春風の魔法少女 ルチルの大冒険

ウェルザンディー

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第18話 アンドヴァリ港での出会い

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 ベースキャンプを出発した後は、ヤルンヴィドから距離は離れていったので、クサレビトの被害に見舞われることはなかった。そのまま何事もなく、目的地のアンドヴァリ港に到着する。



「とうちゃーく……おじさんありがとうございました」
「ああ、こちらこそ悪かったな。クサレビトの恐怖に晒してしまった」
「いえ、あれは事故みたいなものでしたし。過ぎ去ったことは気にしてないですよ」
「はは、気遣い上手な嬢ちゃんだ」


 御者の男性は馬車から降りて、港の方角をちらちら眺めている。


「さて、アンドヴァリ港……ここ2年でできた新しい港だ。建設を主導した『小人ベリル』の商人共が幅を利かせている」
小人ベリルかぁ……」

「知ってはいるだろうが、あいつらはいつだって姑息でずる賢い。財布の紐はくれぐれもきつく締めておくようにな」
「ご忠告、ありがとうございますっ」
「これぐらいお安いもんだ。じゃ、いい旅をな!」


 男性は軽く手を挙げて、ルチル達の前から去っていくのだった。




 と、そんな彼の後姿を追っているうちに。


「こんにちは~お二人さん! ご旅行ですか? 観光ですか? どちらにしても若くていいですねえ~!」


 早速話しかけてくる者が一人。




「……ん?」
「クレイン、足下だよ。こっちこっち」
「あ……やっべ、すみません」


 クレインは声をかけられた後、町の方に視線を向けていた。しかしルチルに肩をつつかれ、足下を見やる。


「いや~慣れてますので! 気にしないでください!」
「そいつはどうも……」



 そこにいたのは全長70センチ程度の、出っ歯と糸目が特徴的な男だった。ルチルやクレインより明らかに低い身長だが、態度は経験豊富な大人のそれである。

 この男のような種族が小人ベリル。人間の半分にも満たない小柄な体躯を持ち、巨大な人間達の隙を突く狡猾さも特徴としている。



「わたし達、これから船に乗ろうとしているんです。南エリアに行きたくて」
「アンドヴァリ港の南ですねぇ!? するとこの内海を通って、ホッドミーミルの南に向かうと、そういうことだ!」
「はは、まあそういうことですね……」


 直感的にらちが明かないと感じたルチル、一歩前に踏み出す。男は手を揉みながらそれについてきた。


「よろしければおすすめの乗船受付所をご案内しますよ!?」
「いい、必要ねえ。おれ達だけで探せる」

(気をつけろルチル、こいつはおれ達からぼったくろうとしている)
(あ~……やっぱり?)


 狡猾とはこういうことだ。人の優しさにつけ込み、そこから大量の金銭を得ようとするのが彼らのやり口なのだ。



 というより、目の前に広がる町中には、他にもそういうことをしている小人ベリルがいる。手を揉んで下手に出ているが、内心ではいつ金をむしり取ってやろうかと企んでいる。


「ちょっとちょっとお二人で何を話されてるんですかぁ~! 私も混ぜてくださいよぉ~!」
「数分程度しか面識ねえのにする話なんてあるか。案内とか間に合ってるから、よそに行ってくれ」
「ああ! そういうのは危険です危険! 自分は大丈夫と思っている人ほど、被害に遭いやすいんですよ~!」


 男はちょこまかとルチルやクレインの周囲をうろついて、ぴょんぴょん飛び跳ねて視界に入ろうとしている。ぶつかってしまいそうでハラハラしてしまう。


「クレイン、あれが一番大きい受付所みたい。あそこで買おう」
「そうだな」
「ちょっと!? あの受付所は危ないですよ!! だって始人トネヴィがやってるんですから!!」


 急にわめく男を無視して、ルチルとクレインは受付所の中に入ろうとする。


小人ベリルが経営している受付所なら安心で格安!! 私の知り合いにもいますのでね、今から連れてってあげますよぉ~!?」
「……もう、しつこい……!」
「落ち着けルチル、こういうのは無視するに……」



 その時、ルチルが前に進もうと突き出した足が、

 目の前で飛び跳ねていた男の腹部に命中してしまう。



「あっ……ごめんなさい!」
「いだあああああ!!! ふぐあああああ!!!」


 男は腹を押さえつつ、腹の底から声を出し悶える。ルチルはそんな強く蹴ったわけではないが、苦しそうな声を聞いてしまっては、罪悪感は自然と湧き上がってしまうもの。


「えっと……その……」
「ひどいですぅー!!! 私がせっかく、せーっかく親切にしてあげようとしたのに、それを無下にするなんて!!! 挙句に暴力ですか!?!? 人の心はないんですかぁー!!!」



