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海辺の夕暮れ
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「薫、釣果は?」
「ボウズ!」
「わはははは!」
海で遊んで、女の子は持ち帰りできず、暑さと疲れと消化不良で自炊する気になれなかった俺たちは、別荘を管理してくれている漁師で食堂をやってる波野さんのところへ飯を食いに来た。
波野さんは依田の顔を見るなり、今日の成果を聞いてきたが、ことごとく邪魔された依田は不機嫌そうにそう答えていた。
ウケる。
「めっちゃ腹減ったし、ムシャクシャするから、おじちゃん、おばちゃん飯食わせて」
と依田がお願い! と手を合わせる。
「飯はムシャクシャしながら食うな」
「そうだね、ごめん」
依田が素直だ。
この人たちの前だと子どもっぽくなるな。
「今日の俺の釣果はな、ほれ!」
でかい魚を見せる。
でかっ!
「カンパチ? いいサイズじゃん」
「だろ? ここんとこ、いいのがきてるんだよ。あとは薫の好きな鯵も」
「やった!」
「薫はたたきがいいんだよな?」
「うん、なめろうが好きなのは親父」
「そうそう、二人で好みが違うからめんどくせえんだよなw」
「どっちも好きなのが兄貴」
「覚はなんでも食うよな」
「兄貴は雑食だから」
「雑食のチェロ弾きな」
曽川は所在なくウロウロしてる。
お前は本当に片時も落ち着かないな。
店の厨房にいるおばさんに声をかける。
「おばちゃーん、こんちは!」
「あらあ、元気元気!」
子どもかw
「その魚、全部おばちゃんが捌くの?」
「そうよお~」
「あのでっかいのも?」
「カンパチ? あれはお父さんにやってもらう」
「でも小さいのいっぱいいるじゃない」
「これくらいはね」
「それって俺でもできる?」
え? 曽川?
「手伝ってくれるの?」
「うん」
「わあ! 助かるわあ!」
「でもね、おばちゃん、俺、魚捌けない」
「そうなの?ww」
「だから教えてくれる? 覚えたい」
「いいわよお~教えてあげる」
曽川はおばさんにエプロンを借りて、入念に手を洗い厨房に入る。
「ワタとかゼイゴ取ったりはするんだけど、3枚におろせない」
「そこまでできるならできるわよ。
鱗取ってゼイゴ取って……そうそう、頭も落としちゃっていいわよ。そうそう、上手!」
おばちゃんが手取り足取り教えてる。
料理を普段からしているらしい曽川はなかなか筋がいいみたいだ。
「背中から包丁入れて……そう、ぐっぐっと2、3回包丁を骨に沿って滑らせて……
反対も同じように、骨に包丁を当てて骨の音が鳴るように沿わせて……ほら、できた!」
「できた……」
「曽川くん、手先が器用ね、上手よ」
「えへへ~」
曽川、褒められてめちゃくちゃ嬉しそう。
覚えがいいのか、一度教えてもらうとすぐに一人でできるようになっていた。
あいつ、なかなか才能あるんじゃね?
