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卑怯
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この屋敷に閉じ込められて、何ヶ月が経っただろう。
外の季節も知らず、彼の訪れで夜を知り、夜通し貪られて朝を迎える暮らしに、イルヴァは消耗しきっていた。
「行ってくる」
身支度を整えた彼が仕事に出かける時も、見送りはしない。
夜のうちに太い栓を嵌め込まれていた股間は、筋が強張って動かしづらく、起き抜けに昂った彼のものを扱かれた蜜口は真新しい白濁を垂れ流していて、寝台から下りられないのだ。
寝台の住人となったイルヴァを、ユリウスは満足げに見ると近づいて言う。
「イルヴァ、愛しているよ」
「……っ」
唇の横に触れるだけの口づけを落としながら。
イルヴァが何度彼を無視しても、全て寝たふりで通そうとしても、彼が毎朝愛を告げることは変わらない。
何が『愛している』だ、そのイルヴァの『修道院に行かせてほしい』という懇願はさっぱり無視しているくせに。
「御方様、お召し替えのお時間でございます」
ユリウスが王宮に出勤してしばらく経つと、イルヴァに付けられた侍女たちが部屋の扉を叩く。
二重扉には別の鍵が外から掛けられていて、二つの扉が同時に開け放たれることはない。国王の私室並みに厳重な部屋が、イルヴァに用意された監獄だった。
「……湯を」
体液でどろどろに汚された身体を清める湯盥の一つでさえ、侍女に声を頼まねば手に入らない。それは、自分から複数人に交合の詳細を知らせるように強制されることに等しく、その度にイルヴァの心を削った。
それでも、欠かすわけにはいかない毎朝の習慣だ。
(かき出しても、全然、出てこない……っ)
用意された大きな盥に下半身を浸し、緩んだ蜜口に自分の指を突き入れて穿っても、湯に溶け出す精液は僅かだ。注がれたものの大部分はイルヴァの胎が飲み干してしまったのだろう。
ユリウスはイルヴァを抱いてからというもの、一度も避妊をしてくれない。いつ孕んでもおかしくないのだ。
他人の噂を避けて修道院に逃れたところで、そこで父を明かせない子など産もうものなら、かえって醜聞もいいところだ。
そうかといって、ユリウスの庶子となる子をこの屋敷に独り残していくなんて――彼に似た子が、幼い頃のイルヴァと同じように寂しそうに外を眺める様を想像して、胸が締めつけられる気持ちがした。
必死に指をかき回していると、湯に赤い色が滲む。爪で膣内を傷つけたかと慌ててから、月経が始まったことに気づいて、安堵に胸を撫で下ろした。
「う……っ、ぐすっ、もぅっ、やだぁ……」
いつまで、この暮らしを続ければいいのだろう。
彼の子を孕むことに怯え、孕んでいないことを確かめては安堵する。
その繰り返しに神経を擦り減らしながら、イルヴァはそれだけではない自分の気持ちに気づいていた。
(わたくしは、なんて、汚い――)
その夜、帰宅したユリウスは、すぐにイルヴァを見舞った。
「月の障りだそうだな」
侍女たちが知らせたのだろう。彼の前でイルヴァは秘密を持つことを許されていない。
完全に管理されている我が身を内心で自嘲しながら、彼の呼びかけには応えず、無言で寝台に丸くなると、彼は慌てて駆け寄ってきた。
「腹は痛むか? 前回はひどく痛がっていただろう」
――ああ、なんと酷い男だろう。憎ませてすらくれないなんて!
