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盗拐
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何度目かの口づけの後に、ユリウスの舌に唇を突かれた。
戸惑ったイルヴァが微動だにせずいると、触れ合っていた唇を離されてしまう。
「強情だな」
「何が……んっ!」
ただ、応え方が分からなかっただけなのに。
不機嫌そうに顔を歪めたユリウスは、イルヴァが発問のために口を開いた隙を逃さず、咥内に舌を侵入させてきた。
(息っ、できない……っ!)
『口づけ』とは、唇同士を触れ合わせるものだと思っていた。舌を咥内に入れるなんて、まるで『捕食』のようではないか。
一方的に貪られるままのイルヴァを見て、ユリウスも異常に気づいたらしい。
解放されたイルヴァは、はあはあと荒い息をした。
「はぁっ、変なのっ、しないれ……」
「……舌を入れたこと、無いんですね」
「無いの! 無いから、やめっ」
「もう一回しましょう」
「なんれ! べろべろ、やだぁっ! やっ、んむ」
十分に呼吸を整える暇も与えられず、彼の舌に翻弄されて、頑なだったイルヴァの身体は溶けるように脱力していった。
「う……」
「可愛いな」
彼が心底愉快そうに笑った。
日頃の彼なら、イルヴァが寝台に寝ついていれば気遣ってくれるはずなのに、今の彼は長椅子にくったりと沈んだイルヴァを見ても止まってくれない。
――今のイルヴァの状態は彼が望んで引き起こしたもので、彼はイルヴァを抱くつもりだからだ。
「あのっ、今日、香油無いから……っ」
「香油? 何に使うんです。つけなくてもいい匂いなのに」
「ひゃっ!?」
訝しんだ様子の彼の顔が、夜着の乱れた胸元に近づいた。
彼に匂いを嗅がれたのだ。イルヴァは羞恥に頰を染め、瞳を潤ませた。
「そうじゃなくてっ、擦れたら痛いから、塗るでしょう?」
「どこに」
「擦れるところ……お股の、孔の中に」
「お股の孔、ですか」
「そうよ!」
必死に言い募るイルヴァは気づかなかった。
意中の女の卑猥な発言を聞いたユリウスが、溢れ出る衝動を内頬を噛んで堪えていたことに。
「この別荘には香油を持ってきていないから、わたくし、孔の準備ができていないの。だから、無理なのっ!」
「……あいつは、貴女にそんなことをさせていたんですか」
「え? ええ、妻は、夫の手間をかけないように、あらかじめ準備しておくものなのでしょう?」
「ゴミクズ野郎が」
冷ややかに吐き捨てたユリウスは、身を竦めたイルヴァの脚を左右にゆっくりと開いていく。
懸命な制止も意味をなさず、彼はこのまま挿入する気なのだと悟って、イルヴァの声には涙が混じり、くぐもっていった。
「香油、ないから……擦れたら、いっ、痛いの……怖いから、ほんとに怖いのっ、やだっ!」
「イルヴァ」
香油の滑りの助けを得ても、数年前のマティアスとの交合は痛くて仕方がなかったのだ。香油無しで挿入の痛みに耐えられる気がしない。
だが、ユリウスに力比べで敵うわけもない。彼の望むままに、潤わない箇所に強引にねじ込まれて、身体の深部を削られ、裂けてしまうかもしれない。
恐怖に身を捩って逃げようとしたイルヴァは、彼に容易く押さえつけられ――否、これは、抱きしめられているのだろうか。
彼の大きな身体に包み込まれて、イルヴァは子どものようにしゃくり上げて泣いた。
「こわいっ、いたいの……っ、いたいの、いやなのっ!」
「落ち着け。潤滑剤が無いから怖いんだな?」
「いたいの、こわい……」
「分かった。絶対に痛くしない」
「ほんと……?」
「イルヴァが痛がったら止める。身体を触ってもいいか?」
「もう、さわってるのに」
「もっと触りたい」
彼の言葉とともに、夜着の胸元を緩められ、白くこんもりと盛り上がった双丘が彼の眼前に晒されてしまった。
彼にまじまじと見つめられると隠したくて仕方がないのに、イルヴァ本人の恥じらいとは裏腹に、丘の頂点はぴんと勃って激しく主張する。
「もう、見ないで……」
