ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第136話 ダンスパーティ・前編

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 園舎内は煌びやかに飾り付けがなされ、タキシードやドレスに着替えた生徒達が練り歩いていた。神の降臨を祝うと言う名目の下に、ただ生徒達が夜を楽しんでいるのみである。




「……で、そちらはどうしたのよ」
「なんにもしてないよぉ……」
「いや、何かあったでしょ……温泉入ったみたいになっちゃって」
「そうそうそれだぁ。この感覚、なんて表せばいいか、わかんなくってぇ……」
「……はぁ」



 純白のドレスと黒いタキシードに着替え、エリスとアーサーは主会場となっている体育館へと向かう。一番最初に合流したのはリーシャで、背中が大きく開いた青のドレスを着て中央の髪を団子状に束ね、横髪を少し残して流していた。



「先程奉納に行ってきたんだが、それからずっとこの調子だ」
「んーとね……供物を掴んだら、こんな気分に……」
「ほーん……強い魔力が悪影響を及ぼしたとか?」
「そんなんかもぉ……」
「……」


 着替えてもエリスはアーサーにべったりとしたまま離れようとしない。流石に人が多く且つそれぞれが会食や談笑に夢中なので、気に留められていないが。


「これ、いいよねぇ。ドレス、貸してもらえてぇ。わたし、こんなの初めてで、幸せぇ……」
「……うん、まあ、そうね」
「あるぇ。そういえば、他のともだち、どこ行ったんだろ……」

「あー……えっとね、ルシュドはこういったパーティ初めてみたいで。それで緊張しすぎで戻しちゃって……イザークと一緒に保健室に行ったんだ」
「そうだったか」
「で、カタリナは完全に迷子。私がちょっと目を離した間に人混みに飲まれちゃった」
「ふにゃあ。迷子って言ってもパーティだし、何とかなるでしょ」



 そんな会話をしていると、会場の喧騒がやや収まり、生徒達の視線が舞台上に向けられる。



「ん、何あれ」
「音楽部の学生ね。今から演奏するんだと思う。んでそれに合わせて社交ダンスするの」
「へぇ、決まった時間じゃないとだめなんだね」
「なんせこんなにいるから……そうだ、丁度男女ペアなんだから踊ってきたら?」
「いいのぉ?」
「いいみたいよ、一年生の友達も何人か踊ってるの見たし。身体動かせば頭も冷めるんじゃない?」
「んじゃあ行こうっ!」
「はぁ……」



 エリスはアーサーから離れたのも束の間、すぐにアーサーを引っ張って講堂中央まで向かう。





「ヴィクトール様……ですよね。よろしければ私とご一緒に踊りませんか?」
「申し訳ございませんが、先客が入っておりまして。大変心苦しいですが、貴女とはまた別の機会に」

「あのハンス様……もしよろしければ、私と……」
「ん、ごめんね。ぼく疲れちゃったから少し休ませてほしいな」




 こちらは社交場も手慣れた貴族二人。ヴィクトールは黒をベースに青のネクタイを合わせた物で、眼鏡は普段通りの物を着用している。ハンスは薄いクリーム色の髪が引き立つような、ネイビーを基調に金の糸で装飾された物を華麗に着こなしている。




「……先客とか冗談ほざけよ」
「俺だって少し休みたいのだ、このぐらいはいいだろう。社交辞令は貴様も大概だと思うが」
「こういう場ではね、あんまり波風立てないの。父上の耳に入りやすいから」
「……」



「……おっ! いるじゃんいい感じの!」


 ハンスが一目散に駆け付ける先には長耳の女生徒が一人。


「こんばんはお嬢様。ぼくはハンス・エルフィン・メティアという者だ」
「えっ! あ、あのっ、本当にハンス様……?」
「そっ、偉大なるエルフの血族が一つ、メティア家の嫡子さ。どうやら今から演奏が始まるみたいだから、一緒にどう?」
「はっ、はいっ! 喜んで……!」
「良かった。もし断られていたらエルナルミナス神に心を射抜かれて、危うく絶命するところだったよ。では参ろうか……」



 そのまま女生徒と共に中央に向かう様を、ヴィクトールは目を見張って追っていた。



「……他人への当て付け方だけは一級品だな……」
「本当にそうですねぇ」
「ああ……ノーラ先輩、こんばんは」
「こんばんはですねえヴィッキー君」


 壁に寄りかかっていたヴィクトールの下に、ひょこひょことノーラがやってくる。彼女が着ている物はドレスというよりはワンピースに近い。ついでに演奏も始まり、弦楽器の音が鼓膜を通じて心を刺激する。