(わたくしは、汚い。もしも、あなたが、わたくしのことなど何も気にかけずに、あなたの欲を満たす道具として扱ってくれれば。そうしたら、わたくしは、巻き込まれただけの被害者でいられるのに……なんて、考えてしまう)
イルヴァはきちんと断った。正しく言葉を尽くして拒絶した。それでも彼に無理やり犯されて、孕まされたから、仕方がない。独りで修道院に行けない身にされたから、ここにいるしかない。だから、彼の元に留まっているのだ――そういう言い訳が欲しい。
早く、止(とどめ)を刺してほしい。
そう願う自分に気づいている。誰かに非難されることなく、彼の傍にいて、彼の優しさだけを享受したいと、身勝手な願いを懸けている。ああ、なんて、醜い。
「よほど痛むんだな。よしよし、冷えないように摩れば少しは楽になるか?」
ぽろぽろと涙を流して彼に縋りつくイルヴァの腹や手足を、温かい手が優しく撫でた。
外の季節も知らず、彼の訪れで夜を知り、夜通し貪られて朝を迎える暮らしに、イルヴァは消耗しきっていた。
「行ってくる」
身支度を整えた彼が仕事に出かける時も、見送りはしない。
夜のうちに太い栓を嵌め込まれていた股間は、筋が強張って動かしづらく、起き抜けに昂った彼のものを扱かれた蜜口は真新しい白濁を垂れ流していて、寝台から下りられないのだ。
寝台の住人となったイルヴァを、ユリウスは満足げに見ると近づいて言う。
「イルヴァ、愛しているよ」
「……っ」
唇の横に触れるだけの口づけを落としながら。
イルヴァが何度彼を無視しても、全て寝たふりで通そうとしても、彼が毎朝愛を告げることは変わらない。
何が『愛している』だ、そのイルヴァの『修道院に行かせてほしい』という懇願はさっぱり無視しているくせに。
「御方様、お召し替えのお時間でございます」
ユリウスが王宮に出勤してしばらく経つと、イルヴァに付けられた侍女たちが部屋の扉を叩く。
二重扉には別の鍵が外から掛けられていて、二つの扉が同時に開け放たれることはない。国王の私室並みに厳重な部屋が、イルヴァに用意された監獄だった。
「……湯を」
体液でどろどろに汚された身体を清める湯盥の一つでさえ、侍女に声を頼まねば手に入らない。それは、自分から複数人に交合の詳細を知らせるように強制されることに等しく、その度にイルヴァの心を削った。
それでも、欠かすわけにはいかない毎朝の習慣だ。
(かき出しても、全然、出てこない……っ)
用意された大きな盥に下半身を浸し、緩んだ蜜口に自分の指を突き入れて穿っても、湯に溶け出す精液は僅かだ。注がれたものの大部分はイルヴァの胎が飲み干してしまったのだろう。
ユリウスはイルヴァを抱いてからというもの、一度も避妊をしてくれない。いつ孕んでもおかしくないのだ。
他人の噂を避けて修道院に逃れたところで、そこで父を明かせない子など産もうものなら、かえって醜聞もいいところだ。
そうかといって、ユリウスの庶子となる子をこの屋敷に独り残していくなんて――彼に似た子が、幼い頃のイルヴァと同じように寂しそうに外を眺める様を想像して、胸が締めつけられる気持ちがした。
必死に指をかき回していると、湯に赤い色が滲む。爪で膣内を傷つけたかと慌ててから、月経が始まったことに気づいて、安堵に胸を撫で下ろした。
「う……っ、ぐすっ、もぅっ、やだぁ……」
いつまで、この暮らしを続ければいいのだろう。
彼の子を孕むことに怯え、孕んでいないことを確かめては安堵する。
その繰り返しに神経を擦り減らしながら、イルヴァはそれだけではない自分の気持ちに気づいていた。
(わたくしは、なんて、汚い――)
その夜、帰宅したユリウスは、すぐにイルヴァを見舞った。
「月の障りだそうだな」
侍女たちが知らせたのだろう。彼の前でイルヴァは秘密を持つことを許されていない。
完全に管理されている我が身を内心で自嘲しながら、彼の呼びかけには応えず、無言で寝台に丸くなると、彼は慌てて駆け寄ってきた。
「腹は痛むか? 前回はひどく痛がっていただろう」
――ああ、なんと酷い男だろう。憎ませてすらくれないなんて!
(わたくしは、汚い。もしも、あなたが、わたくしのことなど何も気にかけずに、あなたの欲を満たす道具として扱ってくれれば。そうしたら、わたくしは、巻き込まれただけの被害者でいられるのに……なんて、考えてしまう)
イルヴァはきちんと断った。正しく言葉を尽くして拒絶した。それでも彼に無理やり犯されて、孕まされたから、仕方がない。独りで修道院に行けない身にされたから、ここにいるしかない。だから、彼の元に留まっているのだ――そういう言い訳が欲しい。
早く、止(とどめ)を刺してほしい。
そう願う自分に気づいている。誰かに非難されることなく、彼の傍にいて、彼の優しさだけを享受したいと、身勝手な願いを懸けている。ああ、なんて、醜い。
「よほど痛むんだな。よしよし、冷えないように摩れば少しは楽になるか?」
ぽろぽろと涙を流して彼に縋りつくイルヴァの腹や手足を、温かい手が優しく撫でた。
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