「木の実みたいで可愛い乳首だ。舐めてもいいか?」
「舐めっ!? ひゃぁん!」
どうして。そんなこと、夫はしなかったのに。
胸の先端が、子を産んだ女が乳を出す箇所であることは知っているけれど、イルヴァの産む子には乳母がつけられるだろうから、イルヴァにとっては無用の物だったはずなのに。
「あんっ、ん……っ、んうっ! やっ!」
「声も可愛い。どんどん甘くなって」
そこを執拗に舐られると、下腹からぞくぞくと痺れに似た感覚が湧いてくる。
イルヴァの胸は、ユリウスに弄ばれるためにあったのかもしれない。そんな馬鹿げた考えが浮かんだのが恥ずかしくて、イルヴァは甘ったるい声を洩らす口を封じようとした。
「堪えるな。口を塞げないように、手を縛ってしまおうか」
「やだぁ……」
「縛られたくないなら、ずっと甘い声で啼いていればいい」
「はうっ、ん……」
イルヴァの右手には彼の左手が絡められ、たとえ縛られなくとも口を隠すことはできなくなった。
抗いようもなくイルヴァはあえかな声を垂れ流した。
「臍も可愛い」
「おへそ、突っつかないでぇっ、」
夜着を剥ぎ取られたイルヴァは、今や生まれたままの姿でユリウスに捧げられていた。
上気して桃色に染まった肌も、荒い息に上下する胸も、覚えたての快感にゆらりと動く腰も、全く隠せていない。
きゅっと窄まった臍がひくひくと震える様にユリウスは興味を覚えたらしく、彼の指先で執拗に嬲られて、イルヴァは強引に高みへと押し上げられた。
「つつくの、いじわる、やだ……っ、やっ、あぁんっ!」
頭が真っ白になって、何も考えられない。耳鳴りに似た感覚がして、周囲の音を遠く感じた。
「達ったな。……イルヴァ?」
「これぇ、なあに? あたま、ふわふわして」
「……あいつは一度も達かせてやらなかったのか」
ユリウスは苦々しげに言う。
言葉の意味はよく分からないけれど、彼が怒っていることは分かった。
どうしてそんな言い方をするのだろう、イルヴァが変なことをしてしまったのだろうか。
不安を覚えて身を退くと、ユリウスはイルヴァを引き留めるように言葉を重ねてきた。
「イルヴァ、今みたいに頭がふわふわしたら、俺に向かって『達く』と言うんだ」
「いく? いく……」
「可愛い。上手だよ」
「えへ、」
褒められた。嬉しい。ユリウスが言うなら、これはきっと正しいことなのだろう。
絶頂を迎えた後の幸福な脱力感に浸るイルヴァは、彼に脚を開かれることも甘んじて受け入れた。
「イルヴァ、股の孔に香油を塗り込むところ、俺に見せて?」
「香油、ないのに?」
「痛くないはずだ」
「でも……」
潤滑剤が無いと、擦れて痛いはずだ。自分の指で準備をする時だって、指にたっぷりと油を纏わさないと孔は頑なに綻びてくれなかった。
「大丈夫だから、ほら」
ユリウスは、慄くイルヴァの手を引いて、股間へと導いた。おずおずと孔のとば口に人差し指の爪先を埋めたイルヴァは、ぬるりとした感触に驚いて呟いた。
「あれ……? 痛く、ない……?」
「俺の指も挿れよう」
「ひぐっ!?」
イルヴァの細い指に添わせるように、男の太い指がイルヴァの中に押し入ってきた。
圧迫感に身構えて息を詰めたけれど――やっぱり、痛くはない。
「しっかり濡れていれば、擦れない。孔も柔らかく広がって、挿れたら気持ち良さそうだ」
そこは滑りのある液体で満たされていて、指を動かしても摩擦に苦しめられることはなかった。
じゅぶじゅぶと水音を立てながら、ユリウスの指はイルヴァの中を拓いていった。
「挿れるなら……」
「どうした?」
ユリウスが忍び込ませた指が三本に達した頃、イルヴァはもだもだと動き出した。
逃走を警戒したのか、指の抽送を止めたユリウスに尋ねられて、イルヴァはぎこちなく答えた。
「挿れるなら、四つん這いになった方が、いいかと思って」
「四つん這い? 何故……また、マティアスか」
どうして、ユリウスは溜息を吐くのだろう。
夫婦は四つん這いで交わるものではないのか。頭から布を被せられて、準備済みの孔を夫に差し出して、射精が済むまで抽送の痛みに耐える――それが夫婦の交わりではないのか。
