恋人ごっこはおしまい

秋臣

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俺の知ってる京佐は

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楽しかった余韻は週末が近づくにつれ、次第に消えていった。

京佐に土曜日来てくれと言ったけど、京佐からはいい返事をもらっていない。
バイトあるし行けないと言っていた。
約束できないと京佐は言っていた。

俺のこと好きでいてくれたら……ほんの少しでも好きでいてくれたら来てくれるんじゃないか……
そんな淡すぎる期待だけでなんとか生き延びてる感じだ。


当日。
朝からソワソワしてしまって落ち着かない。
京佐からは旅行以降連絡はない。
もしかしたら……なんて淡い期待ももはや泡となって消えてしまいそうになっている。

それでも消えそうな期待をしつつ部屋を片付ける。


魚になりたいなあ。
京佐に釣り上げられたいなあ。


もう思考がおかしくなり始めているのが自分でもわかるくらいにはおかしくなってる。

昼過ぎまで部屋を片付けたりして気を紛らわせることが出来たが、夕方を過ぎ陽が落ちて夜になるとさすがに期待は不安に変わっていった。

ダメなのか?
やっぱりダメだったのか?

効きすぎたエアコンに心まで冷やされていくようだ。

京佐のバイトが終わる時間は確か21時。
その時間まではなんとか自分を保っていられた。
しかし、22時を過ぎると不安は増幅し、
23時には絶望に変わっていく。

いや、まだだ。
バイトが長引いてるのかもしれない。
急遽、延長してるのかもしれない。
京佐の最寄りから俺の部屋まで電車と徒歩含め30分はかかる。
遅延してるのかもしれない。
自分の都合のいいように解釈しないと、
このエアコンは冷凍庫のように俺の心を凍りつかせる。
心配になってアプリで調べたら電車は平常運転だった。


時計は0時を知らせる。

日付が変わってしまった。

鼻がツンと痛くなる。
泣きそうになるのを必死に堪えるが涙が溢れ視界が滲む。

ダメだった。
京佐はもう俺を受け入れてはくれなかった。
その現実に嫌というほど打ちのめされる。

受け入れなくちゃ……

京佐はいい友達。
これだけは確かだ。
ここだけでも俺は大切にしなきゃ……


それでも思う。
京佐は優しくて、楽しくて、バカで、アホで、寝起き悪くて、スケベで、大きな背中してて、その背中が好きで、独り占めしたくて、俺しか知らない京佐が嬉しくて……

どうやっても涙が止まらない。

京佐……

俺の知ってる京佐……
俺しか知らない京佐……


俺の知ってる京佐は……
俺しか知らない京佐は……

…………


そうだ、京佐は!


飛び起きて玄関へ走る。
勢い余ってドアを体で開ける。

アパートの廊下の真ん中にある階段の上に京佐はいた。

「京佐……」

俺に気づいた京佐は後退りする。

「俺は……」

そのまま階段を駆け降りる。

「待って! 待ってくれ!」
階段の途中で腕を掴んで掴まえる。

「行かないで……お願いだから……」

「俺……」


そうだよ、京佐は素直じゃないんだ。
部屋に来てくれと合鍵を渡したけど、使うわけがない。

汗ばむ京佐を抱きしめる。
「どれだけここに居たんだよ……暑かっただろ……」

ふっ

抱きしめた京佐の体が震える。

ふっふっ

京佐笑ってる?

「なに?」
「ふっ……そういうのって普通『寒かっただろ』が常套句じゃねえの?w」

ふっ
「そうかもw」

ふはっ!
ふははは!

「こんなに火照って……涼んだ方がいいぞ」
「それは『こんなに冷えて……温まった方がいいぞ』だろw」

夜中なので声を潜めて笑う。
思いがけず笑えたことに、俺は今にも泣きそうになるの堪えて京佐を部屋へ連れて行った。
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