「先輩は踊らないのですか」
「君は私が踊れるとでも思っているのですかね」
「すみません、失礼なことをお伺いしました」
「ドワーフは身体がちっこいですからね、なーかなか合う身長の相手がいないんですよ。私に社交の趣味がないのが救いでしたねこんちくしょう」
「……」



 ヴィクトールは改めて中央に目を向ける。男女ペアの生徒達が何組も集まって、演奏に合わせて足を動かしくるくる回っていた。



「……」
「ん、どうしましたかヴィッキー君」
「……ペア……」

「ペアですか? どれどれ……あ、アザーリアがいますね。相手は確かダレンと言いましたか。さっきも踊っていたような気がするんですけど、いやー元気ですねえ」
「いえ、そちらもですが……」
「んん? ……あ」



「……何ですかあの下手くそな動きは」





「こ、こうかなぁ……?」
「いや逆だ。どうやら右回りだ」
「えーっと次はぁ……こっち!」
「……踏んだぞ」
「わっ、ごめん!」



 エリスとアーサーは踊ってはいるが、周囲のペアの踊りを見ながらなので、ぎこちない動きで且つ時々止まる。



「わっわっ、押さないでよぉ!」
「……済まない」
「いいよ、わたしもお互い様ぁ……! 次はこうっ!」
「くっ……案外難しいものだな」
「そうだね! わたしもいけると思ったけど、そうでもないね!」



「でも、それが、楽しい!!!」
「……そうなのか? そうなのか!?」




 こんな調子で必死に足元と周囲の振り付けのみに集中しているので、他の生徒達の目を一際引くペアにも気付かない。




「刮目なさーい! わたくし達の華麗なる舞をー!」
「この世は舞台! ここも舞台! そして俺達は羽ばたく蝶なのさぁー!」


「意味深なこと言ってるけど大して意味はないやつ……!」
「いよーアザーリア! 太腿切れてるよー!」
「何か混ざってね?」



 時々身体を離しながら舞い踊るアザーリアとダレンを、リリアンとロシェが囃し立てる。その隣ではマイケルが乾いた目で突っ立っていた。



「……あ! アザーリア、気を付けて!」
<うふふふー!
<あはははー!


「駄目だ、自分達の世界に入ってしまって気付かない……!」



 三人がこの後の展開を予測して目を背けた瞬間。



「へぶっ!」
「……あら?」



 アザーリアとエリスが背中合わせで、胸を打たれるような大きな音を立ててぶつかり合った。





「……しゅぴぃぃぃぃ……」
「……っ! しっかりしろ!」

「ああ、申し訳ございま……ってまあ! 誰かと思いましたらエリスちゃんではなくって!?」
「ふええ……アザーリアせんぱい……」



 エリスはゆっくりと顔から倒れ込み、アーサーに何とか起こされる。

 だがその顔は何故か幸福感に満ちていた。



 アザーリアとダレンも流石にダンスを止め、エリスにの顔を覗き込む。



「うぇっへっへぇ……わたし、だいじょうぶぅ……まだおどれるよぉ……」
「……何だこりゃ。まるで酔っ払いじゃねえか。城下町でカクテルでも飲んじまったか?」
「いえいえそんなことはいっさいしておりませんよぉ。おんとしじゅういちさい、けんぜんなしょうじょエリスちゃんがそんなことするわけないじゃないですかぁ」

「……保健室だな。精神的な昂ぶりがやばいと見た」
「そうさせてもらう……」



 アーサーはエリスの肩を支えて立ち上がる。その頃にはもう周囲の時間は難無く進み、他のペアはダンスに戻っていた。



「お待ちください、わたくしもついて参りますわ。怪我をさせてしまった以上、最後まで介錯いたしますわ」
「俺も行こう。万が一大事になったら大変だからな」

「えぇそんなせんぱいがたにめいわくかけられませんよぉ。そもそもわたしまだまだげんきですよぉ」
「……とにかく行くぞ」
「ああ~まってぇ……まだごはんたべてないぃ……」


 三人に無理くり歩かせられて、口惜しそうにエリスは講堂を後にする。





「……」
「散々下手くそに踊って最後はご退場。何だったんでしょうねえあの二人……」
「……見てない」
「え?」
「俺は何も見ていない」

「何ですかヴィッキー君、もしかして知り合「俺は何も見ていません。いいですねノーラ先輩」
「あっ……はい」
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