もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!

ありぽん

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4巻

4-3

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 そして朝ご飯を食べ終わった僕達は、コリンズさんと玄関ホールに向かいました。
 さっきクレインおじさんが帰って来た時に、コリンズさんにこれから少しの間、僕達と一緒にいてあげてって言ってくれたみたい。ありがとう、クレインおじさん! コリンズさんには、あの変なお人形のことを聞かないとね。
 僕達が玄関ホールに着いてすぐでした。知らないおじさんがカッコいい騎士さんと一緒に、どかどかと足音を立てて家の中に入って来ると、僕達のことを見てニカッて笑います。
 コリンズさんが「待っていてください」って僕達と、今入って来たおじさん達に言って、階段を上って行きます。それからすぐにクレインおじさんを連れて戻って来ました。
 知らないおじさんがクレインおじさんに話しかけます。

「クレイン、アレが出たとか」
「ああ、三体な。さっきまでジオルが解体してたんだ。夕食に出すからな」
「遠征前に食うにはちょうどいいな。で、この赤ん坊がラディスの二人目か? ルリエット、久しぶりだな」
「お久しぶりです」

 ママが僕を抱っこして、おじさんの前に立ちました。お兄ちゃん達がその隣に並びます。

「オッドおじさんこんにちは!」
「おお、マイケル、こんにちは。久しぶりだな」

 お兄ちゃんに続いて僕も挨拶です。

「ちゃっ!」
「はは、いっちょ前に挨拶か。初めましてだな、俺はオッド、お前の父さんの兄さんの友達だ。よろしくな」
「クレインおじさんのお友達だよ」

 お兄ちゃんが僕にそう言ったのを聞いて、オッドおじさんは首をひねりました。

「おじさん? クレイン、前はお兄さんって呼ばれてなかったか?」
「あ~、色々あるんだ。さぁ、行くぞ」

 クレインおじさんがオッドおじさん達を連れて行っちゃいました。
 それを見送ったお兄ちゃんが、

「ほら、やっぱり間違いだったよね。オッドおじさんはおじさんなのに、クレインおじさんはお兄さんって。二人とも年は一緒なのにね」

 って言いました。
 お兄ちゃんはクレインおじさんのことをこの間まで「お兄さん」って呼んでいたんだけど、それが変だなって気づいてからは、「おじさん」って呼ぶようになっちゃったんだ。
 お兄ちゃんの言葉を聞いて、ママとコリンズさんが困ったお顔で笑っていました。


 オッドおじさん達がいなくなった後、僕らは玄関ホールで色々コリンズさんに話を聞きました。
 はじめに僕らが聞いたのは、廊下に飾ってあるたくさんの変な絵のこと。
 みんなで絵の前に行って、何で顔が四角に描いてあるのとか、あっちの絵はどうしてうにょってじれているのとか、いっぱい質問しました。

「こちらは有名な画家が、旦那だんな様――クレイン様をお描きになったのです。四角いのは……その絵を描かれた方が、四角好きだからでしょう。他の絵も大体四角く描かれていますから」

 コリンズさんがそう言うと、ドラック、ドラッホが首を傾げます。

『でもお顔は丸なのにね』
『ね、変だよね』

 ミルクが別の絵を指して言いました。

『あっちも捻じれてるのが好きだからなんだな?』 
「あちらは別の方に描いていただいたのですが、そういう気分だったそうです」

 ミルクが指したのもクレインおじさんを描いた絵らしいです。
 でも、あんなに捻じっちゃったら、何が描いてあるか分かんないじゃん。言われなくちゃ誰の顔かも分かんないし。
 みんなで変なのって言っていたら、廊下の反対側にもう一枚絵が飾ってあるのに気づきました。それも見に行ったんだけど、そっちは四角と三角と丸と、色々な模様がぐちゃぐちゃにいっぱい描いてあったの。
 ポッケが指をさします。

