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第一章
第8話「父の背中」
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日曜日の朝。
居間のテーブルには、新聞と読みかけのコーヒーカップ。
父さんはスーツに袖を通しながら、慌ただしくネクタイを結んでいた。
「ごめんな、ひな。今日は仕事でちょっと出なきゃいけないんだ」
母さんが苦笑いしながら弁当を渡す。
「せっかくのお休みなのにね」
「大丈夫だよ。お父さんの仕事だもん」
俺は小さな声でそう言った。
……でも心の中では、違った。
(……大丈夫じゃねぇだろ。日曜まで会社って、ブラックすぎんだろ。
俺と同じじゃねぇか。結局、家族より仕事優先で、気づいたら一人で……)
スーツの背中に視線を奪われる。
それはかつて、俺自身が鏡の前で見ていた姿そのものだった。
朝の満員電車に揺られ、得意先に頭を下げ、ため息をつきながら帰ってきたあの日々。
「お父さん、いってらっしゃい」
口が勝手にそう言う。
父さんは振り返り、少し驚いたように目を細めた。
「おう、行ってくる。……ありがとうな、ひな」
ドアが閉まったあと、部屋に残った静けさがやけに重く感じた。
(俺は……また同じ人生を繰り返すのか?
結局、めんどくさいって逃げて……大事なものを失って……)
気づけば、手のひらに力が入っていた。小さな手。もう俺は翔太じゃない。
だけど、この家族の中で“ひな”として生きている。
その日の夜。父さんは遅くに帰ってきた。
疲れた顔で玄関に立ちながらも、俺と目が合うと、少し笑った。
「ただいま。ひな、もう寝る時間か」
「……うん。おかえり」
(ああ……前の俺は、こんなふうに迎えてくれる人さえいなかったっけ)
布団に潜り込む前、心の中でまた同じ言葉が浮かんできた。
「……めんどくせー」
でも今夜は、その言葉のあとに、ほんの少し――
(けど、悪くないな)
と続けてしまった。
居間のテーブルには、新聞と読みかけのコーヒーカップ。
父さんはスーツに袖を通しながら、慌ただしくネクタイを結んでいた。
「ごめんな、ひな。今日は仕事でちょっと出なきゃいけないんだ」
母さんが苦笑いしながら弁当を渡す。
「せっかくのお休みなのにね」
「大丈夫だよ。お父さんの仕事だもん」
俺は小さな声でそう言った。
……でも心の中では、違った。
(……大丈夫じゃねぇだろ。日曜まで会社って、ブラックすぎんだろ。
俺と同じじゃねぇか。結局、家族より仕事優先で、気づいたら一人で……)
スーツの背中に視線を奪われる。
それはかつて、俺自身が鏡の前で見ていた姿そのものだった。
朝の満員電車に揺られ、得意先に頭を下げ、ため息をつきながら帰ってきたあの日々。
「お父さん、いってらっしゃい」
口が勝手にそう言う。
父さんは振り返り、少し驚いたように目を細めた。
「おう、行ってくる。……ありがとうな、ひな」
ドアが閉まったあと、部屋に残った静けさがやけに重く感じた。
(俺は……また同じ人生を繰り返すのか?
結局、めんどくさいって逃げて……大事なものを失って……)
気づけば、手のひらに力が入っていた。小さな手。もう俺は翔太じゃない。
だけど、この家族の中で“ひな”として生きている。
その日の夜。父さんは遅くに帰ってきた。
疲れた顔で玄関に立ちながらも、俺と目が合うと、少し笑った。
「ただいま。ひな、もう寝る時間か」
「……うん。おかえり」
(ああ……前の俺は、こんなふうに迎えてくれる人さえいなかったっけ)
布団に潜り込む前、心の中でまた同じ言葉が浮かんできた。
「……めんどくせー」
でも今夜は、その言葉のあとに、ほんの少し――
(けど、悪くないな)
と続けてしまった。
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