恋人ごっこはおしまい

秋臣

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誰かの何かに

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曽川と禄郎の弾んだ声が走っていく。
坂の方から聞こえる。

「なあ、京佐」
「ん?」
「京佐はなりたくない?」
「ん? なに?」
「誰かの何かになりたくはない?」
「え……」


「昨日俺と絵里香ちゃんは連絡先を交換したんだけど、禄郎はしなかったんだ」
「振られたんだろ? そう言ってたよ」
「違う」
「え?」
「禄郎が断ったんだ」
「え……なんで……」
「わかってるだろ?」
「……」

「……禄郎、やり直したいって言ったんだ。京佐を苦しませたから、やり直したいって」
「……」
「俺と曽川は京佐と禄郎になにか変化が起きれば、二人が変わるきっかけになるかも……そう思って余計なことなのは百も承知でDVDを貸した」
「……」
「でも、思ってたようにはいかなかった。
二人の仲を拗らせた、俺たちのせいで……
そんなことを望んでたんじゃないんだ、
ただ俺たちは京佐と禄郎なら友達から踏み出しても大丈夫、もっと揺るぎない二人になると思った。それを見たかったんだ」
「……」
「勝手に期待してごめん。
期待なんてされるの嫌だって自分で言ってるくせに人には押し付けた、ごめん」
依田が俯く。

依田がまた暗闇に溶けかける。


「俺も期待した」
「え?」

京佐は防波堤の上に寝転がる。

「うわっすげえ、こんなに星見えんの?」
ふっ
依田も寝転がる。
「久しぶりにここの星見た」
「いいな」
「いいよな」

波の音がする。

「流されてなんて……ノリでなんて嫌だって思ったんだ」
「……うん」
「でも……それでもいいとも思った」
「うん」
「形が変わったら……立ち位置が変わるかも……そう期待した」
「うん」

波が時々京佐の声をかき消す。

「……辛くなった」
「……」
「この形は、この立場は、なにかの拍子に壊れたら元に戻らない。それどころか覚え込ませるようなことして、どんどん蓄積されていく。それに気づいちゃった」
「怖くなった?」
「うん……」
「そっか……」
「俺も間違えたんだ。あのDVDを観る前に言わなきゃいけないことがあったのに、壊れるのが怖くて逃げた……楽な道なんてなかったのに……禄郎のせいにした……」

「……友達には戻れた?」
「うん、それはできたと思う」
「それでいいのか? それだけでいいのか?」
「禄郎が頑張ってくれた。もう壊せない」
「何度壊れたって俺と曽川が修復するぞ」
「何それ?w」
「おせっかいなだけ。でも俺たちは絶対そうする。だから全力でぶつかっても大丈夫、安心しろ」
「ふっ」


パン!

「あれ? 花火?」

パン! パン!

「おーい! そこの二人~!
花火やろうぜ~!」

曽川が手持ち花火に火をつけて振り回して呼んでいる。
禄郎は次々と打ち上げ花火に火をつけている。

「やろうぜってもうやってるじゃんw」
「俺たちも行こう」

まったく、人の気も知らないで...…

依田と京佐もさっきの子どもたちと一緒になって花火に大はしゃぎしている二人に合流した。

真っ暗な海に瞬く花火が最後の夜を彩って消えた。
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