だが、ユリウスはイルヴァに痛みを与えることなく孔の準備も手伝ってくれている。それができるなら、夫婦ばかり苦痛に耐えなくてはいけない理由もないだろう。
(……やっぱり、わたくしが愛されていなかったから……)
露骨な答えに行き着いたイルヴァが顔を伏せると、顎をくいと掴み上げられた。
至近距離で見たユリウスは、常のような気遣わしげな表情を浮かべていなかった。獣のようにぎらついた瞳をしている。
「隠すな。俺は、貴女の可愛い顔を見ながらシたい」
「可愛い、って、そんな……うぐぅっ!?」
片脚を持ち上げられて、ユリウスの肩に担がれる。
大きく割られた脚の間の孔から、とろりと液体が溢れた感触がしたかと思えば、孔に熱いものが押し当てられ――イルヴァの中に入り込んだ。
めりめりと中を押し広げながら進んでいく熱杭を、イルヴァは肩で息をして受け入れるしかなかった。
「奥まで入った。痛くないか?」
「痛く、は、ないけど、くるしい……っ」
「馴染むまで待とう」
狭い肉筒を埋め尽くした後でユリウスは満足そうに笑うと、イルヴァに抱きついてきた。
身体を腰から二つに折り畳まれて、胎には質量の大きな塊を埋め込まれていて、息苦しい。それなのに、辛くはないのだ。達成感と満足感と、出所の分からない多幸感さえ感じてしまって、その居心地が悪かった。
「……中に、出さないの?」
落ち着かずにもぞりと身動ぎしながら言うイルヴァに、ユリウスは目を見開いた。
「中に出していいのか?」
「へ? あのひとは、挿れたらすぐ出してたからっ、ん!」
「よく味わってからにしようと思っていたが、他の男を持ち出して催促するなんて、イルヴァはたちが悪いな」
「ごめっ、あぅっ!」
彼がゆっくりと律動を開始して、次第に動きを早めていく。
甘ったれなイルヴァに似て甘ったれな身体は、彼のものに懐くように締めつけて、彼の動きに合わせて引き出され、押し込まれ――全部、彼の物になってしまったようだった。
「あっ、ああっ! いく! いくぅ、いく……っ!」
教わったばかりの言葉で拙く限界を知らせても、ユリウスは止まるどころか、いっそう動きを激しくして。追い込まれたイルヴァの意識は白く沈んだ。
次に目を覚ました時、取り返しのつかないことが起きているなどと想像もせずに。
「起きたか」
「……ここ、どこ? どうして外に!?」
「暴れるな。馬から落ちたらどうする」
身体に受ける風で、馬で運ばれていることを知った。
不安定な馬上で身体がぐらりと揺らいで、慌ててユリウスにしがみつくと、彼は上機嫌に言う。
「イルヴァは俺と暮らすんだ。これから毎晩共寝するからな」
「どうしてっ!? さっき、あなたとしたのに……」
男の性欲は、射精とともに収まるものではないのか。少なくともマティアスは、何かやむを得ない理由がある時にしかイルヴァに触れようとはしなかったし、各回の交わりも射精すればそれで終わりだったのに。
それとも、先ほどの交わりに何か不手際があって、イルヴァでは彼の欲を十分に満たせなかったのだろうか。彼を満足させれば解放してもらえるだろうか。
不安に眉を寄せたイルヴァを、ユリウスは優しく抱き寄せると、震える首筋に口づけて囁いた。まるで、心から愛している者に向けるような甘い声色で。
「ああ、先ほどの貴女は本当に素晴らしかったよ。だから今夜もしよう。これからずっと、俺のためだけに啼いてくれ」
「嫌ぁ――っ!」
気に入った、満足した、と微笑みながら、彼は、イルヴァを解放する気は無いと、残酷な宣告をした。
その言葉通り、道中で宿に寄るごとに、泣いて拒絶するイルヴァの体力が尽きるまで貪られ、とうとう彼の屋敷に着く頃には、イルヴァの身体に僅かに残っていた亡き夫との交合の記憶は、完全に塗り替えられてしまっていた。
戸惑ったイルヴァが微動だにせずいると、触れ合っていた唇を離されてしまう。
「強情だな」
「何が……んっ!」
ただ、応え方が分からなかっただけなのに。
不機嫌そうに顔を歪めたユリウスは、イルヴァが発問のために口を開いた隙を逃さず、咥内に舌を侵入させてきた。
(息っ、できない……っ!)
