春風の魔法少女 ルチルの大冒険

ウェルザンディー

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第19話 嵐への抗戦

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「クッ……クソーッ!! あの犬ッコロワンワンめ!! もうちょっとで毟れそうだったのによぉ!!!」


 受付所を出た小人ベリルの男は、怒りに顔を歪ませながら、路地裏にまで戻っていた。


「今度会ったらタダじゃおかねえ……緑の瞳の小娘と!! それと蒼い炎のガキンチョ……!!」



「へえー、詳しく聞かせてもらおうか? 蒼い炎がなんだって?」




 男の背後にぞくりとする気配が一つ。


 慌てて見上げると、そこには杖を持った青年がいて、じっとりと見下していた。




「ひっ、ひええええっ!!」
「大丈夫だって、襲ったりしないから。ただ聞かせてもらいたいだけなんだ……蒼い炎がなんだって?」
「あ……ああ! それならさっき俺が接触した奴だ!!」


 男は両手を器のようにくっつけ、青年の下に持っていく。それをわかっていたかのように、青年は手の上にクローネ硬貨をぱらぱら落としていく。


「あの受付所から船に乗ったぜ……もうすぐ出るんじゃねーか?」
「そりゃあどうも……」


 青年はさらに追加で硬貨を落とすと、興味を失くして男の下を去る。



「へ……へへへ! ざまあ見ろってんだ! 一体どういうことか知らねえけど、お前らには裁きが下るぜ!」





 ルチル達を乗せた船は穏やかに出航し、晴れ空の下順調に海を渡り始めた。


 湖かと疑うかのように、波はなく静かな海である。雲が程よく日光を吸収し甲板にいても過ごしやすい。



「波、静かですね……これなら何事もなく到着しそう」
「地形上波が起こりにくくて、落ち着いた地域なんだよ、この周辺は」
「そうなんですか?」


 ルチルとクレインは部屋にいても退屈なので、先程出会ったジェルドに近くにいた。彼は話しかけられても煙たがることなく、気さくに二人の話し相手となっていた。


「周囲の半分以上が、標高高めの陸地に囲まれてるとな。風が入り込みにくくなるんだよ」
「半分以上かあ。確かにもうちょっと行った先には、群島があるんだっけ」
「そこで風が遮断されてるってことか。へ~面白え」
「地形によってその土地の分かも決まるからな。地図を眺めていると案外楽しいぞ」


 航海時間は約3時間。時折鳥の鳴く声だけを耳に挟みながら、のんびり航海は続く――





 はずだった。





「……ん?」


 ふと、ジェルドは頬に水滴が当たるのを感じた。そして手を出してみると、そこにも水滴が落ちてきた。


「参ったな、雨か……部屋に戻らねえと」
「え、でも雨が降りそうな様子じゃなかったのに……」
「だよな、どう見たって今後も晴れそう……」


 クレインが空を見回していると――




 遥か遠くの方に、目を疑うようなスピードで大きくなっていく、黒雲が浮かんでいるのを発見した。




「……おい。雨降らしてんの、あの雲じゃねえか……!?」
「え……」
「あれは――!」



「ガンド程度の魔力じゃあんなでかいのは生み出せねえ……間違いない」

「誰かが悪意を持って、この船を嵐に巻き込もうとしている……!!」






 甲板にいた人間達が、慌てて自分の生み出した雲を見つめ、指を差して逃げ惑っている。

 青年アグナルはその光景を見て、鼻を鳴らした。そのようなことをしても、この嵐からは逃れられないからだ。



「ぜぇぜぇ……お前ぇ!! 勝手なことしやがって!!」
「あ? 君ついてきたの? 沿岸線に先回りしとけって言わなかった?」


 アグナルは宙に浮かんで魔法を使っていたのだが、そこにまた別の山賊が接近してくる。身体の胴体だけがやけに膨らみ丸々としていた。


「その魔法、さしずめ『風船』と言ったところか……で? 魔法使ってまでわざわざ文句言いに来たの?」
「おれ達を道具みたいにこき使ってんじゃねーよってことだ!!」
「ああそんなこと。でも君達が彼を捕らえられていないのは事実だ。ということは、君達のやり方じゃ駄目だってことなんだよ? そこ理解してる?」
「こっ……このやろぉ~っ」


 山賊はふわふわ飛んでいくので会話が途切れてしまう。満足に文句も言えない状態である。


「ま、変なプライドなんて捨てちゃって、ぼくに全て任せればいいんだよ。この船を沈めて海に放り出された彼を、ぼく達の手で始末する。弱っているだろうから一対一タイマンの戦闘だって必要ないんだ」
「く、くそ~っ……」

