好きを教えて

秋臣

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頼はカナダから帰って以来、忙しくしてる。
周年イベントも終わったし一区切りついて落ち着くかと思ってたのに逆だった。
イベントで久しぶりに会えたお客さんがまた通い始めたり、面白いイベントをしてくれたとSNSで拡散されて、新規のお客さんも増えている。
タトゥーを入れるのはハードル高いけどタトゥーシールなら気軽にできるとオンラインストアの売り上げも伸びた。
忙しくしている上に僅かな暇を見つけては新しい図案を描き溜めてる。

以前はお客さん自ら、
「この絵(文字)を入れて欲しい」
と希望する図案を持ってくることが大半だったが、
今は、
「自分に似合う図案をデザインしてもらえますか?」
と依頼されることの方が多い。
だから忙しい。
夜遅くまで作業してるのに朝はちゃんと早く起きて家のことをやってる。

「頼、少し休んでよ。俺ができることは俺がやるから」
「ん? 大丈夫だよ。息抜きになるしな」
と言って取り合ってくれない。
それにしても隣は朝から解体工事の音がして騒々しい。
このところこの界隈は親世代が建てた家を壊し、新たに子ども世代が建て替えた家に住むようになったり、そのまま更地になったり、マンションになったりと世代交代が進んでいる。
お隣もそうだ。

稲本いなもとさんの家もなくなっちゃうね」
「あれだけ毎日見てたのに壊しちゃうとどんな家だったか忘れちゃうよな」 
「寂しいね」
「そうだな」
「建て替えるのかな?」
「いや、土地売ったって言ってたぞ」
「そうなんだ、なにか建つのかな」
「日当たり悪くならないといいな」
「この家は壊さないよね?」
「んー、メンテナンスはしてるけどリフォームはそろそろ必要かもな。
長く住むにはリフォームか建て替えしないとダメだと思うし」
「やだ」
「ガタ来てるところもあるかもしれないぞ」
「そうだけど……やだ」
「思い出がありすぎるんだよな、ここは」
「できるだけこの家のままがいい」
だってこの家はお母さんの思いが詰まった家だから。
きっと空の上で、
「私も住みたかった!」
って言ってるはず。
だから大切にしたい。

ふっ
頼は優しく笑う。
「そうだよな、それならリフォームかな。長く住むために一度ちゃんと見てもらって少しずつ修理していくか」
「うん」
「それじゃ才さん、稼いできてくださいね」
「え?」
「え? じゃないよ、一軒家に住むって金かかるんだぞ」
「頼頑張れ!」
「お前、さっき休めって言ったじゃねえか、もう手のひら返しか?」
「行ってきます」
「こら、逃げんな」
「バイトの時間なんで」
「ふっ、土産持ったか?」
「うん」
「気をつけてな」
「行ってくるね」
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