『これはぁ?』
「これはこのお屋敷の絵です」

 僕達、みんな黙っちゃいました。
 これが家の絵? ん?
 少しの間黙っていたら、ブラスターが声を上げました。

『絵はもういいぜ! あっちの人形の方に行こう!』

 その言葉で僕達はサササって、玄関ホールの端に飾られた人形の方に歩いて行きます。
 歩いている時にドラックがね、さっきの絵が僕の絵に似ているねって言いました。
 うん、僕もお絵描きすると、四角とか三角ばっかりの絵になるもんね。

『クレインおじさん、ジョーディの絵を見たらとっても喜ぶよ。だってぐちゃぐちゃの絵ばっかり飾ってるもの』

 そうだね、ドラックの言う通り、帰るまでにプレゼントしようかな?
 そう思っていたら、後ろからクスクス笑う声が聞こえます。振り向いて後ろを歩いているママ達を見たんだけど、みんなニコニコしているだけ。今、誰か笑っていたよね?
 そして、人形の前に着いた僕達。全部で六個の人形が置いてあって、みんな騎士さんの格好をしています。でも格好は全部違うんだ。
 この騎士さんの人形達には、今までにこの家の騎士さん達が着ていた洋服が着せてあるんだって。全部じゃないけど、有名な人が作った洋服とか、みんなでたくさん相談して作った洋服とか。それが古いのから順番にお人形に着せて並べてあるんだ。
 一番古い洋服は鉄でできているみたいで、とっても重そう。なんかずっしりって感じ。
 それからなんかカラフルな洋服もあるし、うすーい洋服も。あっ、でも階段の両側に置かれたお人形さんが着てる、今の騎士さん達と同じ洋服は、重すぎないし薄すぎなくて、ちょうどいい感じがします。

「今の騎士服は動きやすく、少しの攻撃なら怪我をしないように、防御魔法を付与しているのですよ」
「マイケル、みんなも、付与って分かるかしら。服に魔法をかけて強くしたってことよ」

 今の騎士さんの洋服に変わってから、魔法のおかげで怪我する人が少なくなったんだって。僕の家にいる騎士さんの洋服は見た目が違うけど、それもちゃんと魔法で強くしてあるみたい。
 今の騎士さんの洋服が、僕が今見た六個の中で一番カッコいい洋服でした。

「ちゃいのっ‼」
『ね、一番カッコいいね!』

 お兄ちゃんとみんなでカッコいいって言っていたら、コリンズさんが急に考え込んで、「そう言えば……」とママに何かお話しします。それを聞き終わったママがニッコリして、じゃああとでって言いました。
 二人が何を話したのかちょっと気になりながら、僕達はそのままお外に向かいます。最初はお目当ての噴水で遊びます。
 クレインおじさんのお家の噴水は、僕の街にあるものよりちょっとだけ小さかったけど、僕達が遊ぶにはとっても大きかったです。
 すぐに持ってきていたおもちゃ――小さなお船やボール、あとは水に入れても大丈夫なお人形――を噴水に浮かべて遊びます。ポッケ達小さい子は、船に乗って噴水をスイスイ。とっても楽しそう。シャーマ君がお船の柱につかまって、波を乗りこなしています。
 僕も小さかったら、一緒の船に乗って遊べたのに。

「ジョーディ! ほら‼」

 お兄ちゃんが木でできた水鉄砲みずでっぽうに、噴水の水を入れて構えました。噴水の真ん中にお星様みたいな形の飾りが付いているんだけど、そこに向かって水を撃ちます。
 僕もやりたい‼ お兄ちゃんから一個水鉄砲を貸してもらうと、ママと一緒に水を入れて……プシュッ‼
 あ~、惜しい! もうちょっとで当たったのに。よし、もう一回! 何回か繰り返して、やっとお星様に当たりました。
 それを見ていたポッケ達が自分達もやりたいって言い出しました。早速みんなで水鉄砲で遊び始めます。水鉄砲で遊び終わったら、またお船の上に戻って……行ったり来たり。
 そんなことをしていたら、足だけ水に入れて遊んでいたドラックとドラッホが、噴水に飛び込みました。いいなぁ。僕も噴水に入りたいなぁ。

