春風の魔法少女 ルチルの大冒険

ウェルザンディー

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第12話 ポプラーの村

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 かくして翌日、ルチルとクレインは馬車に乗り、魔術師団のベースキャンプを後にする。目的地はポプラーの村だ。

 所要時間は2日程。またしても途中でベースキャンプで休憩しつつ、平野を眺めゆく旅が始まる。風景に心を溶かしながら、ルチルは買っておいた乾パンをもしゃもしゃ食べるのだった。



 おやつで腹を満たしつつ、とことこと馬車に揺られる。結構な間乗っていたが、戦闘になりそうな気配は微塵も感じられなかった。




「んー……何も襲ってこないね。ガンドや野生動物の異変も見当たらないし」
「おれとしては有難いんだがな。最近は雲が多くて、月が出てねえのなんの」


 クレインは腕を曲げ伸ばししながらぼやく。ルチルの視線は彼のペンダントに向かっていた。


「月の光を集めるんだったね。それで魔法が強力になるの?」
「ま、そういう仕組みだ。おれの魔法は月の出ていない所で使うと、威力がすっげえダウンするんだよ。あの山賊の集まりすら危うかったんじゃねえかな」
「えっ……ハイリスクすぎない?」
「だがリターンは大きい。その大きさ故に、おれの一族は皇帝やれてるんだからな」


 それもそうかとルチルは納得する。言動故に忘れかけていたが、彼は皇子様なのだ。


「おれの一族……名をレイヴァ家って言うんだけどよ。その初代当主は特別なルーンを纏っていたらしい」
「どんな風に特別なの?」
「太陽が出ている日中は、身体能力が3倍になる」
「3……3倍ぃ!?」


 筋力は3人分、他の人より3倍も速い。あとは3倍痛みに耐えられる。ルチルが考えただけでも、これだけの物凄いことが頭に浮かんだ。


「あ、頭の回転は例外な。それは持ち前の知識だけだ」
「そりゃあね、頭の回転も3倍だったらクレインは向こう見ずじゃないでしょ」
「何も言えねえ~……とにかく戦闘においては、普通の人間より有利に立ち回れるんだよ。ただし日が沈んでいる夜には効果がない」

「ピーキーな効果だね……あ、でも何らかの方法で日光を浴びちゃえば」
「勘が鋭いなルチル。その初代もペンダントに日光を集めて、夜の戦闘時には解き放っていたらしい。先祖代々の方法ってわけだな」



 今こうして出ている日光の下で、とても強くなっている誰かがいる。ルチルはその事実に世界の広さを実感するのだった。



「んで、初代の子孫である皇帝一族にも、ルーンが受け継がれている。レイヴァの血が流れているなら、誰もが日中は身体能力3倍だぜ」
「なんて強力な血筋なんだ……! でもってクレインは『月』の魔法を使うから」
「条件もひっくり返って、おれは夜に本領発揮ってわけだな。そんな時間にゃあ寝てるっつーの」


 やれやれと肩をすくめるクレイン。自分の体質に困っているというよりかは、どこか楽しんでいる様子も感じられた。


「その……クレインのお父さんとかも、クレインみたいな魔法使うの? 日中じゃないと威力下がっちゃうの?」
「親父と一番上の兄貴に関しては、そういう魔法だ。名前もずばり『太陽』。初代も使っていた魔法で、基本的にはこれ使える奴が帝位を継承する」
「へー、帝位継承権みたいな感じなんだ。でも今の言い方だと、そうじゃない人もいるの?」
「高確率で生まれてくるが、必ずってわけじゃねえ。一番上の姉貴は人を魅了させる魔法で、二番目の兄貴は物を燃焼させる魔法だ」

「……その魔法の威力も、日中だと威力3倍?」
「3倍だ。調子乗ってる時の姉貴には誰も逆らえねえし、兄貴の魔法はすげ~ぞ~」
「へー、やっばい……っていうかさ」



 話が終わるどころか、次の疑問が浮かんできてしまったルチル。



「クレインって、きょうだいがたくさんいるの……?」
「これでも5人きょうだいの末っ子だぜ? おれが特異体質で生まれてきちまったから、おれの教育に必死になって、はやめちまったようだけどな」
「ちょっ……そういうこと、言わないのっ。自虐みたいに……」


