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第5話。
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入学式まで後、二時間も無いと言うのに、モンデール=フォン=レジアイド法衣子爵は学園長室に向かって全力で走っていた。
三男のレザックが、貴族として最低最悪で、取り返しのつかない失態を演じてしまった事を知らされた時、一生気絶したまま目覚る事はないと…このまま永眠したほうが、どれだけ楽だろうかとおもってしまった。
事もあろうに、最近、貴族に叙爵されたミューラー=サンチェス名誉伯爵にゴミを投げつけて、平民呼ばわりしたばかりか、剣まで抜いてしまったのだ。
それだけ…この表現は正しくないかもしれないが、それだけなら謝罪と慰謝料を支払って穏便に済ませてもらえるだろうと思っていたのだが、あろう事か、あのバカ息子は、第三王女マリルーシャ殿下に対して「誰だ、お前は?」などと言う暴言? 失言? とにかく、斬首刑ものの不敬を言い放ったのだ。
レザックだけならまだしも、これは話の持っていき方に気をつけなければ、一族郎党、一人の例外なく斬首刑は確実となってしまう。
一・恩赦!
二・子爵家からの追放!
三・一族郎党斬首刑!
どうしたものか…。
血の気の失せた真っ青な顔をした中年オッさんが全力疾走しているのを見た生徒達は、アンデットかレイスでも出たのかと失笑していた。
全力で走る事二十分。
漸く学園長室に着いた。
レジアイド法衣子爵は、何度も深呼吸をして息を整える。
意を決して、ノックする。
「どうぞ」
学園長の返事で中に入る。
一歩入った瞬間、本気で死にそうになった。
被害者の第三王女殿下とサンチェス名誉伯爵がいるのは覚悟していたのだが、想定外の御方が二人いた。
「へ、陛下…王妃様…!!??」
そう。
学園長室の中には、国王陛下と王妃アンジェラ殿下までいらっしゃったのだ。
脂汗が止まらない。
膝の震えが治らない。
目の前がグルグルと揺れる。
肝心のレザックはと言えば、学園長室の隅に、ボッコボコの痣だらけ、顔面のパーツが狂った状態で正座させられていた。
「…ち、ちゅちうぇ」
最早、何を言っているのかも分からない。しかし、命乞いをしてほしいのだけは、分かった。
分かりはしたが、ソロでエンシェントドラゴンに挑んで勝ちを得るより上の難易度だ。
息子よ。
期待はしてくれるな。
心の中で合掌しながら、陛下方に向かって土下座した。
「この度は、私の愚息がとんでもない不敬を働きましたる事、深くお詫び致します。この通りにございます」
何分経っただろうか。
誰も何も言わない。
しかし、だからと言って、顔を上げる事もできない。
「レジアイド子爵よ。貴様は一体どのような教育をしているのだ? 何をどうすれば、このような馬鹿者が出来上がるのだ?」
「は。誠に申し訳ございません」
「子爵家の三男なら、社交パーティーに参加しているだろう? それなのに、何故に我が娘、マリルーシャの顔を忘れておったのか?」
「返す返すも申し訳のしようもなく」
「ましてや、校則ではなく、王家が定めた国法の一つ、[許可なき私闘を禁ず]を破るとは…これは、レジアイド子爵家は王家に対して叛意ありと断じても良いのかの?」
王家に対しての叛意!?
何でそんな大事になるのだ!?
「め、滅相もございません。我が子爵家は、終末の時を迎えたとしても、王家に対して必死の忠誠を誓っております。叛意を抱くなど、爪の先ほどもございません」
「ほう? では、此度の失態は如何にするつもりじゃ?」
「そ、それは…子爵家から男爵家への降爵願いを提出の上、レザックは当家からの永久追放。サンチェス名誉伯爵殿には、慰謝料として、白金貨十枚を」
「ふむ。自ら降爵を願い出るか。ミューラーよ。其方はどうじゃ? 白金貨十枚で良いか?」
「そうですね。まあ、俺は構いません。しかし、満天下で侮辱されたマリルーシャ王女殿下のご心痛は如何許りかと」
「うむ。マリューよ。其方は何とする?」
王女殿下は、少し考える。
これは「演技」だ。
レジアイド子爵、並びに令息レザックに対して、極限の恐怖を覚えさせるための演技である。
子爵家親子は、滝のように脂汗を流している。
命の灯火を握るのは王女殿下だ。
魂が燃え尽きそうな数十秒。
王女殿下が口を開いた。
「お父様とサンチェス名誉伯爵の決定に従いますわ」
その言葉は、砂漠で遭難し、水筒も空になり、飢えと渇きに苛まれていた時に降る、天の雫と同じだった。
レジアイド子爵親子は、放心状態になっていた。
「そろそろ入学式の時間ですな。皆様、大聖堂に参りましょう」
エドワード=エンダンウ学園長の言葉で、揃って大聖堂に移動する。
新入生代表挨拶をするのは、首席合格だった俺だ。
俺は出番が来たので、壇上に上がりって挨拶をした。当たり障りのない模範的な挨拶が終わると、拍手がおきた。
その後に学園長が再登場し、新入生も在校生もお楽しみな「歓迎試合」を行うと宣言した。
三男のレザックが、貴族として最低最悪で、取り返しのつかない失態を演じてしまった事を知らされた時、一生気絶したまま目覚る事はないと…このまま永眠したほうが、どれだけ楽だろうかとおもってしまった。
事もあろうに、最近、貴族に叙爵されたミューラー=サンチェス名誉伯爵にゴミを投げつけて、平民呼ばわりしたばかりか、剣まで抜いてしまったのだ。
それだけ…この表現は正しくないかもしれないが、それだけなら謝罪と慰謝料を支払って穏便に済ませてもらえるだろうと思っていたのだが、あろう事か、あのバカ息子は、第三王女マリルーシャ殿下に対して「誰だ、お前は?」などと言う暴言? 失言? とにかく、斬首刑ものの不敬を言い放ったのだ。
レザックだけならまだしも、これは話の持っていき方に気をつけなければ、一族郎党、一人の例外なく斬首刑は確実となってしまう。
一・恩赦!