「ルリエット様、先程のお話ですが」
「どうかしら?」

 コリンズさんとママがお話を始めます。お兄ちゃんは一番大きな水鉄砲の中にお水を入れ始めて。向こうで船から落ちそうになっているポッケを、ベルが支えようとしていて。僕は……。
 僕はその場で踏ん張ります。今僕は、噴水の縁の上に乗っかっているんだ。そこで思いっきり踏ん張って……。

「にょおぉぉぉ‼」
「それっ‼」

 お兄ちゃんが水鉄砲を撃ったのと同時でした。僕は思い切り噴水の中にジャンプ‼
 ジャンプしたところに、横からお兄ちゃんの撃った水が飛んできて、僕の体に命中しました。バッシャアァァァンッ‼ プシュウゥゥゥッ‼ ま、周りが見えない⁉

「わあぁぁぁ⁉ ママッ‼」
「嫌だ⁉ もう、目を離した隙に‼」

 目を開けられないでいる僕の洋服を、誰かが掴みました。それから持ち上げられた感覚もします。僕は顔をフルフル振って、手で顔を擦ってから目を開けます。
 ん? 僕、ふらふら揺れている?

「もう、何しているの‼」

 何とか振り返ったらママが後ろに立っていました。僕、ママに変な体勢で抱えられていたよ。地面に下ろされると、僕の洋服からは水がぼたぼた落ちます。

「ダメじゃないの、お水に入ったら。危ないでしょう‼」

 だってみんな入ってるよ。楽しそうだったんだもん。

「ああもう、これじゃあ着替えないと。さぁ、みんな一度お部屋に戻りましょう。予定外だったけど、ちょうど良かったと思いましょうか? さぁ、お着替えしに行くわよ」

 ママは濡れたくないって言って、僕をつまむ感じで持ち上げて、そのままお部屋に戻ります。
 お家に入る前には服をがされて、僕はパンツ一枚。でも誰も気にしないもんね。
 そのままお部屋に戻ったら、少ししてコリンズさんが、ちょっと大きな箱を二つ持って部屋に入って来ました。コリンズさんが来るまでに、ママが風の魔法で髪の毛をかわかしてくれたよ。

「旦那様には許可を頂いてまいりました。サイズが合うならご子息にと」
「そう、ベル手伝って。私はジョーディを、ベルはマイケルをお願いね」
「畏まりました」

 横を見たらお兄ちゃんが洋服を脱いでいて、その間にベルがコリンズさんと箱を開けて、中を見て何かお話をしています。
 その後二人が中から何かを出すと、ベルはそのままお兄ちゃんの方に。コリンズさんは僕の方に来て、ママにその何かを渡しました。それを広げるママ。
 あっ! これ! ママが広げたのは、さっき玄関で見た、一番新しい騎士さんの洋服でした。でもとっても小さくて、色は青いの。
 ズボンに足を入れて、次は上を着て、最後にママがマントを付けてくれます。おおっ! ちょっと大きいけど、でもいい感じ! ママもこれなら大丈夫ねって笑顔です。

「わぁ。ちょっと大きいけど、でも大丈夫!」

 お兄ちゃんの方を見たら、同じ騎士さんの格好をしていました。お兄ちゃんもピッタリ!
 コリンズさんが僕らを見て微笑みながら言います。

「試作品で色々作ったのを、そのまま保管してありました。サイズが合ったようで良かったです。きちんと付与もされているのですよ」

 僕は部屋をよちよち行ったり来たり、お兄ちゃんは走ってマントをヒラヒラさせています。ドラック達がカッコいいって喜んでくれました。こんなにカッコいい洋服を着れるなんて……嬉しい!


