めんどくさがりな彼女は、元おじさん

Y-z

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第一章

第10話「走れない足で」

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運動会の練習が、本格的に始まった。
炎天下のグラウンドを走る小さな体。けれど俺の中では、いつもの“社会人時代の体”の感覚が残っていて、ちぐはぐさがひどい。

「ひなー! アンカー頼んだよ!」
クラスメイトが笑顔で声をかけてくる。

(……アンカー? いやいや、俺は四十五歳の万年デスクワーカーだぞ。
走るなんて一番めんどくさいやつを、なんで俺が……)

笑顔で手を振り返すしかなかった。



練習が始まる。スタートラインに立つと、心臓が早鐘のように打ち始めた。
小学生の体は軽いはずなのに、足が思うように動かない。肺がすぐに悲鳴を上げる。

「ひなちゃん、がんばれー!」
応援の声が耳に刺さる。

必死で走る。前の子との距離はどんどん離れていく。
悔しい。こんなはずじゃなかった。大人だった頃の俺は、運動こそ苦手でも、踏ん張り方くらいは知っていたのに。

(……ちくしょう、やっぱりダメか。めんどくせー……)

足が止まりかけた、そのとき。
グラウンドの端で、兄貴がこっちを見ていた。
部活の帰りなのか、汗を拭きながら「頑張れよ!」と手を振っている。

その顔を見た瞬間、不思議ともう少しだけ走れる気がした。
“ああ、こいつに情けないところばっか見せるのも……めんどくさい”
そう思ったら、足がまた動き出していた。



結局、順位は後ろから数えた方が早かった。
でも、クラスの子たちは「ひな、最後まで走ったじゃん!」「かっこよかったよ!」と笑顔で迎えてくれる。

俺は肩で息をしながら、必死に笑った。
「そ、そう……かな」

(かっこいい? 俺が? ……どう考えても、ただ必死で足引きずってただけだろ)

それでも胸の奥には、ほんの少しの誇らしさが残っていた。
前の人生なら「どうせ無理だ」と最初から諦めていた。
でも今は違う。めんどくさくても、最後までやってみようと思えた。

布団に潜り、足の痛みに顔をしかめながら、小さく呟く。
「……めんどくせー。……でも、次はもう少し速く走れるようにがんばろ…
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