『口づけ』とは、唇同士を触れ合わせるものだと思っていた。舌を咥内に入れるなんて、まるで『捕食』のようではないか。
一方的に貪られるままのイルヴァを見て、ユリウスも異常に気づいたらしい。
解放されたイルヴァは、はあはあと荒い息をした。
「はぁっ、変なのっ、しないれ……」
「……舌を入れたこと、無いんですね」
「無いの! 無いから、やめっ」
「もう一回しましょう」
「なんれ! べろべろ、やだぁっ! やっ、んむ」
十分に呼吸を整える暇も与えられず、彼の舌に翻弄されて、頑なだったイルヴァの身体は溶けるように脱力していった。
「う……」
「可愛いな」
彼が心底愉快そうに笑った。
日頃の彼なら、イルヴァが寝台に寝ついていれば気遣ってくれるはずなのに、今の彼は長椅子にくったりと沈んだイルヴァを見ても止まってくれない。
――今のイルヴァの状態は彼が望んで引き起こしたもので、彼はイルヴァを抱くつもりだからだ。
「あのっ、今日、香油無いから……っ」
「香油? 何に使うんです。つけなくてもいい匂いなのに」
「ひゃっ!?」
訝しんだ様子の彼の顔が、夜着の乱れた胸元に近づいた。
彼に匂いを嗅がれたのだ。イルヴァは羞恥に頰を染め、瞳を潤ませた。
「そうじゃなくてっ、擦れたら痛いから、塗るでしょう?」
「どこに」
「擦れるところ……お股の、孔の中に」
「お股の孔、ですか」
「そうよ!」
必死に言い募るイルヴァは気づかなかった。
意中の女の卑猥な発言を聞いたユリウスが、溢れ出る衝動を内頬を噛んで堪えていたことに。
「この別荘には香油を持ってきていないから、わたくし、孔の準備ができていないの。だから、無理なのっ!」
「……あいつは、貴女にそんなことをさせていたんですか」
「え? ええ、妻は、夫の手間をかけないように、あらかじめ準備しておくものなのでしょう?」
「ゴミクズ野郎が」
冷ややかに吐き捨てたユリウスは、身を竦めたイルヴァの脚を左右にゆっくりと開いていく。
懸命な制止も意味をなさず、彼はこのまま挿入する気なのだと悟って、イルヴァの声には涙が混じり、くぐもっていった。
「香油、ないから……擦れたら、いっ、痛いの……怖いから、ほんとに怖いのっ、やだっ!」
「イルヴァ」
香油の滑りの助けを得ても、数年前のマティアスとの交合は痛くて仕方がなかったのだ。香油無しで挿入の痛みに耐えられる気がしない。
だが、ユリウスに力比べで敵うわけもない。彼の望むままに、潤わない箇所に強引にねじ込まれて、身体の深部を削られ、裂けてしまうかもしれない。
恐怖に身を捩って逃げようとしたイルヴァは、彼に容易く押さえつけられ――否、これは、抱きしめられているのだろうか。
彼の大きな身体に包み込まれて、イルヴァは子どものようにしゃくり上げて泣いた。
「こわいっ、いたいの……っ、いたいの、いやなのっ!」
「落ち着け。潤滑剤が無いから怖いんだな?」
「いたいの、こわい……」
「分かった。絶対に痛くしない」
「ほんと……?」
「イルヴァが痛がったら止める。身体を触ってもいいか?」
「もう、さわってるのに」
「もっと触りたい」
彼の言葉とともに、夜着の胸元を緩められ、白くこんもりと盛り上がった双丘が彼の眼前に晒されてしまった。
彼にまじまじと見つめられると隠したくて仕方がないのに、イルヴァ本人の恥じらいとは裏腹に、丘の頂点はぴんと勃って激しく主張する。
「もう、見ないで……」
「木の実みたいで可愛い乳首だ。舐めてもいいか?」
「舐めっ!? ひゃぁん!」
どうして。そんなこと、夫はしなかったのに。
胸の先端が、子を産んだ女が乳を出す箇所であることは知っているけれど、イルヴァの産む子には乳母がつけられるだろうから、イルヴァにとっては無用の物だったはずなのに。
「あんっ、ん……っ、んうっ! やっ!」
