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第三話 看板娘を雇おう
ダンジョンマスターの朝は早い。
――が、今日は少し違った。
「……人、増えてきたな」
店の前の通りを見ながら、俺は呟いた。
昨日のAランク冒険者の来店が効いたのか、明らかに客足が伸びている。噂というのは本当に早い。
店に入るだけでポイントが入る。
強い客ならなお良し。
そして、買ってくれれば金も入る。
魔石なら、さらにいい。
「……回ってるな、完全に」
理想的な循環だ。
俺はカウンターに肘をつきながら、店内を見渡す。
ゴーレム店員一号は相変わらず無言で立っているが、客はそれなりに慣れてきたようだ。
問題があるとすれば――
「……愛想、ゼロなんだよな」
どう考えても、店としてはマイナスだ。
客商売において、無表情の石像はさすがに厳しい。
「人、雇うか……」
そう考えたときだった。
カラン、と控えめな音がして、扉が開く。
入ってきたのは、小さな影だった。
――子供。
年は……七、八歳くらいか。
少し汚れた服。痩せた腕。だが、目だけは妙に真剣だった。
その子は店内を見回し、ゆっくりと棚へと近づく。
そして――
「……これ」
低品質ポーションを、両手で持ち上げた。
「これ、病気……治るの?」
静かな声だった。
俺は一瞬だけ言葉を失う。
――来たか。
こういうケース。
「……これだと、治らない」
正直に答えた。
嘘はつかない。それはこの店のルールだ。
子供は少しだけうつむいた。
「……そっか」
「誰か、病気なのか?」
俺がそう聞くと、子供はこくりと頷いた。
「お母さん。今、病気で……働けなくて……」
ぽつぽつと話す。
無理に明るくしようとしているのが、逆に痛い。
なるほどな、と俺は思った。
この世界では、ポーションは高い。
まともな治療用となれば、なおさらだ。
この子が手に取ったのは、あくまで“安いもの”。
つまり――
「金が足りない、か」
子供は何も言わなかったが、それが答えだった。
俺は少しだけ考える。
そして、すぐに決めた。
「なあ」
子供が顔を上げる。
「ここで働く気、あるか?」
「……え?」
「簡単な仕事だ。店に立って、客に声かけるだけでいい」
俺はカウンターを軽く叩いた。
「その代わり、給料は出す」
「……ほんとに?」
「ああ」
嘘じゃない。
むしろ、こっちにもメリットがある。
人がいるだけで、店の印象は変わる。
特に――
「看板娘、ってやつだな」
子供にはよく分からない言葉だろうが、重要な役割だ。
「それで、薬屋でちゃんとしたポーションを買えばいい」
子供の目が、大きく見開かれた。
「……いいの?」
「働いた分は、ちゃんと払う。それだけだ」
しばらくの沈黙。
やがて、小さく――
「……やる」
と、答えた。
「よし」
俺は頷いた。
「名前は?」
「……リサ」
「リサか。よろしくな」
「……うん」
少しだけ、笑った。
それだけで、店の空気が変わった気がした。
――数時間後。
「い、いらっしゃいませ……!」
ぎこちない声が店内に響く。
リサが、入口の横で必死に頭を下げている。
最初は小さな声だったが、徐々に慣れてきたのか、少しずつ大きくなっている。
「お、なんだ? 子供がいるぞ」
「昨日までこんなのいなかったよな?」
冒険者たちの反応が明らかに違う。
足が止まる。
店に入る。
――ポイントが増える。
『来店ポイント:+3』
『来店ポイント:+3』
『来店ポイント:+3』
「(おお……)」
分かりやすい。
明らかに効果が出ている。
しかも――
「おじさん、これおいしいよ」
リサが弁当を指差す。
「昨日、食べた」
いつの間に食ってた。
まあいい。
「……じゃあ、それ一つくれ」
――売れた。
「(強い……!)」
思わず感心する。
ゴーレムには絶対にできない仕事だ。
リサは小さく頷きながら、客に商品を渡す。
ぎこちないが、確実に“人の接客”だ。
店の空気が柔らかくなる。
滞在時間も、わずかに伸びている。
つまり――
「(ポイント効率、上がってるな)」
完璧だ。
夕方。
客が引いたあと、リサはカウンターの前に立っていた。
「……これ」
小さな手を差し出す。
そこには、今日の売上の一部から渡した銀貨が乗っていた。
「ありがとう」
「いや、こっちも助かってる」
俺は軽く手を振る。
「ちゃんと薬、買えよ」
「……うん!」
強く頷く。
その顔は、朝とは少し違っていた。
少しだけ、安心した顔。
それを見て、俺は思う。
――悪くない。
戦わないダンジョン。
殺さない運営。
それでも、ちゃんと回る。
カウンターの中で、俺は静かに息を吐いた。
「……さて」
次は何を仕入れるか。
そして――どれだけ稼げるか。
ダンジョンマスターとして。
そして、コンビニ店長として。
