恋人ごっこはおしまい

秋臣

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四日目

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翌朝、やっぱり起きない依田と京佐を叩き起こし、曽川ママが作ってくれたサンドイッチを食べて港に向かう。
マジでママだな。

「おじちゃーん!おはよー!」
依田が手を振りながら船にいる波野さんに声をかける。
「おう、来たな」
「よろしくお願いします」
曽川、京佐、俺の3人も挨拶する。
「そこにあるライフジャケット着けろ」
「はい」
「薫は慣れてるけど船酔いするか?」
「車酔いしないから大丈夫だと思います」
と曽川が答えるが、
「船は揺れが違うからなあ、まあ、酔ったら寝てろ」
とがははと笑ってる。
海は穏やかだし、大丈夫だろう。

港を出る。
次第に陸が遠ざかる。
早朝の海はキラキラして綺麗だし静かだ。
絶好の釣り日和だ。

船はどんどん沖に向かう。
あれ?
うっ……
「どうした? 禄郎」
依田が声をかけてくる。
「なんか……気持ち悪い……」
「来たか、船酔いだな」
「気持ちわる……」
さっき食べたサンドイッチ出そう……

「薫」
「あいよ」
依田がバケツを手渡す。
「吐くならそれに吐け」
ご丁寧に蓋付きだ。
うええええ……
「禄郎、ダメだったかあ」
と笑っていた曽川だったが、もらい◯◯しそうになった上に船酔いも来たらしい。
曽川にもバケツが渡される。
おえええ……
俺たちはバケツが手放せなくなった。

「京佐、大丈夫か?」
「うん、平気みたい」
「船はなあ、これがあるからな」
「仕方ないよね」
「慣れだよ、慣れ」

そんなことを話してるのが微かに聞こえる。
俺と曽川はバケツを抱えながらしばらく横になっていた。

「この辺だな」
船を停泊させる。
「今日は何狙い?」
依田が波野さんに聞いている。
「イサキがよく上がってるんだよ」
「イサキ! いいね」
波野さんと依田が竿の用意をする。
「依田、慣れてるね」
「まあね」
「薫、竿下ろしていいぞ」
「了解」
「京佐、今回はルアーを使うから、ゆっくり海に落として」
「こう?」
「うん、で、リールについてるメーターで……おじちゃん、どのくらい?」
「35くらいだな」
「35mくらい糸が出たら止めて」
「わかった」
程なくして、
「35になった、止めた」
「そしたら、竿をしゃくって……」
「しゃくる?」
「竿をゆっくり上げたり下げたりすんの。
ルアーを動いてる魚に見せるようにして食いつかせる」
「なるほど」
波野さんからアドバイスが飛ぶ。
「竿先だけを動かす感じだな」
「はい」

竿をゆっくり動かす。
「これ魚が食いついたらわかる?」
「わかるよ、クン!って感じが伝わるからわかる」
「うーん……」

「よしっ来た!」
波野さんが声を上げる。
「おじちゃん来た?」
「来たな」
「かかったの?」
「うん」
竿が大きくしなってる。
巻き上げると35cmほどの魚がかかってる。
「まあまあかな」
「それなんですか?」
「これがイサキだよ」
「結構大きい」
「イサキが来たってことは釣れるチャンスだぞ、京佐」
「俺も釣りたい」
「釣れ釣れ」

その後また波野さんに当たりが来る。
依田にも来た。
「何で俺釣れないの?」
「いや、いるから釣れる。どんどん投げろ」
「うん」

俺と曽川はまだバケツと友達でいるが、少し落ち着いてきたような気もする。
3人の会話だけ朧げに聞いている。

「あ!」
「来た?」
「なんかクン!って来た、これか!」
「グッと引き込むからそれ待って」
「わかった……来た!」
「竿を上げて!」
京佐が言われるがまま竿先を上げる。
大きくしなってる。
「巻いて!」
「重い……!」

「いいしなりだな、サイズいいんじゃないか?」
波野さんが京佐の隣で見守る。
「おも……い……」
「竿を上げた時に巻いてみろ」
「は……い……」
「京佐、見えてきた」
「マジ?」
「あとちょい」
「ほら、頑張れ!」
「あ、見えた……」
「おーイサキだな」
波野さんがタモで掬い上げる。
「やったな、こりゃあいいサイズだ」
「やった……」
「40くらいあるかもよ」
波野さんが測ってくれる。
「42だな」
「すげえ……」
「初めてでこのサイズ釣るとはやるじゃん」
「めっちゃ嬉しい……めっちゃ楽しい!」
「50狙えるかもしれないな」
「ほら、京佐やるぞ」
「やる!」
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