恋人ごっこはおしまい

秋臣

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胸が高鳴るのは

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遊んでるうちになんとなく絵里香ちゃんと依田、俺と葉月ちゃんという組み合わせになっていた。
依田と絵里香ちゃんはいい雰囲気だ。
気が合うのか二人でキャッキャッと遊んでる。

「あの二人楽しそうですね」
「そうだね」
「私も楽しいです」
「え? あ……うん、俺も楽しいよ」
なんか女の子とのこういうの久しぶりでどうやってたか忘れてる。

フロートに葉月ちゃんを乗せて波に浮かべる。
さっき流されたからか少し怖がってる。
「禄郎くん、離さないでね」
「大丈夫だよ、ちゃんとロープ持ってるから」
「一緒に乗って……怖い」
せっかく海に遊びに来てるのに怖いままの思い出になったらかわいそうだよな……

「ちょっと沈むよ」
そう言って乗ろうとすると、
「禄郎くん、前に乗って」
「なんで?」
「前だと波被るから」
「おいっw俺ならいいのかよw」
「あはは!」
女の子ってかわいいんだよな。

お望み通り、前に乗ると確かに波を被る。
「俺を盾にしてない?」
「してる」
「してんのかw」
「うふふ」
時々大きい波が来る。

フロートが大きく波を越えるとかなり揺れる。
フロートが横向きだとひっくり返りそうになる。

「きゃあ!」
そう叫んで葉月ちゃんは俺にしがみつく。
怖いから捕まるのはわかる。

でも……
おっばいが当たってる……
久しく忘れてた感触、柔らかいおっぱいが背中に当たってる……
おっぱいってすげえ柔らけえ……

そんな邪なことを考えていたら、今までにないくらいの大波が来た。
マジか。
「うわっ!」
避ける間も無くひっくり返る。
葉月ちゃん!?
フロートの下から水面に顔を出して、
「びっくりした! しょっぱい!」
と笑ってる
波にもまれたせいか、ビキニの紐が解けかかってる。
ちょっと見えちゃいそう。

「葉月ちゃん、俺の方に来て」
「え?」
「水着、取れちゃいそう……」
「え? やあ……!」
片手でビキニを押さえてる。
「俺が隠すから結び直して」
「できない……」
「ん?」
「ここ、つま先しか届かないから掴まってないと怖い」
なるほど。
「じゃあ俺に隠れるように掴まってて。フロートは俺が持つから」
「いいの?」
「足がつく所に行ったら教えて。そこで結び直そう」
「うん、ありがとう」

取れかけたビキニを押さえてはいるものの、布を挟まない生のおっぱいの感触が背中にある。
そうするしかない、不可抗力だ。
でもさすがに生はヤバい……

ゆっくり、他の人に見られないように浜の方へ戻ると、
「禄郎くん、足ついた」
「結べそう?」
「うん」
背中から感触が消える。
ヤバかった……
「ごめんね、もう大丈夫」
後ろを振り向くとちゃんとビキニを結べた葉月ちゃんが照れながら笑ってる。
「ありがとう、恥ずかしい……」
「うん、なかなか刺激的だったよ」
「ちょっと!」
「あはは」

砂浜では依田と絵里香ちゃんが砂で何か作ってる。

「何作ってるんだろ?」
「なんだろうな」

「依田~!」
「絵里香!」

二人を呼ぶとこっちに気づいて手を振ってる。

「何作ってんの? 魚?」
確かに魚っぽいな。
「魚じゃない! イルカ!」
「どこからどうみてもイルカだろ」
依田と絵里香ちゃんが心外だと言わんばかりに反論する。
「魚だろ、これ」
俺も葉月ちゃんに同意すると、
「なんでだよ、イルカだ!」
と依田が怒る。

なんかイルカのフォルムじゃねえんだよなあ、なんでだろう?
「あ、わかった! ちょっといじってもいい?」
葉月ちゃんが砂を集めて、イルカもどきに手を加える。
丸っこかった顔に少し細長い部分を付け足す。
そうそう! 口先が短いからイルカに見えないんだよ。

「あー、イルカっぽい」
「そっか、顔が丸いから変だったんだね」 
「なんかおかしいとは思ってたけどそこか」
二人とも納得したようだ。

そばで見ていた子どもたちが、
「イルカだ!」
とはしゃいでる。
絵里香ちゃんが、
「あげてもいい?」
と依田に許可を取る。
「持って帰れないしなw」
と笑って子どもらに譲る。

「いいの? のってもいい?」
「乗ったら潰れるぞ、砂だから」
「のれるよ! おおきいもん!」
3人の子が我れ先にと砂のイルカに乗った途端、それは当たり前に崩れて跡形もなくなった。

それを見守っていた親御さんたちが、
「すみません! すみません!
せっかく作ったのに壊してしまってごめんなさい!」
と謝り倒していたが、砂でできたものはいつか壊れるし大丈夫と依田が言うと胸を撫で下ろしていた。


「おーーい! そろそろ行くぞー!」

遠くの方で京佐が叫んでる。
テントの近くに曽川といるみたいだ。

「ごめんね、連れがいるからそろそろ俺たち行くね」
「もう行っちゃうの?」
絵里香ちゃんが依田をじっと見てる。
依田も名残惜しそうだ。
連絡先を交換することになったみたいだけど、お互いスマホが手元になくて、とりあえず電話番号を口頭で教え合っていた。

「また会いたい」
「うん」
「番号、忘れないで」
「絵里香ちゃんもね」

これはいい感じだ。


「私も禄郎くんにまた会いたい……です」
葉月ちゃんの真っ直ぐな目がいじらしい。


楽しかった、それは本当だ。

でも俺たちを呼ぶ京佐に胸が高鳴った。
俺、やっぱり京佐のことが……

本当に俺はずるい。
女の子は好きだし、おっぱいも好きだ。
京佐だってそうなはず、京佐のために元に戻って……
そう言い訳してる自分がずるい。
ダメだった時の予防線を張りすぎてる自分のずるさに呆れる。

曽川を見習えよ。
好きなものには線引きする。
俺が好きなもの……京佐だろ?
独りよがりな想いでも譲れないし、諦められない。
もう言い訳はたくさんだ、振られたっていい。
振られたらまた好きだと言えばいい。
自分の想いにだけは嘘をつくのをやめる。
そこだけしかないんだから、そこだけは貫けよ、俺。


「葉月ちゃん、一緒に遊べて楽しかった。ありがとう」

そう言うと、葉月ちゃんは何か言葉を飲み込んで、笑顔になる。
「うん! 私も楽しかった!
禄郎くん、ありがとう」

手を振って別れる。
ありがとう、葉月ちゃん。
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