恋人ごっこはおしまい

秋臣

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またな

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翌朝、目が覚めると京佐は後ろ向きのままで爆睡していた。

ふっ

何もなかった、話をしただけ。

曽川と依田が気を遣ってくれたけど、何の成果もなかった。
ごめんな。

そっとベッドを抜け出しリビングへ行く。
曽川ママは今朝も早起きしてた。

「おはよ」
「おはよー、朝早いのは最後まで禄郎と俺だけだったな」
「確かにw」

曽川が冷蔵庫の中のものを全部出してる。
「それどうするんだ?」
「全部が中途半端でさ、おにぎりにするには米も足らねえし。だったら全部ぶち込んで雑炊にしちゃおうかなと思ってさ」
「へえ、雑炊か」
「残り物で作るから文句言うなよ」
「言わねえよ、毎日作ってくれて感謝しかねえわ」
「それはどうも」

「で、あいつらどうする?」
曽川が呆れてる。
「俺さ、放っておこうと思う」
俺も呆れてる。
「いいな、それ」
「最後まで起きてこないってどうしようもねえわ」
「俺、依田は起きるタイプだと思ってたんだけどなあ」
「俺もだよ」
「むしろ禄郎がダメ野郎かと思ってた」
「ダメ野郎w」
「つーことは、京佐は最初からダメ野郎ってことだな」
「だって、見るからに起きなさそうじゃんw」
「だよなあw」

そんなことを言いながら曽川が雑炊を作ってくれた。
残り物とはいえ、めちゃくちゃ美味そうだ。
マジでお前は天才か。
出来上がってもあいつらは全く起きてこない。
放っておこうと言ってはいたが、せっかく作ってくれたのに起きてこないあいつらに俺がキレた。
冷蔵庫の氷をボウルに入れて寝室に行く。依田と京佐のTシャツの背中にそれぞれぶち込む。

「ひゃあっ!」
「ひいっ!」

二人とも一発で起きた。

「なにすんだよっ!」
と二人ともブチ切れたが、
「最後だぞ! 曽川が今日も飯作ってくれてるのにお前ら甘えすぎだろっ!」
そう言うとしゅんとして、
「ごめんなさい、起きます……」
と起きてきた。
全く世話が焼ける。

「さっさと食え」
曽川がよそって待っててくれた。

「いただきますっ!」
寝ぼけ眼の二人もいい匂いに誘われてようやく覚醒。

「やっぱうめえわ……」
「曽川ママ」
「ママは終わりです」
「ママ~」

当然片付けは依田と京佐にやらせる。

冷蔵庫は片付いた。
布団はシーツ類を外してタオルなどと一緒に洗濯する。
でかい洗濯機だが2回回さないとダメだった。
外の物干しに干すがこの日差しだ、すぐに乾きそう。

戸締りを確認し、ガスの元栓や水道を止める。

車に荷物を積み込んだら、俺たちは坂道を下る。
波野さん夫婦に挨拶に行く。

波野さんとおばさんは港にいた。

「おじちゃん、おばちゃん」
依田が声をかけると手を振ってる。

「世話になりました、ありがとう。
俺たち帰るね」
依田がそう言って俺たちは頭を下げた。
本当に世話になった。

「薫くん、洗濯してくれたの?」
別荘の庭先に干されている洗濯物を見ながらおばさんが聞く。
「うん、ごめん、干しっぱなしになっちゃうから取り込んでくれると助かる」
「洗濯なんてやっておくからいいのに」
「できることはやっておきたかったから」
「薫も少し大人になったな」
と波野さんが笑ってる。

「ほら、持ってけ」
波野さんが発泡スチロールの箱を四つ手渡す。
「これは薫と曽川くんの分。
曽川くんは捌けるよな?」
「はい、ありがとうございます」
「こっちは宮下くんと堤くんの分な。
二人は捌けないだろうから干物と切り身にしておいたよ。焼くくらいは出来そうか?」
「すみません、気を遣わせて……」
京佐と二人で恐縮する。
「気は遣ってねえよ、美味い魚を食わせたいだけだ」
ふっ
「ありがとうございます、いただきます」

「また釣りに連れて行ってください」
京佐が前のめりで波野さんに言っている。
「初めてであれだけ釣れたら楽しいよな。
またおいで、待ってるよ」
「はい!」

「おばちゃん、魚の捌き方教えてくれてありがとう。絶対また来るから手伝わせてね」
「手伝いじゃなくて遊びにいらっしゃい。待ってるわね」
曽川はすっかりおばさんと仲良くなってた。

「じゃあ、そろそろ行くね」
「親父さんによろしくな」
「うん! またね!」


俺たちは波野さん夫婦に見送られ、S田を後にした。



帰りもくじ引きで交代しながらの運転で東京まで帰った。
依田が荷物もあるし、魚の土産もあるからとそれぞれの家に近いところまで送ってくれた。

曽川が最初に降りる。
「マジで楽しかった! 絶対来年も行こうぜ! じゃあな!」

こっちこそありがとな、毎日ご飯作ってくれて。曽川ママ。

次は京佐。
トランクを開けて荷物を下ろす。
「あれ? これ、どっちも同じだよな?」
波野さんにもらった発泡スチロールの箱がどれだかわからないと言っている。

「中身見ればわかるだろ?」
「開けていい?」
「めんどくせえ奴だな」
「禄郎、見てきてやれよ」
「へえへえ」

「どれだっけ?」
「俺たちのは切り身とか干物って言ってたぞ」
「あ、これか」
「名前書いとけよ」
「魚に?」
「箱だよw」
バカなのか?w

ふっと気が抜ける。
俺は財布から鍵を取り出す。俺の部屋のスペアキーだ。

「京佐、これ」
「ん?」
スペアキーを渡す。

「合鍵は俺にとって大切なものだから……
特別なものだから……京佐に預ける」
「……」
「土曜日、待ってるから」
「……俺行けないよ……」
「俺は待ってる」
鍵を押し付ける。
もう後に引けないし、賭けるしかない。

「じゃあな」
「うん。依田ありがとう、来年も絶対行こう」
「別荘抑えておくよ」
「頼むね、じゃあね!」

京佐が帰って行った。

依田と俺だけになった。
「悪いな、送ってもらっちゃって」
「ん~、なんとなく一気に解散!って感じになるのが嫌だったんだよね」
「ん?」
「いや、俺もすげえ楽しかったんだよ。
だからその余韻に浸りたかったのかも」
「うん、マジで楽しかった」
「だよな」
依田が運転しながら満足げな顔をする。
「来年就活してるかもだけど都合つけて行きたい」
「ヒーヒー言ってるかもしれないけど、なんとか都合つけて行こうぜ。別荘は抑えておくから」
「依田坊っちゃん、よろしくお願いします」
「久々に坊っちゃん出たなw」
「あはは!」

「京佐とは話できたか?」
「うん、できたと思う。
あとは京佐の気持ち次第だけど」
「そっか」
「うん」
「近いうち曽川も誘って飲みに行こうな」
「え?」
「振られた時は飲むに限るよ」
「おい、振られる前提なのやめろ!」
「かわいそうに」
「このやろう……自分だけ幸せになりやがって!」
「俺はこっちで絵里香ちゃんに会うんだ~」
「くそかよ……」
「幸せ~」
「このくそボンボンが」
「あははは~」
本当、こいついい性格してるわ。

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