俺の仕事は、まだまだ続く。
――が、今日は少し違った。
「……人、増えてきたな」
店の前の通りを見ながら、俺は呟いた。
昨日のAランク冒険者の来店が効いたのか、明らかに客足が伸びている。噂というのは本当に早い。
店に入るだけでポイントが入る。
強い客ならなお良し。
そして、買ってくれれば金も入る。
魔石なら、さらにいい。
「……回ってるな、完全に」
理想的な循環だ。
俺はカウンターに肘をつきながら、店内を見渡す。
ゴーレム店員一号は相変わらず無言で立っているが、客はそれなりに慣れてきたようだ。
問題があるとすれば――
「……愛想、ゼロなんだよな」
どう考えても、店としてはマイナスだ。
客商売において、無表情の石像はさすがに厳しい。
「人、雇うか……」
そう考えたときだった。
カラン、と控えめな音がして、扉が開く。
入ってきたのは、小さな影だった。
――子供。
年は……七、八歳くらいか。
少し汚れた服。痩せた腕。だが、目だけは妙に真剣だった。
その子は店内を見回し、ゆっくりと棚へと近づく。
そして――
「……これ」
低品質ポーションを、両手で持ち上げた。
「これ、病気……治るの?」
静かな声だった。
俺は一瞬だけ言葉を失う。
――来たか。
こういうケース。
「……これだと、治らない」
正直に答えた。
嘘はつかない。それはこの店のルールだ。
子供は少しだけうつむいた。
「……そっか」
「誰か、病気なのか?」
俺がそう聞くと、子供はこくりと頷いた。
「お母さん。今、病気で……働けなくて……」
ぽつぽつと話す。
無理に明るくしようとしているのが、逆に痛い。
なるほどな、と俺は思った。
この世界では、ポーションは高い。
まともな治療用となれば、なおさらだ。
この子が手に取ったのは、あくまで“安いもの”。
つまり――
「金が足りない、か」
子供は何も言わなかったが、それが答えだった。
俺は少しだけ考える。
そして、すぐに決めた。
「なあ」
子供が顔を上げる。
「ここで働く気、あるか?」
「……え?」
「簡単な仕事だ。店に立って、客に声かけるだけでいい」
俺はカウンターを軽く叩いた。
「その代わり、給料は出す」
「……ほんとに?」
「ああ」
嘘じゃない。
むしろ、こっちにもメリットがある。
人がいるだけで、店の印象は変わる。
特に――
「看板娘、ってやつだな」
子供にはよく分からない言葉だろうが、重要な役割だ。
「それで、薬屋でちゃんとしたポーションを買えばいい」
子供の目が、大きく見開かれた。
「……いいの?」
「働いた分は、ちゃんと払う。それだけだ」
しばらくの沈黙。
やがて、小さく――
「……やる」
と、答えた。
「よし」
俺は頷いた。
「名前は?」
「……リサ」
「リサか。よろしくな」
「……うん」
少しだけ、笑った。
それだけで、店の空気が変わった気がした。
――数時間後。
「い、いらっしゃいませ……!」
ぎこちない声が店内に響く。
リサが、入口の横で必死に頭を下げている。
最初は小さな声だったが、徐々に慣れてきたのか、少しずつ大きくなっている。
「お、なんだ? 子供がいるぞ」
「昨日までこんなのいなかったよな?」
冒険者たちの反応が明らかに違う。
足が止まる。
店に入る。
――ポイントが増える。
『来店ポイント:+3』
『来店ポイント:+3』
『来店ポイント:+3』
「(おお……)」
分かりやすい。
明らかに効果が出ている。
しかも――
「おじさん、これおいしいよ」
リサが弁当を指差す。
「昨日、食べた」
いつの間に食ってた。
まあいい。
「……じゃあ、それ一つくれ」
――売れた。
「(強い……!)」
思わず感心する。
ゴーレムには絶対にできない仕事だ。
リサは小さく頷きながら、客に商品を渡す。
ぎこちないが、確実に“人の接客”だ。
店の空気が柔らかくなる。
滞在時間も、わずかに伸びている。
つまり――
「(ポイント効率、上がってるな)」
完璧だ。
夕方。
客が引いたあと、リサはカウンターの前に立っていた。
「……これ」
小さな手を差し出す。
そこには、今日の売上の一部から渡した銀貨が乗っていた。
「ありがとう」
「いや、こっちも助かってる」
俺は軽く手を振る。
「ちゃんと薬、買えよ」
「……うん!」
強く頷く。
その顔は、朝とは少し違っていた。
少しだけ、安心した顔。
それを見て、俺は思う。
――悪くない。
戦わないダンジョン。
殺さない運営。
それでも、ちゃんと回る。
カウンターの中で、俺は静かに息を吐いた。
「……さて」
次は何を仕入れるか。
そして――どれだけ稼げるか。
ダンジョンマスターとして。
そして、コンビニ店長として。
俺の仕事は、まだまだ続く。
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