「声も可愛い。どんどん甘くなって」
そこを執拗に舐られると、下腹からぞくぞくと痺れに似た感覚が湧いてくる。
イルヴァの胸は、ユリウスに弄ばれるためにあったのかもしれない。そんな馬鹿げた考えが浮かんだのが恥ずかしくて、イルヴァは甘ったるい声を洩らす口を封じようとした。
「堪えるな。口を塞げないように、手を縛ってしまおうか」
「やだぁ……」
「縛られたくないなら、ずっと甘い声で啼いていればいい」
「はうっ、ん……」
イルヴァの右手には彼の左手が絡められ、たとえ縛られなくとも口を隠すことはできなくなった。
抗いようもなくイルヴァはあえかな声を垂れ流した。
「臍も可愛い」
「おへそ、突っつかないでぇっ、」
夜着を剥ぎ取られたイルヴァは、今や生まれたままの姿でユリウスに捧げられていた。
上気して桃色に染まった肌も、荒い息に上下する胸も、覚えたての快感にゆらりと動く腰も、全く隠せていない。
きゅっと窄まった臍がひくひくと震える様にユリウスは興味を覚えたらしく、彼の指先で執拗に嬲られて、イルヴァは強引に高みへと押し上げられた。
「つつくの、いじわる、やだ……っ、やっ、あぁんっ!」
頭が真っ白になって、何も考えられない。耳鳴りに似た感覚がして、周囲の音を遠く感じた。
「達ったな。……イルヴァ?」
「これぇ、なあに? あたま、ふわふわして」
「……あいつは一度も達かせてやらなかったのか」
ユリウスは苦々しげに言う。
言葉の意味はよく分からないけれど、彼が怒っていることは分かった。
どうしてそんな言い方をするのだろう、イルヴァが変なことをしてしまったのだろうか。
不安を覚えて身を退くと、ユリウスはイルヴァを引き留めるように言葉を重ねてきた。
「イルヴァ、今みたいに頭がふわふわしたら、俺に向かって『達く』と言うんだ」
「いく? いく……」
「可愛い。上手だよ」
「えへ、」
褒められた。嬉しい。ユリウスが言うなら、これはきっと正しいことなのだろう。
絶頂を迎えた後の幸福な脱力感に浸るイルヴァは、彼に脚を開かれることも甘んじて受け入れた。
「イルヴァ、股の孔に香油を塗り込むところ、俺に見せて?」
「香油、ないのに?」
「痛くないはずだ」
「でも……」
潤滑剤が無いと、擦れて痛いはずだ。自分の指で準備をする時だって、指にたっぷりと油を纏わさないと孔は頑なに綻びてくれなかった。
「大丈夫だから、ほら」
ユリウスは、慄くイルヴァの手を引いて、股間へと導いた。おずおずと孔のとば口に人差し指の爪先を埋めたイルヴァは、ぬるりとした感触に驚いて呟いた。
「あれ……? 痛く、ない……?」
「俺の指も挿れよう」
「ひぐっ!?」
イルヴァの細い指に添わせるように、男の太い指がイルヴァの中に押し入ってきた。
圧迫感に身構えて息を詰めたけれど――やっぱり、痛くはない。
「しっかり濡れていれば、擦れない。孔も柔らかく広がって、挿れたら気持ち良さそうだ」
そこは滑りのある液体で満たされていて、指を動かしても摩擦に苦しめられることはなかった。
じゅぶじゅぶと水音を立てながら、ユリウスの指はイルヴァの中を拓いていった。
「挿れるなら……」
「どうした?」
ユリウスが忍び込ませた指が三本に達した頃、イルヴァはもだもだと動き出した。
逃走を警戒したのか、指の抽送を止めたユリウスに尋ねられて、イルヴァはぎこちなく答えた。
「挿れるなら、四つん這いになった方が、いいかと思って」
「四つん這い? 何故……また、マティアスか」
どうして、ユリウスは溜息を吐くのだろう。
夫婦は四つん這いで交わるものではないのか。頭から布を被せられて、準備済みの孔を夫に差し出して、射精が済むまで抽送の痛みに耐える――それが夫婦の交わりではないのか。