依田はおじさんとカンパチを捌いてる。
京佐が、
「俺、邪魔かも……」
と手持ち無沙汰になってる。
「確かに……」
俺もだ。
そんな俺たちにおばさんが気付き、
「お兄ちゃんたち、隣の畑にトマトがなってるから、赤くなってるのを全部採ってきてくれる?」
「全部ですか?」
「赤くなった美味しいのは鳥にも美味しいから食べられちゃうのよ」
「わかりました」
カゴを持って二人で畑に向かった。
少しずつ日が傾き始めている。
畑にはいろいろな野菜が作られていた。
わからないのもあるが、トマトはわかるぞ。
「赤いの、って言ったよね?」
「赤いのは赤いのだよな?」
赤いの基準がわからなくて聞きに行こうかと思ったけど、それではあまりに使えない役立たずなので、二人でジャッジし合ってもいだ。
スーパーのと違って青臭い匂いがする。
「トマトってこういう匂いなんだな」
「全然違う」
トマトのスペースは広くはないが、結構採れた。
カゴがいっぱいになった。
日が暮れ始めた夏の一日。
あんなにうるさかった蝉の合唱も少しおとなしくなって、ヒグラシが鳴き始めている。
夕陽にきらめく海が目の前に広がる小さな畑でのんびりと野菜を収穫してる。
なんて贅沢なんだろう。
「海のせいなのかな。
何もかものんびり動いてる気がする」
京佐がカゴいっぱいのトマトを持ちながらしみじみ言う。
俺も答える。
「うん、贅沢な時間だよな」
「俺さ、さっき気づいたんだけど、こっちに来てからほぼスマホ触ってないんだよね」
「あ、わかる、俺も」
一日目は運転したりしたからみんな疲れてすぐ寝ちゃったし、今日も朝から海に行ったからスマホは全然触ってない。
写真撮っただけだ。
普段全く手放せなくて依存症かと思うくらいなのに。
「こういう生活悪くないなって思った」
「うん、いいな」
二人で海を眺める。
潮の匂いが海をリアルに感じさせる。
しばらくすると京佐が、
「ねえ、今度は依田に山の別荘連れて行ってもらおうよ」
と言い出す。
「お前もなかなか図々しいなw」
「きっと山もいいなって思いそうなんだよね」
「わかる」
俺、思うんだよ、京佐。
このメンバーだから楽しくて、こんな贅沢な時間を過ごせてるんだよ。
今、こうして二人でいることに、海を見て同じ気持ちでいることに、俺は泣きそうになるくらい心が満たされてるんだ。
おばさんの声が聞こえる。
「お兄ちゃんたち~、きゅうりとなすも採ってきて~大葉も何枚か~」
ふっ
二人で笑って答える。
「わかった~」
「なあ、京佐」
「ん?」
「大葉ってどれ?」
「俺もわかんないw」
二人ともどの葉っぱが大葉なのかわからなくて、近くの畑にいたお爺さんに笑われながら教えてもらって数枚確保した。
ついでにきゅうりとなすの採っていいやつの目安も教えてもらった。
「ボウズ!」
「わはははは!」
海で遊んで、女の子は持ち帰りできず、暑さと疲れと消化不良で自炊する気になれなかった俺たちは、別荘を管理してくれている漁師で食堂をやってる波野さんのところへ飯を食いに来た。
波野さんは依田の顔を見るなり、今日の成果を聞いてきたが、ことごとく邪魔された依田は不機嫌そうにそう答えていた。
ウケる。
「めっちゃ腹減ったし、ムシャクシャするから、おじちゃん、おばちゃん飯食わせて」
と依田がお願い! と手を合わせる。
「飯はムシャクシャしながら食うな」
「そうだね、ごめん」
依田が素直だ。
この人たちの前だと子どもっぽくなるな。
「今日の俺の釣果はな、ほれ!」
でかい魚を見せる。
でかっ!
「カンパチ? いいサイズじゃん」
「だろ? ここんとこ、いいのがきてるんだよ。あとは薫の好きな鯵も」
「やった!」
「薫はたたきがいいんだよな?」
「うん、なめろうが好きなのは親父」
「そうそう、二人で好みが違うからめんどくせえんだよなw」
「どっちも好きなのが兄貴」
「覚はなんでも食うよな」
「兄貴は雑食だから」
「雑食のチェロ弾きな」
曽川は所在なくウロウロしてる。
お前は本当に片時も落ち着かないな。
店の厨房にいるおばさんに声をかける。
「おばちゃーん、こんちは!」
「あらあ、元気元気!」
子どもかw
「その魚、全部おばちゃんが捌くの?」
「そうよお~」
「あのでっかいのも?」
「カンパチ? あれはお父さんにやってもらう」
「でも小さいのいっぱいいるじゃない」
「これくらいはね」
「それって俺でもできる?」
え? 曽川?