二・子爵家からの追放!
三・一族郎党斬首刑!
どうしたものか…。
血の気の失せた真っ青な顔をした中年オッさんが全力疾走しているのを見た生徒達は、アンデットかレイスでも出たのかと失笑していた。
全力で走る事二十分。
漸く学園長室に着いた。
レジアイド法衣子爵は、何度も深呼吸をして息を整える。
意を決して、ノックする。
「どうぞ」
学園長の返事で中に入る。
一歩入った瞬間、本気で死にそうになった。
被害者の第三王女殿下とサンチェス名誉伯爵がいるのは覚悟していたのだが、想定外の御方が二人いた。
「へ、陛下…王妃様…!!??」
そう。
学園長室の中には、国王陛下と王妃アンジェラ殿下までいらっしゃったのだ。
脂汗が止まらない。
膝の震えが治らない。
目の前がグルグルと揺れる。
肝心のレザックはと言えば、学園長室の隅に、ボッコボコの痣だらけ、顔面のパーツが狂った状態で正座させられていた。
「…ち、ちゅちうぇ」
最早、何を言っているのかも分からない。しかし、命乞いをしてほしいのだけは、分かった。
分かりはしたが、ソロでエンシェントドラゴンに挑んで勝ちを得るより上の難易度だ。
息子よ。
期待はしてくれるな。
心の中で合掌しながら、陛下方に向かって土下座した。
「この度は、私の愚息がとんでもない不敬を働きましたる事、深くお詫び致します。この通りにございます」
何分経っただろうか。
誰も何も言わない。
しかし、だからと言って、顔を上げる事もできない。
「レジアイド子爵よ。貴様は一体どのような教育をしているのだ? 何をどうすれば、このような馬鹿者が出来上がるのだ?」
「は。誠に申し訳ございません」
「子爵家の三男なら、社交パーティーに参加しているだろう? それなのに、何故に我が娘、マリルーシャの顔を忘れておったのか?」
「返す返すも申し訳のしようもなく」
「ましてや、校則ではなく、王家が定めた国法の一つ、[許可なき私闘を禁ず]を破るとは…これは、レジアイド子爵家は王家に対して叛意ありと断じても良いのかの?」
王家に対しての叛意!?
何でそんな大事になるのだ!?
「め、滅相もございません。我が子爵家は、終末の時を迎えたとしても、王家に対して必死の忠誠を誓っております。叛意を抱くなど、爪の先ほどもございません」
「ほう? では、此度の失態は如何にするつもりじゃ?」
「そ、それは…子爵家から男爵家への降爵願いを提出の上、レザックは当家からの永久追放。サンチェス名誉伯爵殿には、慰謝料として、白金貨十枚を」
「ふむ。自ら降爵を願い出るか。ミューラーよ。其方はどうじゃ? 白金貨十枚で良いか?」
「そうですね。まあ、俺は構いません。しかし、満天下で侮辱されたマリルーシャ王女殿下のご心痛は如何許りかと」
「うむ。マリューよ。其方は何とする?」
王女殿下は、少し考える。
これは「演技」だ。
レジアイド子爵、並びに令息レザックに対して、極限の恐怖を覚えさせるための演技である。
子爵家親子は、滝のように脂汗を流している。
命の灯火を握るのは王女殿下だ。
魂が燃え尽きそうな数十秒。
王女殿下が口を開いた。
「お父様とサンチェス名誉伯爵の決定に従いますわ」
その言葉は、砂漠で遭難し、水筒も空になり、飢えと渇きに苛まれていた時に降る、天の雫と同じだった。
レジアイド子爵親子は、放心状態になっていた。
「そろそろ入学式の時間ですな。皆様、大聖堂に参りましょう」
エドワード=エンダンウ学園長の言葉で、揃って大聖堂に移動する。
新入生代表挨拶をするのは、首席合格だった俺だ。
俺は出番が来たので、壇上に上がりって挨拶をした。当たり障りのない模範的な挨拶が終わると、拍手がおきた。
その後に学園長が再登場し、新入生も在校生もお楽しみな「歓迎試合」を行うと宣言した。
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