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終わりの始まり
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「こんにちはー」
「才くん、久しぶり」
マスターがカウンターで手を上げる。
「また長く休んじゃってすみません」
「オーロラ見られた?」
「すごいです! やばいです! とにかくすごい!」
「あははは! すごいのはよく伝わったよ」
「あれ? ミチルさんは?」
「もうすぐ来ると思うよ、今病院行ってるから」
「どこか悪いんですか?」
「ううん、いつものリウマチ」
「悪くなってる?」
「そうじゃないよ、薬をもらいに行ってるだけだから心配しなくていいよ」
「それなら良かったです。マスターとミチルさんが前に喜んでくれたから今回もこれにしました」
お土産のメープルシロップを渡す。
「ああ! これすごく美味しかったんだよ」
「喜んでもらえたんで今回は3個にしました」
「ふふっ、嬉しいよ、ありがとね」
「支度してきますね」
「うん、頼むね。才くん、あとでちょっと話があるんだけどいい?」
「はい、わかりました」
なんだろう?
ミチルのバイトはまだ続けてる。
就職するまで続けるつもり。
でも店の休みがこのところ多くなった。
俺が入れれば開けられるけど、いないと休みになることもある。
やっぱり体がしんどいとマスターは言ってる。
その話なのかな……嫌だな……
変化が苦手だ、いつまで経っても怖くて嫌だ。
久しぶりにミチルでコーヒーを淹れる。
マスターが味見をする。
「うん、才くんのコーヒーだ」
「ああ、もう! なんで?」
「ん?」
「何年も淹れてるのにマスターのコーヒーにならない!」
「それでいいんだよ」
「嫌なの! マスターのコーヒーが好きなの!」
「ふふふ、なんでそんなに嫌なのかなあ、僕は才くんのコーヒーが好きだよ」
「深町さんはマスターのコーヒーを淹れられるのになあ」
あ、そういえば深町さん……
「深町さん、最近来てますか?」
「ううん。この前ちょっとだけ顔出して、コーヒー淹れていったよ。味変わってませんか?って確認してた」
「どうでした?」
「うん、深町くんも変わらないね、ずっとあの味」
「マスターのコーヒーですよね?」
「そうなのかな?」
「深町さんが淹れるコーヒーはマスターの味なんです」
「才くんが言うならそうなんだね」
「悔しい……」
「彼は彼なりに思うところがあるんだろうな」
「え?」
マスターはニコニコするだけでなにも答えなかった。
深町さんもミチルに来てない。
見上さんも周年イベントの銭湯で会った時から店に来ていない。
予約も入ってない。
忙しいのかな、もう俺たちみたいな一般市民とは住む世界が違いすぎちゃってるのかな。
危ないこととかに巻き込まれたりしてないよね?
ランチタイムが終わる頃ミチルさんが店に来た。
「才くん! 遅くなっちゃってごめんなさいね」
「病院、混んでましたか?」
「うん、混んでたあ」
うんざりした顔でうんざりそうに言うからかわいい。
「才くんからお土産もらったよ」
「もしかして……」
「はいw」
「わあ! これ美味しいの!」
「よかったです」
「お昼まだよね? あとでホットケーキ焼くからこれかけましょう」
ミチルさんが小さい声でこっそり言う。
「内緒ね」
「はいw」
「聞こえてますよ」
マスターにすぐバレた。
一度店を閉める、昼休憩だ。
と言ってももう15時に近いけど。
「お昼が遅くなっちゃってごめんね」
とマスターが謝る。
今日は混んでた、お客さんが途切れることなく来て、やっと休憩に入れた。
「大丈夫です」
ミチルさんがホットケーキを焼いて、お土産のメープルシロップをたっぷりかけてくれた。
メープルシロップも美味しいけど、ホットケーキが美味しいんだ。何枚でもいける。
マスターがコーヒーを淹れてくれる。
変わらない、美味しい。
「あのね、さっき才くんに話があるって言ったのはお店のことなんだけど」
「はい」
「才くんが4月に就職するでしょ?
それと一緒にお店を畳もうと思ってる」
「え……」
予想はしていたけどあまりにも早い。
「もう体がついていかなくてね、そろそろかなと思うんだ」
「このお店無くなっちゃうんですか?」
「私たちは子どもがいないから、後継いでくれる人もいないし、これでおしまいかな」
「嫌です……」
「困ったね」
「嫌です……」
ホットケーキがしょっぱい。
メープルシロップ、たっぷりかけてるのに。
「才くん、泣かないで」
ミチルさんが背中をさする。
「そう言ってくれるだけで嬉しいよ」
「俺が引き継ぐって言えない自分が凄く嫌だ……」
変化は嫌いだ。
寂しいのは嫌いだ。
「優しい子だね、才くんは」
ううっ……
「最後まで手伝ってもらえるかな?」
「……はい」
「ありがとう、才くん」
「あの……深町さんは店閉めること知ってますか?」
「ううん、まだ話せてない。今度来た時に話すよ」
深町さんだってきっと……絶対嫌だって言う。
ここで深町さんに会う、内緒話みたいな秘密がちょっと楽しかった。
それも無くなっちゃう。
「あの、見上さんには……」
「うん、あきちゃんにも伝えないとね。
あきちゃんがあきちゃんでいられる場所だったろうから……」
変化は嫌いだ。
「才くん、久しぶり」
マスターがカウンターで手を上げる。
「また長く休んじゃってすみません」
「オーロラ見られた?」
「すごいです! やばいです! とにかくすごい!」
「あははは! すごいのはよく伝わったよ」
「あれ? ミチルさんは?」
「もうすぐ来ると思うよ、今病院行ってるから」
「どこか悪いんですか?」
「ううん、いつものリウマチ」
「悪くなってる?」
「そうじゃないよ、薬をもらいに行ってるだけだから心配しなくていいよ」
「それなら良かったです。マスターとミチルさんが前に喜んでくれたから今回もこれにしました」
お土産のメープルシロップを渡す。
「ああ! これすごく美味しかったんだよ」
「喜んでもらえたんで今回は3個にしました」
「ふふっ、嬉しいよ、ありがとね」
「支度してきますね」
「うん、頼むね。才くん、あとでちょっと話があるんだけどいい?」
「はい、わかりました」
なんだろう?