 男が大きな声で泣き叫ぶので、周囲の人間から視線を集めてしまう。無言の圧力がこの場から逃げ出すことを難しくしてきた。

 挙句には男は目が合った人間に接近し、自分がいかに悪いかを訴え始めた。



「聞いてくださいよ!! あの娘が、私の腹をドグシャアって蹴ったんですよ!! 酷くないですか!!」
「え、ええ……まあ……」
「うん……そうだな……」
「ほらー!! 皆酷いって言ってる!! どう見たって私が被害者!!」




「さてわかってますね!? 人に怪我を負わせたら何をするか!!」

「そう金です、事を大きくされたくなければ今すぐ私に示談金を――はにゃ?」




「……いい加減にしろよ。年端もいかねえガキから搾り取ろうとしやがって」

「最近の小人ベリルってのはこんなにも節操がねえのか? はあ……」




 待合室の椅子に座っていた青年が、騒ぎを聞きつけると立ち上がり――

 ルチルに絡んでいた男の首元を掴み、右手で軽々しく持ち上げる。



 そして空いていた左手で、躊躇なく男の首を握りしめた。



「んぎゃあああああ!!!」
「二度とこいつらに絡まないと誓うか?」
「誓います誓います誓いますううううう!!!」
「ふん……」


 窒息死の危機に瀕した男は、青年の拘束から解放されると、地面を這いながら受付所から急いで逃げ出すのであった。





「……ありがとうございます!」
「ありがとうございます……助かりました」


 ルチルもクレインも、当然すぐに彼に近づき、思いっ切り頭を下げた。青年はどこ吹く風といった態度で、頭を掻いて笑顔を見せる。

 周囲の人間達も、騒ぎが収まるとルチル達からは視線を背け、自分達の用事に戻っていった。危機は完全に去ったのだ。


「なんてことはねえ。お前らの方こそ災難だったな、変なのに絡まれちまって」
小人ベリルはああいうのが多いとは聞いてたんすけど……無視が安定だって」
「無視してくるのは連中も予想できてるから、無視できないように手を尽くしてくるんだ。本当に厄介だよ」

「……あのっ! お兄さんはどの船に乗るんですか? わたし達は南エリアに行くんですけど……」
「おっ、それなら俺も南エリア行きだ。同じ船に乗りたいんだろ? 買ってきてやるよ」
「わ、ありがとうございます!」
「なあに、俺みたいなのがついていりゃあ安心だろ? お前らみたいな若いのはさ」



 青年は立ち上がると受付に行き、乗船券を2枚買って戻ってきた。



「ほらよ、1200クローネだ。2人合わせてな」
「ということは一人600クローネか……馬車の値段とそんなに変わりないな」
始人トネヴィの船乗り達が、必死の交渉してここまで下げたんだよ。船は他にも数ヶ所から出ているが、ここがアンドヴァリ港最安値だ」
「他は全部ぼったくりってことだな。クソッ、小人ベリル共め……」


 クレインが悪態をついているうちに、ルチルは青年に硬貨を渡し終える。


「ああ~お金がどんどん減っていくぅ~……」
「ははは。そうだ、俺の名前はジェルドだ。お兄さんって呼ばれるのもやもやすっから、名前で呼んでくれや」

「えっと、ジェルドさん、改めて本当にありがとうございます。それともう一つ……」
「どうした? ……ああ、この耳と尻尾のことか」



 ジェルドの姿を間近で見ると、これまた鮮烈な特徴が。頭からもさもさの耳が生え、腰元からはふさふさの尻尾が生えている。どちらも獣のような毛深さであり、見ただけでも獰猛さを印象づける。

 彼のような種族は狼人ガルムと呼ばれている。ホッドミーミルより西にある大陸『マナルヴィ』を主な居住区としており、あまり見かけることのない種族であった。



「はい。中々ありませんから、近くで狼人ガルムを見るのって」
「だろうな。余程の酔狂じゃないと、マナルヴィの外には出ねえんだ」
「ならジェルドさんは酔狂と、そういうことか?」
「粋な返しをするな~こいつぅ~」


 ジェルドはクレインの額を小突きながら、かなり機嫌がいい様子で話す。


「いでっ……」
「俺はあれよ、休暇よ。仕事ばっかりしていたもんで、たまには休めと言われてよ。それでマナルヴィの景色ばっかり見ているのもあれだから、海超えてきてみたんだ」
「旅行ってことですね。えへへ、わたし達と同じだ……」


 すっかり打ち解けた様子のルチルは、頬を綻ばせるのだった。
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