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第一章
第2話「ちぐはぐな日常」
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ランドセルを机の横に下ろすと、ふうっと肩が軽くなる。
――たかが数キロの荷物でこんなに疲れるなんて、情けない。前世なら一日中営業で歩き回っても「めんどくせー」って言いながら動いてたのに。
「ひな、今日一緒に遊ぼ!」
クラスの女子が声をかけてくる。
俺は一瞬返事に詰まり、作り笑いを浮かべてごまかした。
(遊ぶ? ああ……あやとりとか、鬼ごっことかか。
俺、四十五のおっさんだぞ。正直、仕事帰りの飲み会よりも疲れそうだ……いや、子供なんだから楽しめって話か)
「う、うん……」
口が勝手に答えていた。心の中では「めんどくせー」と呟きながら。
⸻
教室のざわめき
算数の時間。今日の単元は「分数の割り算」の続き。
俺には簡単すぎる内容だ。前に出て答えたときのことを思い出し、わざと手を挙げるのをやめた。
(また“できる子”扱いされるのも、めんどくさいしな……)
だが、黒板の前で先生が言った。
「じゃあ……如月さん、どう?」
逃げ場はなかった。ため息を飲み込み、立ち上がる。
式を書きながら、心の中では「こんなの社会に出てから使わねぇんだよ」と毒づいていた。
でも、書き終えた瞬間に響いた「すごーい!」の声に、胸がざわつく。
(……素直に喜べばいいのに、な。俺)
⸻
体育の時間
次は体育。今日は運動場で持久走。
スタートラインに並びながら、俺はすでに後悔していた。
「よーい、スタート!」
勢いよく走り出したものの、数百メートルで足が鉛のように重くなる。肺が焼けるように痛い。
前世でも運動は得意じゃなかった。けど、ここまで走れないとは思わなかった。
「ひなちゃん、大丈夫?」
隣を走っていた子が心配そうに覗き込む。
「だ、大丈夫……すぐ行くから……」
そう言いつつ、心の中では――
(マジで……めんどくせー……もう走りたくねぇ……)
結局、ビリでゴール。みんなに「がんばったねー」と笑われる。
優しい言葉のはずなのに、胸の奥にちくりとした痛みが残った。
⸻
帰り道。
友達が「今度の運動会、リレー一緒に出ようよ!」と笑顔で言ってきた。
俺は一瞬固まり――またもや作り笑いで返した。
「う、うん……考えとく」
(……ほんと、どうすんだよ俺。大人の経験があっても、この体じゃ何もできやしない……)
その夜、布団の中でため息をついた。
目を閉じれば、会社で数字とにらめっこしていた自分がちらつく。
あの頃も、しんどいことから逃げてばかりだった。
「……ほんと、めんどくせー」
誰にも聞こえない声でつぶやく。
けれどその横で、「おやすみ、ひな」と母の声がした。
胸の奥に、小さな温かさが灯るのを感じながら、俺は眠りに落ちた。
――たかが数キロの荷物でこんなに疲れるなんて、情けない。前世なら一日中営業で歩き回っても「めんどくせー」って言いながら動いてたのに。
「ひな、今日一緒に遊ぼ!」
クラスの女子が声をかけてくる。
俺は一瞬返事に詰まり、作り笑いを浮かべてごまかした。
(遊ぶ? ああ……あやとりとか、鬼ごっことかか。
俺、四十五のおっさんだぞ。正直、仕事帰りの飲み会よりも疲れそうだ……いや、子供なんだから楽しめって話か)
「う、うん……」
口が勝手に答えていた。心の中では「めんどくせー」と呟きながら。
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教室のざわめき
算数の時間。今日の単元は「分数の割り算」の続き。
俺には簡単すぎる内容だ。前に出て答えたときのことを思い出し、わざと手を挙げるのをやめた。
(また“できる子”扱いされるのも、めんどくさいしな……)
だが、黒板の前で先生が言った。
「じゃあ……如月さん、どう?」
逃げ場はなかった。ため息を飲み込み、立ち上がる。
式を書きながら、心の中では「こんなの社会に出てから使わねぇんだよ」と毒づいていた。
でも、書き終えた瞬間に響いた「すごーい!」の声に、胸がざわつく。
(……素直に喜べばいいのに、な。俺)
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体育の時間
次は体育。今日は運動場で持久走。
スタートラインに並びながら、俺はすでに後悔していた。
「よーい、スタート!」
勢いよく走り出したものの、数百メートルで足が鉛のように重くなる。肺が焼けるように痛い。
前世でも運動は得意じゃなかった。けど、ここまで走れないとは思わなかった。
「ひなちゃん、大丈夫?」
隣を走っていた子が心配そうに覗き込む。
「だ、大丈夫……すぐ行くから……」
そう言いつつ、心の中では――
(マジで……めんどくせー……もう走りたくねぇ……)
結局、ビリでゴール。みんなに「がんばったねー」と笑われる。
優しい言葉のはずなのに、胸の奥にちくりとした痛みが残った。
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帰り道。
友達が「今度の運動会、リレー一緒に出ようよ!」と笑顔で言ってきた。
俺は一瞬固まり――またもや作り笑いで返した。
「う、うん……考えとく」
(……ほんと、どうすんだよ俺。大人の経験があっても、この体じゃ何もできやしない……)
その夜、布団の中でため息をついた。
目を閉じれば、会社で数字とにらめっこしていた自分がちらつく。
あの頃も、しんどいことから逃げてばかりだった。
「……ほんと、めんどくせー」
誰にも聞こえない声でつぶやく。
けれどその横で、「おやすみ、ひな」と母の声がした。
胸の奥に、小さな温かさが灯るのを感じながら、俺は眠りに落ちた。
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