「君はせいぜい、ぼくの素晴らしい『嵐』の魔法を、指咥えて眺めていればいいのさ。はっはっは!」
「癪に障るぜ……!!!」






 数分もしないうちに、黒雲は船の上空を覆い尽くし――


 そこから降り注ぐ雨と雷と風とで、容赦なく攻撃を始めた。




「なんて嵐だ……こりゃあ損傷なしで切り抜けられるかどうか……!」
「ジェルドさん!! これが魔法って言うなら、魔法を使っている奴を倒せば……!!」
「ああ!? お前何言ってんだ!?」


 ジェルドは語気を強めて、提案をしたクレインに反論する。


「雲は後ろから迫っていたんだ!! つまり魔法を使っている奴は後ろにいる!! 嵐を止めるのに船に来た道を戻させるのか? だったら嵐を耐え凌いで、抜けちまった方が早い!!」
「そんな……!」

「何を心配してるんだ? この船を動かしてんのは、海と船のことを知り尽くした専門家達だ。そいつらに任せりゃいいんだよ、俺達が余計なことをする必要はない」
「クレイン……ジェルドさんの言う通りだと思う」


 ルチルは冷静にジェルドの意見を肯定した。


「わたし達の目的は南に行くこと。悪いやつらを倒すことじゃない。ここでちょっかい出して死んでしまったら、元も子もない……わたしがあなたを助けた意味も!」
「っ……わかったよ」


 彼女に説得されたことで、とうとう引き下がるクレイン。


「よし、なら使っていない部屋に逃げ込むのが安定だな。船乗りに話を聞いてこよう」
「ジェルドさんはどうするんですか……?」
「俺は……職業柄困っている人間は放っておけないんでな。何か手伝いできないか聞いてくるよ」

「……ならおれも」
「お前は部屋に入ってろ! 気持ちはわからなくもないが……お嬢さんを悲しませたくないだろ?」
「ぐっ……」


 納得し切っていない様子のクレインだったが、頬を両手で叩いて気持ちを落ち着かせる。


「よし行くぞ! くれぐれもお前ら、無事でいろよ!」
「ジェルドさんも……無茶はしないで!」





 こうしてルチルとクレインは、船乗り達に誘導され、船底の空き部屋に避難することに。通りがけには、別の客が違う空き部屋に入っていくのを目撃した。



「きゃあっ!!」
「くそっ……結構強いな!?」


 船体の揺れはかなり激しく、部屋ごと傾くこともしばしば。気持ち悪くならないように工夫をしながら、二人は耐え凌ぐ。


「やっぱり嵐の発生源を討伐した方が……」
「クレイン! ……それはやめといた方がいいって、さっき言われてたよね!?」
「でもよ……!」


 一瞬息を飲んでから、クレインは続けた。


「この嵐を発生させている奴が、ウットガル山賊団の追っ手だって可能性もあるだろ!?」
「……! それは……!」


 ルチルも薄々感じていたことだった。波すらめったに起こらないような海で、あまりにも激しい嵐が起きた。偶然にしてはできすぎている。


「だとしたら、他の客や船乗りを危険な目に遭わせたのは、おれのせいってことだ……だからおれが何とかしねえと……!!」
「……誰もそうだって言っていないでしょ!? もしかしたら、全く関係ないかもしれないじゃん!!」



 ルチルは必死になってクレインの意見に対抗する。


 ここで負けてしまったら、飛び込む必要は一切ないのに、彼は危険へと立ち向かってしまうだろうと。



 だが状況は一変してしまう。




「きゃあっ!!」
「ぐっ……!!」


 ルチル達のいた部屋に強い衝撃が走る。


 そして部屋の壁に大きな穴が空き、そこから水が流れ込んできたのだ。


「海水……座礁しちゃったの……!?」
「掴まれ!! 早く!!」
「……うん!!」


 扉の近くにいたクレインに引っ張ってもらい、なんとか部屋の外には脱出できたルチル。


 腰元まで水に浸かってしまったが、それは乾かせばいいだけのことだ。



 穴は塞ぎようがないので海水はどんどん入ってくる。急いで扉を閉めなければ――



「……!!」



 ルチルは急いで上に避難しようとしたので、気づかなかった。部屋の方に視線を向けていたクレインだけが気づいた。



 ルチルのポシェットが、衝撃により開いてしまっており――


 海水に浸かってしまった中から、貝殻と白い宝石のポプリが飛び出してしまい、


 海の方に流されていくのを――



「くそっ……!!」
「えっ……!?」



 ルチルを上に続く階段の方に押し出しながら、クレインは部屋の中にためらいなく戻っていった。



「クレイン!? なんで、どうして……!?」


「クレイン……クレインーっ!!!」



 何度叫んでも海水が二人を引き離す。波に飲まれルチルは押し流され、クレインは必死に抗い立ち向かっていく――
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