 その後、騎士さんの洋服を着て、パパ達を待っていた僕とお兄ちゃん。
 お昼の休憩で戻って来たパパに見せたら、みんなお揃いだなって言って笑っていました。パパも時々騎士さんの格好するもんね。クレインおじさんの街の騎士さんの洋服だけど、騎士さんは騎士さん。パパとお揃いで嬉しいなぁ。

「あなた、帰ったら絵を描いてもらいましょうよ」

 ママが思いついたといった感じで、パパに言いました。

「そうだな。せっかくのお揃いの格好だからな」
「私は冒険者の洋服しか持っていないけれど、確か女性用の騎士の洋服が余ってたわよね」

 家に帰ったら、みんなの絵描いてもらうって言ってるけど……四角とか捻じれているとか、ぐちゃぐちゃなのはダメだよ。
 ちゃんとそのまま描いてくれる人にお願いしようね。それから僕達の絵の他に、ドラック達みんな一緒の絵も描いてもらおうよ。みんな一緒もとっても大事。えへへ、楽しみだなぁ。




 2章 赤い光ともやもや


 騎士さんの洋服を着た僕とお兄ちゃん。
 お昼ご飯を食べる時は汚しちゃうといけないから、お兄ちゃんは胸にハンカチを付けてもらって、お膝にもハンカチを敷きます。
 僕は上だけいつもの洋服に戻して、お膝には三枚もハンカチを敷きました。本当は脱ぎたくなかったんだけど、汚したら探検で着られなくなっちゃうからね。
 パパ達は先にご飯を食べ終わってお仕事に戻っちゃいました。僕はいつもより早くご飯を食べ終わって、すぐにまた騎士さんの洋服にお着替え。
 そのままみんなで、昨日のアリさんの行列があった所に行きました。ちゃんとアリさんいるかな? そう思いながらお庭に行ったら、ちゃんと昨日の場所に行列がありました。
 お兄ちゃんがピシッと背筋を伸ばして声を上げます。

「ジョーディ隊長! アリの行列を発見しました! このまま追いかけますか?」
「たいのっ‼」
『ジョーディ隊長、ジョーディパパそっくり』
『ボク達もそっくり!』
『そっくりなんだな』

 お兄ちゃんが、僕のことをジョーディ隊長って呼んで、ドラックとドラッホ、ミルクが頷いています。
 今ドラッホが『ボク達もそっくり』って言ったでしょう。ドラッホ達も僕とお兄ちゃんとお揃いになったんだ。
 お昼ご飯を食べている時も、ずっと僕達のことをカッコいいって言ってたドラック達。
 それを聞いていたママが、お昼ご飯が終わった後で、ドラック達を呼んでその首に何かを巻きました。

『わぁ、凄いね! 僕達もジョーディとお揃いだよ』
『騎士さんなのぉ!』

 ポッケがホミュちゃんに掴んでもらって、喜んでお部屋の中をグルグル飛びます。ドラック達も跳ね回りました。
 ママがみんなの首に巻いてくれたのは、僕達の着ている騎士さんの洋服と同じ色、同じ模様のバンダナでした。青色の上に、白い模様が乗っているんだよ。

「みんなとっても似合ってるわよ」

 でもこれでみんな一緒、完璧だよ。ありがとうママ。みんなでママにありがとうをして、その後すぐにお庭に来ました。
 僕が隊長になったお庭の探検隊は、一列に並びます。
 ドラックとドラッホが先頭、次にポッケとホミュちゃん、それからミルクとブラスターが進んで、ピット達はその後ろに。僕は魔獣のみんなを追いかけながら、アリさんの行列を調べて進みます。ママとお兄ちゃんはさらに僕の後ろです。
 アリさんの行列を追いかけながら、昨日僕が見た、赤く光っていた所にだんだんと近づいて行きます。今日はまだ一回も光ってないけど、僕が気づいていないだけかも。
 アリさんの列を追っていると、昨日みたいにあっちこっち、ぐにゃぐにゃ行進しています。時々何か運んでいるアリさん達がいました。
 ママがアリさんを指さしました。

