2 / 36
第一章
第1話「めんどくさい生活の始まり」中編
しおりを挟む
教室に入ると、わっと子どもたちの声が耳に飛び込んできた。
「おはよー!」「昨日のテレビ見た?」「鬼ごっこしよー!」
机の間を駆け回る子、教科書を慌てて出す子、先生に捕まって宿題を見せてる子……。
(うわぁ……小学校って、こんなにカオスだったか? いや、昔もそうだったか……もう覚えてねぇな)
俺の席は窓際の前から三番目。座ると、机が小さすぎて足が窮屈だった。
隣の席の女子がひょいと身を乗り出してきて、にこっと笑う。
「おはよ、ひなちゃん。昨日の配信見た?」
「……はい?」
「ほら、推しの配信! 超面白かったんだよ!」
(……配信? ゲーム実況とかってことか? 俺、営業資料の数字に追われて寝落ちしてたから、そんなの見てねぇよ……)
「えー? 見てないの? もー、ひなちゃん遅れてる~」
女子はクスクス笑いながら、他の友達と盛り上がっていった。
俺は乾いた笑みを浮かべて、ノートを開く。
ページの最初に「氏名」と書かれた欄があって、ため息をつきそうになる。
(名前か……。奥田翔太、じゃなくて……)
ペン先を止めて、ちらりと周りをうかがう。
みんな、当たり前のように自分の名前を書いている。
俺も仕方なく——“如月ひな”と書き写す。
その瞬間、妙なむずがゆさに襲われた。
自分じゃない名前を、自分の手が当たり前のように書き慣れている。
線の引き方も、丸みを帯びた癖字も、完璧に“ひな”のものだ。
(……めんどくせー。俺の字じゃねぇのに、手が勝手に動くってどういうことだよ……)
チャイムが鳴り、担任が教室に入ってきた。
「はい、席に着いて。今日の算数は分数の割り算からね」
黒板にチョークの音が響く。分数の割り算。
俺の頭に、高校で習った数列や関数の知識がぶわっと浮かぶ。
(これくらい、俺なら余裕だ。……いや、小学生にとっちゃ難しいのか?)
問題が出された。
クラスメイトたちが「うーん」と首をひねる中、俺の手はつい、するすると答えを書き終えてしまう。
「ひなちゃん、早いね」
担任が目を細めて、黒板に答えを書くように促した。
(うわ……出たよ。めんどくせぇパターン……)
子どもたちの視線が、一斉に俺に集まる。
前世では人前でプレゼンも散々やった。けど……今は小学生の女の子の体。
こんなにじろじろ見られるの、正直、心が落ち着かない。
「……はい」
小さな声で答え、黒板に歩み出る。
チョークを持つ手が震えているのは、体が小さいからじゃない。
(……俺、ほんとにこれからどうすんだよ)
黒板に“正解”を書いた瞬間、教室中が「すげー!」とざわめいた。
隣の席の女子がキラキラした目で言う。
「やっぱり、ひなちゃん頭いいね!」
俺は反射的に微笑んでみせた。けれど心の中では、またいつもの言葉が浮かんでいた。
(ほらな……褒められるのも、めんどくせーんだよ)
「おはよー!」「昨日のテレビ見た?」「鬼ごっこしよー!」
机の間を駆け回る子、教科書を慌てて出す子、先生に捕まって宿題を見せてる子……。
(うわぁ……小学校って、こんなにカオスだったか? いや、昔もそうだったか……もう覚えてねぇな)
俺の席は窓際の前から三番目。座ると、机が小さすぎて足が窮屈だった。
隣の席の女子がひょいと身を乗り出してきて、にこっと笑う。
「おはよ、ひなちゃん。昨日の配信見た?」
「……はい?」
「ほら、推しの配信! 超面白かったんだよ!」
(……配信? ゲーム実況とかってことか? 俺、営業資料の数字に追われて寝落ちしてたから、そんなの見てねぇよ……)
「えー? 見てないの? もー、ひなちゃん遅れてる~」
女子はクスクス笑いながら、他の友達と盛り上がっていった。
俺は乾いた笑みを浮かべて、ノートを開く。
ページの最初に「氏名」と書かれた欄があって、ため息をつきそうになる。
(名前か……。奥田翔太、じゃなくて……)
ペン先を止めて、ちらりと周りをうかがう。
みんな、当たり前のように自分の名前を書いている。
俺も仕方なく——“如月ひな”と書き写す。
その瞬間、妙なむずがゆさに襲われた。
自分じゃない名前を、自分の手が当たり前のように書き慣れている。
線の引き方も、丸みを帯びた癖字も、完璧に“ひな”のものだ。
(……めんどくせー。俺の字じゃねぇのに、手が勝手に動くってどういうことだよ……)
チャイムが鳴り、担任が教室に入ってきた。
「はい、席に着いて。今日の算数は分数の割り算からね」
黒板にチョークの音が響く。分数の割り算。
俺の頭に、高校で習った数列や関数の知識がぶわっと浮かぶ。
(これくらい、俺なら余裕だ。……いや、小学生にとっちゃ難しいのか?)
問題が出された。
クラスメイトたちが「うーん」と首をひねる中、俺の手はつい、するすると答えを書き終えてしまう。
「ひなちゃん、早いね」
担任が目を細めて、黒板に答えを書くように促した。
(うわ……出たよ。めんどくせぇパターン……)
子どもたちの視線が、一斉に俺に集まる。
前世では人前でプレゼンも散々やった。けど……今は小学生の女の子の体。
こんなにじろじろ見られるの、正直、心が落ち着かない。
「……はい」
小さな声で答え、黒板に歩み出る。
チョークを持つ手が震えているのは、体が小さいからじゃない。
(……俺、ほんとにこれからどうすんだよ)
黒板に“正解”を書いた瞬間、教室中が「すげー!」とざわめいた。
隣の席の女子がキラキラした目で言う。
「やっぱり、ひなちゃん頭いいね!」
俺は反射的に微笑んでみせた。けれど心の中では、またいつもの言葉が浮かんでいた。
(ほらな……褒められるのも、めんどくせーんだよ)
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる