ダンジョンマスターコンビニを始める

七瀬ななし

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第二十八話 ボクっ娘アンの夜と朝

 ボクっ娘――アンの朝は遅い。

 というより、朝は存在しない。

 気がつけば昼前。

 柔らかい布団の中で、ぼんやりと目を開ける。

「……んー」

 少しだけ伸びをする。

 外はもう明るい。

 けれどアンにとっては――

 それが“朝”だ。

 理由は簡単。

 遅番だからだ。

 夜から明け方まで働く。

 その代わり――

「……お金、いいんだよね」

 ぽつりと呟く。

 枕元の小さな袋。

 中には、しっかりと重みがある。

 同じ年頃の子たちの、倍以上。

 それが、ここでの給料だ。

「……すごいよね、ほんと」

 最初は信じられなかった。

 だが、今は分かる。

 それだけの価値がある場所だと。

 ――アンは孤児院育ちだった。

 家族と呼べるものはない。

 帰る場所はある。

 だが、“待っている誰か”はいない。

 だから――

 夜を選んだ。

「昼は、みんなで使えばいいしね」

 リサやゾーイ、ランたち。

 明るい時間に働く方が合っている。

 それでいい。

 自分は――

 夜でいい。

 むしろ、夜の方が落ち着く。

 静かで。

 少しだけ危なくて。

 そして――

 人が濃い。

 ――店に立てば、

 相手は冒険者たちだ。

 海千山千。

 一筋縄ではいかない連中ばかり。

「……最初は怖かったな」

 思い出して、小さく笑う。

 だが今は違う。

「いらっしゃい」

 自然に声が出る。

 相手も応じる。

「おう、アンか」

「今日はラーメンだ」

「はいはい」

 軽口を叩きながら、注文を受ける。

 危ない奴もいる。

 強い奴もいる。

 だが――

「……いい人、多いよね」

 ぽつりと呟く。

 本当に。

 不思議なくらいに。

 ――仕事が終わるのは、明け方。

 外が少し白んでくる頃。

 アンは、静かに店を出る。

「……今日も終わり」

 小さく息を吐く。

 だが、その足は軽い。

 なぜなら――

 寄る場所がある。

 孤児院。

「シスター、これ」

 袋を差し出す。

「まあ、アン……また?」

「うん。余ってるから」

 余っているわけではない。

 だが、そう言う。

 中には――

 社内割引で手に入れた食べ物。

 お菓子。

 ちょっとしたお土産。

「みんなで食べて」

「……ありがとう」

 シスターが微笑む。

 それを見るのが、少しだけ好きだ。

「……また来るね」

 手を振る。

 そして帰る。

 部屋に戻る。

 服を脱いで、

 ベッドに潜り込む。

 その前に――

「……今日の分」

 小さな袋から、コインを取り出す。

 少しだけ残しておいた分。

 昨日、回したガチャ。

 まだ揃っていない。

 そして――

「……早く出ないかな」

 棚の上を見る。

 組みかけの家。

 週間、家を作る。

 少しずつ増えていく。

 少しずつ完成に近づく。

「……次の本」

 まだ出ていない。

 待っている。

 それが、少し楽しい。

「……楽しみだな」

 小さく呟く。

 そして――

 布団に潜る。

 目を閉じる。

 外は、完全に朝になっている。

 けれどアンにとっては――

 それが一日の終わり。

「……おやすみ」

 小さく言って、

 意識が、ゆっくりと沈んでいく。

 ――明日もまた。

 夜が来れば、

 あの店で働く。

 笑って、

 稼いで、

 少しだけ誰かに分けて、

 そして――

 また、ガチャを回す。

 それが、アンの日常だった。
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