「アリが運んでるあの水色のものはお砂糖よ。自然にできるお砂糖なの。ジョーディやみんなが食べているのは、作ってできるお砂糖。アレは雨が降った後にお花の周りに時々できる、自然のお砂糖なの」

 自然にできるお砂糖⁉ 何それ! 僕食べてみたい! 美味しいのかな? この前はお花のみつめたけど、とっても美味しかったよね。
 行列を追っていって、ふぅ、やっと壁の近くまでやって来ました。アリさんは壁に着いたらどうするのかな? そう思って壁を見た時、ピカッ! 壁の低い所が赤く光りました。あっ、やっぱり光った! 昨日の僕の見間違いじゃなかったよ。
 手前の草むらをかき分けながら、壁にどんどん近づいて行く僕達。
 赤い光に気づいていないドラック達は、アリさんを追いかけ続けています。壁まで辿り着いたら、アリさん達は地面に空いた小さな穴に入って行きました。ここがアリさん達のお家みたいです。

「ちゃいのぉ!」
『うん! 到着!』
『ちゃんと最後まで追いかけられたね』

 みんなでやったぁ!をした後、ドラック達はアリさんの家の周りを調べて、僕はちょっと横にずれて、赤く光った所を調べに行きます。
 そこはアリさんのお家からちょっとだけ離れていたんだ。そして赤く光った所の手前の草をどかした時、またピカッ‼ 壁がちょっとだけ光りました。

「ちゃのぉっ‼」

 驚いた僕は、叫んでしりもちをついちゃいました。赤く光った時、壁に丸い模様ができて、その模様からあの黒いもやもやがちょっとだけ出て来たんだ。
 僕の声にママとみんなが慌てて来てくれます。黒いもやもやに気づいたママは、すぐに『フラッシュ』の魔法を使って消しました。ふぅ、ビックリした。
 ママがベルに僕を渡した後、僕達は壁から離れました。
 その間に、僕はドラック達にさっきの赤い光と模様のこと、それからその模様からもやもやが出て来たことをお話ししました。それをドラック達がママ達に通訳して伝えてくれます。
 それを聞いて、急いで壁を調べるママ。コリンズさんも調べてくれて、ママがコリンズさんの方を見て頷いたら、コリンズさんも頷き返しました。僕達の側に戻って来ると、家に戻りましょうねって。
 あーあ、お庭の探検、アリさんの行列を追いかけただけで終わっちゃいました。
 家の中に戻ると、ママとコリンズさんは急いで何処かに行っちゃいました。もやもやが出たからパパのことを呼びに行ったのかも。二人ともちょっと怖い顔をしていました。
 僕達はすぐにお庭の探検終わっちゃったから、お昼ご飯の前にしていた、玄関ホールの探検を再開することにしました。


     *********


 昼食を終えたところでオッド兄さんが到着し、私――ラディスと皆は、これからのことについて最終的な話し合いを始めた。予定通りなら、明日には森へと遠征することになる。
 兄さんとオッド兄さんが、私達がミリーヘンに来る前に準備を進めてくれていたおかげで、これだけ早く大規模な遠征が可能となった。
 目指す所はベアストーレの中心付近。今回の原因とされる場所だ。そこでどんなものが待ち構えているか。
 森を移動するのに際してあまり荷物は持って行けないが、それでも最低限の準備をしたら、かなりの量になってしまった。武器、食料、怪我人が出た場合の物資などだ。
 騎士達や上級冒険者の人数も稀に見る多さである。ここ最近ではかなりの遠征の規模になるだろう。
 そんな話をしている時、誰かがドアをノックした。コリンズが再び私達の部屋にやって来たのだ。午前中もマイケルとジョーディに着せる騎士服のことで部屋にやって来たが、今度は様子が違う。かなり慌てているようだった。
 兄さんが返事をすると、急いで部屋に入って来たのはコリンズだけではなかった。ルリエットも一緒だったのだ。