 14歳にもなるルチルは、子どもがどうやって誕生するのか知っている。ある日ニーナが教えてくれた。

 なのでクレインがとか言い出したのを受け、窓の方に顔を向けてしまった。心なしか頬が赤く染まっている。


「……記録によればぁー、多い時で17とかぁー、いたらしいぜぇー?」
「じゅうななあ……!?」


 何故ルチルが頬を赤らめたのか察しがついたので、クレインは追撃を加えてからかう。

 予想通りルチルはもっと顔を赤くして、頬に手を両手を当てて、を繰り広げる。


「えっ、17とか!! 無理だよ体力持たないじゃん!! 子育てだって大変だろうし……あ、皇帝ならメイドさんいっぱいいるか……えーでもでも17人産むとかどれぐらい体力必要なの……無理無理わたしには絶対無理……!!」



(……もしかしてルチル、皇帝一族の仕組み知らねえのか)

(王妃1人で17人産むと思ってやがるな……面白いから黙っとこう)







 このようなお年頃らしい会話を挟みながら、二人は無事にポプラーの村に到着したのであった。



「やっときたぜ……うっわ」
「うっわって何!? 今何に対してうわって思ったの!?」
「いや……装飾が!! 豪華だなって!!」


 村に入る門は、造花や綺麗な石などで飾られており、クレインからすると自己主張が激しかった。

 とは言うものの、観光に力を入れる村側からすると、村の特産品を大々的にアピールするのは必然なのであって。


「これはね、ポプリに使う材料を模してるんだよ。あれがマーガレット、そっちが『紅瑪瑙』、そんでもってあれは……『インフェルノソルト』!」
「インフェルノってなんだよ!? 何で塩でインフェルノしなくちゃならねえんだよ!?」


 門をくぐらずに騒がれていたら、近くにいた人は流石に気になる。案内担当であろう女性が、二人に話しかけてきた。


「こんにちは。ポプラーの村にようこそ~」
「あっどうも~!すみません、空いている宿屋とか知ってたりしますか!?」
「ええ、大丈夫ですよ。よければご案内しましょうか?」
「お願いしま~す!」



 女性の後をついていく形で、ルチルとクレインはポプラーの村に堂々入場。移動する間、ルチルが歯を食いしばり我慢していたのを、クレインは見逃さない。



「ルチル……今にでも店に入りたいんだな……」
「だってぇーかわいいんだもん! でも今は……くっ! 今日の寝床確保が先じゃい!」
「理性が残っているようで何よりだ」


 女性はルチルの悶絶を見て、くすくす笑いながら歩いていく。


「にしても流石ポプラーだ。装飾目的の小物にまで専門店がある……!」
「作るつもりはなくても、眺めているだけで楽しいものですよ。この後は買い物に行かれる予定ですか?」
「宿取って荷物置いたらすぐ行きます!」
「元気が有り余ってるな……」


 とはいえこの村の風景は、クレインにとっても新鮮である。木を主体にした建築物は、石やレンガの建築に慣れた彼には刺激的なのであった。





 そんな刺激を鼻を通じて一層体験できる、木の香りがくすぐったい宿屋に、村にいる間はお世話になることに。


「わーっ、すがすがしいー!」
「どんな感想だよ」


 ルチルにツッコミを入れてはいるが、実はクレインの方がうきうきしていたりする。


「ぶへー。布団もふかふかだぁ~」
「いいのか寝っ転がって。この後買い物行くんじゃないのか?」
「その前にちょっと休憩なの~……うへへ~すべすべ~……」
「全く、女子って本当に自由だよなー」



 ルチルはポプリの材料がたくさん買える村にやってきて、少し舞い上がっていたのだろう。


 肩から下げている、ポシェットのふたのボタンが外れていたことに、気づいていなかった。



(……ん?)


 そしてそこから見えた中身を、クレインが見つめていたことも。




(あれは……貝殻か? すげえ綺麗な透明……ガラスでできてんのか?)

(いや、ガラスならもうちょっと濁ってるか。それに割れる危険性高いから、揺れやすいポシェットなんかに入れて持ち歩かねえ)

(だからといって、あんな透明を持つ鉱物なんて、聞いたことないが……)
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