ミチルのバイトはまだ続けてる。
就職するまで続けるつもり。
でも店の休みがこのところ多くなった。
俺が入れれば開けられるけど、いないと休みになることもある。
やっぱり体がしんどいとマスターは言ってる。
その話なのかな……嫌だな……
変化が苦手だ、いつまで経っても怖くて嫌だ。
久しぶりにミチルでコーヒーを淹れる。
マスターが味見をする。
「うん、才くんのコーヒーだ」
「ああ、もう! なんで?」
「ん?」
「何年も淹れてるのにマスターのコーヒーにならない!」
「それでいいんだよ」
「嫌なの! マスターのコーヒーが好きなの!」
「ふふふ、なんでそんなに嫌なのかなあ、僕は才くんのコーヒーが好きだよ」
「深町さんはマスターのコーヒーを淹れられるのになあ」
あ、そういえば深町さん……
「深町さん、最近来てますか?」
「ううん。この前ちょっとだけ顔出して、コーヒー淹れていったよ。味変わってませんか?って確認してた」
「どうでした?」
「うん、深町くんも変わらないね、ずっとあの味」
「マスターのコーヒーですよね?」
「そうなのかな?」
「深町さんが淹れるコーヒーはマスターの味なんです」
「才くんが言うならそうなんだね」
「悔しい……」
「彼は彼なりに思うところがあるんだろうな」
「え?」
マスターはニコニコするだけでなにも答えなかった。
深町さんもミチルに来てない。
見上さんも周年イベントの銭湯で会った時から店に来ていない。
予約も入ってない。
忙しいのかな、もう俺たちみたいな一般市民とは住む世界が違いすぎちゃってるのかな。
危ないこととかに巻き込まれたりしてないよね?
ランチタイムが終わる頃ミチルさんが店に来た。
「才くん! 遅くなっちゃってごめんなさいね」
「病院、混んでましたか?」
「うん、混んでたあ」
うんざりした顔でうんざりそうに言うからかわいい。
「才くんからお土産もらったよ」
「もしかして……」
「はいw」
「わあ! これ美味しいの!」
「よかったです」
「お昼まだよね? あとでホットケーキ焼くからこれかけましょう」
ミチルさんが小さい声でこっそり言う。
「内緒ね」
「はいw」
「聞こえてますよ」
マスターにすぐバレた。
一度店を閉める、昼休憩だ。
と言ってももう15時に近いけど。
「お昼が遅くなっちゃってごめんね」
とマスターが謝る。
今日は混んでた、お客さんが途切れることなく来て、やっと休憩に入れた。
「大丈夫です」
ミチルさんがホットケーキを焼いて、お土産のメープルシロップをたっぷりかけてくれた。
メープルシロップも美味しいけど、ホットケーキが美味しいんだ。何枚でもいける。
マスターがコーヒーを淹れてくれる。
変わらない、美味しい。
「あのね、さっき才くんに話があるって言ったのはお店のことなんだけど」
「はい」
「才くんが4月に就職するでしょ?
それと一緒にお店を畳もうと思ってる」
「え……」
予想はしていたけどあまりにも早い。
「もう体がついていかなくてね、そろそろかなと思うんだ」
「このお店無くなっちゃうんですか?」
「私たちは子どもがいないから、後継いでくれる人もいないし、これでおしまいかな」
「嫌です……」
「困ったね」
「嫌です……」
ホットケーキがしょっぱい。
メープルシロップ、たっぷりかけてるのに。
「才くん、泣かないで」
ミチルさんが背中をさする。
「そう言ってくれるだけで嬉しいよ」
「俺が引き継ぐって言えない自分が凄く嫌だ……」
変化は嫌いだ。
寂しいのは嫌いだ。
「優しい子だね、才くんは」
ううっ……
「最後まで手伝ってもらえるかな?」
「……はい」
「ありがとう、才くん」
「あの……深町さんは店閉めること知ってますか?」
「ううん、まだ話せてない。今度来た時に話すよ」
深町さんだってきっと……絶対嫌だって言う。
ここで深町さんに会う、内緒話みたいな秘密がちょっと楽しかった。
それも無くなっちゃう。
「あの、見上さんには……」
「うん、あきちゃんにも伝えないとね。
あきちゃんがあきちゃんでいられる場所だったろうから……」
変化は嫌いだ。
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