「大変よ。あの靄が出たわ」
「今は明るいんだぞ。明るい時に靄を見たことは……」

 時間がもったいないと、話を聞きながら皆で庭へ移動する。
 そして問題の場所に着いたのだが、そこにはいつも通りの風景があるだけだった。
 靄が現れた場所、そしてジョーディが見たという何かの模様と赤い光――その全てを確認することができなかった。
 しかし、ルリエット達が見ている以上、靄が出たのは確かだ。それに、ジョーディのこともある。これまでと同じように、私達に見えない何かをまた見つけたのかもしれない。
 壁に危険なものが仕掛けられている可能性があるため、兄さんは近くにいた使用人に、鑑定のできる者を呼んで来るように言い、使用人はすぐに街へと向かった。
 冒険者ギルドにも商業ギルドにも、かなりの鑑定の力を持っている者がいる。彼らを呼びに行かせたのだ。そして来たのは、ミリーヘンの冒険者ギルドのギルドマスター、ドーレインだった。

「サイラス様、ラディス様、ルリエット様お久しぶりです」
「ドーレイン、久しぶりじゃな。早速じゃがそこら一帯を調べてみてくれ」

 父さんに言われると、すぐにドーレインが鑑定の魔法を、ジョーディが目撃したという模様が浮きでた場所にかけ始めた。
 ドーレインは、すぐに一瞬動きを止めた後、険しい顔つきになり、次はその周りを調べ始めた。調べ終わるとまた最初の壁に戻る。それからもう一度鑑定の魔法を使った後、私達のことを呼んだ。
 そしてドーレインがボソボソと呪文を唱えると、ジョーディが模様を目撃したという壁に、小さな小さな魔法陣が現れた。
 それは見たことのない魔法陣だった。父さん達や他の皆もそうだったようで、ドーレインは急ぎギルドに戻り、この魔法陣が犯罪に使われたことがないか調べてくると言って、すぐにその場を離れた。
 兄さんの屋敷の警備はしっかりしている。そんな警備を潜り抜け何者かが侵入し、この謎の魔法陣を描いたのか?

「旦那様、私も書斎しょさいへ。調べてまいります」

 スタリオンもすぐに書斎へ向かおうと、後ろを向いた時だった。魔法陣から靄があふれると、たまたまその直線上にいたスタリオンへと襲い掛かったのだ。
 慌てて兄さんが魔法を使い、靄を消す。昼に『フラッシュ』を使ってもあまり効果がないかと思ったが、すぐに靄は消えた。

「この魔法陣は早く消さないとまずいな。レスター、この魔法陣を描き写せ。本当だったら残して詳しく調べたいところだが、あの靄が出て来るのは危険すぎる。封印してしまおう」

 私がそう命じると、レスターが素早く、しかし正確に複雑な魔法陣を描き写していく。そしてレスターが写し終わると、父さんが魔法陣に近づき壁を破壊した。魔法陣を中心に、ちょうどジョーディがハイハイで通れそうな大きさの穴が開く。
 その後は壁の欠片を粉々になるまで破壊すると、兄さんがそれに封印の魔法をかけ、魔法が発動できない特別な材料を使ってできている箱に、それを入れた。

「これは特別なあの部屋へ入れておく。少しの間監視を付けよう」
「明日からワシらは遠征じゃというのに、孫達は大丈夫だろうかのう」
「それについてもこれからもう一度話し合おう」

 私達はすぐに屋敷の中に戻る。私の想像を遥かに超える事件が起きるなど、この時は想像もしていなかった。

     
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