だが、ユリウスはイルヴァに痛みを与えることなく孔の準備も手伝ってくれている。それができるなら、夫婦ばかり苦痛に耐えなくてはいけない理由もないだろう。
(……やっぱり、わたくしが愛されていなかったから……)
露骨な答えに行き着いたイルヴァが顔を伏せると、顎をくいと掴み上げられた。
至近距離で見たユリウスは、常のような気遣わしげな表情を浮かべていなかった。獣のようにぎらついた瞳をしている。
「隠すな。俺は、貴女の可愛い顔を見ながらシたい」
「可愛い、って、そんな……うぐぅっ!?」
片脚を持ち上げられて、ユリウスの肩に担がれる。
大きく割られた脚の間の孔から、とろりと液体が溢れた感触がしたかと思えば、孔に熱いものが押し当てられ――イルヴァの中に入り込んだ。
めりめりと中を押し広げながら進んでいく熱杭を、イルヴァは肩で息をして受け入れるしかなかった。
「奥まで入った。痛くないか?」
「痛く、は、ないけど、くるしい……っ」
「馴染むまで待とう」
狭い肉筒を埋め尽くした後でユリウスは満足そうに笑うと、イルヴァに抱きついてきた。
身体を腰から二つに折り畳まれて、胎には質量の大きな塊を埋め込まれていて、息苦しい。それなのに、辛くはないのだ。達成感と満足感と、出所の分からない多幸感さえ感じてしまって、その居心地が悪かった。
「……中に、出さないの?」
落ち着かずにもぞりと身動ぎしながら言うイルヴァに、ユリウスは目を見開いた。
「中に出していいのか?」
「へ? あのひとは、挿れたらすぐ出してたからっ、ん!」
「よく味わってからにしようと思っていたが、他の男を持ち出して催促するなんて、イルヴァはたちが悪いな」
「ごめっ、あぅっ!」
彼がゆっくりと律動を開始して、次第に動きを早めていく。
甘ったれなイルヴァに似て甘ったれな身体は、彼のものに懐くように締めつけて、彼の動きに合わせて引き出され、押し込まれ――全部、彼の物になってしまったようだった。
「あっ、ああっ! いく! いくぅ、いく……っ!」
教わったばかりの言葉で拙く限界を知らせても、ユリウスは止まるどころか、いっそう動きを激しくして。追い込まれたイルヴァの意識は白く沈んだ。
次に目を覚ました時、取り返しのつかないことが起きているなどと想像もせずに。
「起きたか」
「……ここ、どこ? どうして外に!?」
「暴れるな。馬から落ちたらどうする」
身体に受ける風で、馬で運ばれていることを知った。
不安定な馬上で身体がぐらりと揺らいで、慌ててユリウスにしがみつくと、彼は上機嫌に言う。
「イルヴァは俺と暮らすんだ。これから毎晩共寝するからな」
「どうしてっ!? さっき、あなたとしたのに……」
男の性欲は、射精とともに収まるものではないのか。少なくともマティアスは、何かやむを得ない理由がある時にしかイルヴァに触れようとはしなかったし、各回の交わりも射精すればそれで終わりだったのに。
それとも、先ほどの交わりに何か不手際があって、イルヴァでは彼の欲を十分に満たせなかったのだろうか。彼を満足させれば解放してもらえるだろうか。
不安に眉を寄せたイルヴァを、ユリウスは優しく抱き寄せると、震える首筋に口づけて囁いた。まるで、心から愛している者に向けるような甘い声色で。
「ああ、先ほどの貴女は本当に素晴らしかったよ。だから今夜もしよう。これからずっと、俺のためだけに啼いてくれ」
「嫌ぁ――っ!」
気に入った、満足した、と微笑みながら、彼は、イルヴァを解放する気は無いと、残酷な宣告をした。
その言葉通り、道中で宿に寄るごとに、泣いて拒絶するイルヴァの体力が尽きるまで貪られ、とうとう彼の屋敷に着く頃には、イルヴァの身体に僅かに残っていた亡き夫との交合の記憶は、完全に塗り替えられてしまっていた。
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