浄……不浄の門、関係が有るのか?

……成る程。

ーーーー



部屋の中央に大きな魔法陣を1つ、その周りに小さい魔法陣を4つ造る。

大きな魔法陣に入って、書きためた文言を唱える。

[トントン]

誰よ、いいところを邪魔するの?

「シンさん?」
「うっ、リサ、レナ、ミイ」

「何日も顔を見せないで、1人で何をやっているのです。みずくさいですよ」

「ぶにゃぅ」
「いや、これはだな」

「伯爵に話は聞きました。私達も行きます」

「しかしだな、ダンジョンとは違うのだぞ。もし帰ってこれなかったら、この世界はどうするんだ?」

「そ、それはですね……」

「ほら見ろ、お前達に無責任な事は出来まい。俺だけで行く、心配するな」

「解りました。でもミイは連れて行って下さい」
「……解った、ミイ、いいか?」
「にゃう」

「よし」

改めて確認だ。向こうの世界で俺のスキルが使えるか、行ったらすぐ確認する事、これが最初にやる事だ。

「深淵に潜む闇の住人よ我は求め訴えたり、不浄の蠢く負なる世界へ誘え!」

4つの小さな魔法陣が輝き順に回り出す、4つ目が回り出した時、大きな魔法陣が光り俺を包み込んだ。

「「シンさん!」」


光に眩んだ目が慣れ、元に戻り周りが見える。ここはシンシアの部屋ではないのは明らかだった。

時空間に入り、ミイが居るのを確かめる。

「にゃ!」

時空間に入れるし、造れる。時空間の外に出てミイにライを召喚してもらう。ライが出てきた。

「がぅ」
「よし、魔法も使えるな。行くか」

何処に行けばいいか判らないが、全体が赤みがかったこの世界を歩く。

暫く歩くと大きな河が在った、どんよりとした流れの河だ。向う側は薄暗い、なんとなく解る。あっちは、あの世で冥界になるのだろう。

河沿いを下流に向かって歩いて行くと、冥界の方を見て立っている女性がいた。

「シンシア?」
「誰だ貴様?」

「にゃう」 「がるる」

意識を乗っ取られているのか?誰の仕業か大よその見当はつく。

『私のシンシアに近づく奴は誰だ?許さんぞ』
「バルキス公爵だな?」

『ほう、私を知っているのか?この世界にまで知っている者がいるとは、私も有名になったものだ』

「シンシアを自由にしてもらおうか」

『貴様、誰に口を利いておる、死ぬがよい』

俺の時空間に落とす。


『ぬぅ、何をしたか知らんが、こんな事ではシンシアを解放できんぞ』

「そんな事は承知しているよ。今度はお前が廃人になる番だ」

「何だと?」


俺は前から不思議に思ってたんだ。人体実験をしてた姉妹が、いつ正気に戻ったのか?ってね。死者の書を訳していて気づいた事も有ったので、伯爵に頼んで大急ぎでギルドに聞いてもらった。

起き出した姉妹が暴れ出したので、ギルドがやった事は実体の持たない生命体を攻撃する魔法、"ブレイクノンマテリアル"と混乱を治す"リマインド"をかけたそうだ。

よくそんな事を思いついたなと感心したのだが、丁度その場に、王都に戻る途中の宮廷魔道師、レイオダリル様がいらしてたそうだ。運が良かったとしか言いようがない。

そして1つの魔道具と、いくつかの巻物も伯爵に用意してもらった。

「不浄の意味は、おおよそ見当がついている。この巻物は宮廷魔道師様に作ってもらった特注の物だ。"ブレイクノンマテリアル"と言えば、お前なら解るだろう?」

「くっ、それをどうするつもりだ?」
「決まってる。お前を撃つ」

「そんな事をしたら、シンシアがどうなっても知らんぞ」

「はは、安全なのは確認済みだ。消えろ!」

巻物が作動し閃光がシンシアを包み込んだ。シンシアはその場に崩れ落ちた。

『はは、バカ目。攻撃方法を先に言う奴がいるか』

黒い霧が人型になっていく。バカはお前だ、シンシアの外に出てもらわねば困るからな。

『今度は私の番だ……死ね』

「滑稽だな。ここの中は俺の世界だ。お前に自由は無い」

時が止まり、動かない黒い人型を残してシンシアと2人外に出る。


「お待たせ」
「にゃ」「がぅ」

「バルキス公爵、お別れだ」

時空間を閉じる。これで、あいつの腐った感情、精神は消滅し、ゼオノバ王国の本体は、生ける屍になった。


シンシアに混乱回復の魔道具を使う。直ぐにシンシアは、意識を取り戻した。

「貴方は?」

「アルカド伯爵に頼まれて貴女を迎えに参りました」

「お父様に……バルキス公爵は?」
「片付けました」

「えっ、……素敵ですね。ありがとう御座います」

「これで元の世界に戻れる筈です。試して見て下さい」

「はい」

シンシアの姿が薄れて行く、帰った様だ。

「さあ、俺達も帰ろう」
「にゃう」「がぅ」


ーー

「「シンさん!」」
「ただいま」

「シン殿、ありがとう」

伯爵とシンシアが抱き合ってこっちを見ている。

「シン様、感謝致します」
「良かったですね」


ーー

「不浄の意味が判ったのですか?」
「ああ、大体合っていると思うぞ」

「何なのです?」

「人の持つ負の感情。妬み嫉み、その他もろもろだ。理屈は解らないが、これが意思を持ったのだろう。これに取りつかれると、自分の欲望が暴走する。そして俺の想像だが、肉体と精神が極限まで強化される」

「ああ、それでですね」
「な、納得するだろ?」
「「はい」」


取りつかれた人の対応は判ったが、誰でも使える魔法じゃない。まだまだ解らない事だらけだ。

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