「手伝ってくれるの?」
「うん」
「わあ! 助かるわあ!」
「でもね、おばちゃん、俺、魚捌けない」
「そうなの?ww」
「だから教えてくれる? 覚えたい」
「いいわよお~教えてあげる」
曽川はおばさんにエプロンを借りて、入念に手を洗い厨房に入る。
「ワタとかゼイゴ取ったりはするんだけど、3枚におろせない」
「そこまでできるならできるわよ。
鱗取ってゼイゴ取って……そうそう、頭も落としちゃっていいわよ。そうそう、上手!」
おばちゃんが手取り足取り教えてる。
料理を普段からしているらしい曽川はなかなか筋がいいみたいだ。
「背中から包丁入れて……そう、ぐっぐっと2、3回包丁を骨に沿って滑らせて……
反対も同じように、骨に包丁を当てて骨の音が鳴るように沿わせて……ほら、できた!」
「できた……」
「曽川くん、手先が器用ね、上手よ」
「えへへ~」
曽川、褒められてめちゃくちゃ嬉しそう。
覚えがいいのか、一度教えてもらうとすぐに一人でできるようになっていた。
あいつ、なかなか才能あるんじゃね?
依田はおじさんとカンパチを捌いてる。
京佐が、
「俺、邪魔かも……」
と手持ち無沙汰になってる。
「確かに……」
俺もだ。
そんな俺たちにおばさんが気付き、
「お兄ちゃんたち、隣の畑にトマトがなってるから、赤くなってるのを全部採ってきてくれる?」
「全部ですか?」
「赤くなった美味しいのは鳥にも美味しいから食べられちゃうのよ」
「わかりました」
カゴを持って二人で畑に向かった。
少しずつ日が傾き始めている。
畑にはいろいろな野菜が作られていた。
わからないのもあるが、トマトはわかるぞ。
「赤いの、って言ったよね?」
「赤いのは赤いのだよな?」
赤いの基準がわからなくて聞きに行こうかと思ったけど、それではあまりに使えない役立たずなので、二人でジャッジし合ってもいだ。
スーパーのと違って青臭い匂いがする。
「トマトってこういう匂いなんだな」
「全然違う」
トマトのスペースは広くはないが、結構採れた。
カゴがいっぱいになった。
日が暮れ始めた夏の一日。
あんなにうるさかった蝉の合唱も少しおとなしくなって、ヒグラシが鳴き始めている。
夕陽にきらめく海が目の前に広がる小さな畑でのんびりと野菜を収穫してる。
なんて贅沢なんだろう。
「海のせいなのかな。
何もかものんびり動いてる気がする」
京佐がカゴいっぱいのトマトを持ちながらしみじみ言う。
俺も答える。
「うん、贅沢な時間だよな」
「俺さ、さっき気づいたんだけど、こっちに来てからほぼスマホ触ってないんだよね」
「あ、わかる、俺も」
一日目は運転したりしたからみんな疲れてすぐ寝ちゃったし、今日も朝から海に行ったからスマホは全然触ってない。
写真撮っただけだ。
普段全く手放せなくて依存症かと思うくらいなのに。
「こういう生活悪くないなって思った」
「うん、いいな」
二人で海を眺める。
潮の匂いが海をリアルに感じさせる。
しばらくすると京佐が、
「ねえ、今度は依田に山の別荘連れて行ってもらおうよ」
と言い出す。
「お前もなかなか図々しいなw」
「きっと山もいいなって思いそうなんだよね」
「わかる」
俺、思うんだよ、京佐。
このメンバーだから楽しくて、こんな贅沢な時間を過ごせてるんだよ。
今、こうして二人でいることに、海を見て同じ気持ちでいることに、俺は泣きそうになるくらい心が満たされてるんだ。
おばさんの声が聞こえる。
「お兄ちゃんたち~、きゅうりとなすも採ってきて~大葉も何枚か~」
ふっ
二人で笑って答える。
「わかった~」
「なあ、京佐」
「ん?」
「大葉ってどれ?」
「俺もわかんないw」
二人ともどの葉っぱが大葉なのかわからなくて、近くの畑にいたお爺さんに笑われながら教えてもらって数枚確保した。
ついでにきゅうりとなすの採っていいやつの目安も教えてもらった。
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