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第一章
第13話「影の中の光」
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車のドアが乱暴に閉められた。
小さな体はシートに押しつけられ、外の景色が遠ざかっていく。
エンジンの唸りとタイヤの振動が、心臓の鼓動と重なった。
(……やばい、本当に連れ去られた……!)
男は運転席から後部座席をちらりと見やり、ニヤリと笑う。
「大丈夫だよ、すぐ終わるから」
その声に、全身の血が凍りつく。
俺はただの小学生の体。力では勝てない。
けど――四十五年の人生で学んだ“逃げ道を探す癖”が頭を回す。
(車内なら……ドア、鍵、ハンドル、通行人の目……何か利用できるはずだ)
⸻
シートの横に置かれたランドセルの中を探る。
指先に硬い感触。――あの鉛筆削りの金具。
迷っている暇はない。
「……めんどくせー」
小さく呟き、息を整える。
次の赤信号で車が止まった瞬間、思い切り力を込めて、男の腕に突き立てた。
「うっ……!」
一瞬の隙。
ドアを開け、転がり出る。アスファルトに膝を打ちつけ、痛みで涙がにじむ。
けれど泣いてる暇なんてない。立ち上がり、必死で走った。
「待てっ!」
背後から迫る足音。
俺は振り返りざま、脱げかけた靴を思い切り投げつけた。
「この人知らない! 助けてください!」
声が割れて、夕暮れの商店街に響き渡る。
シャッターを閉めかけていた店のおばさんが目を丸くし、慌てて外へ飛び出した。
「何してるの! 誰か、警察呼んで!」
男は舌打ちして、路地に消えた。
⸻
足が震えて動けなくなった俺を見つけたのは、走ってきた友達と兄だった。
「ひな! 大丈夫か!」
翔真が肩を抱き起こす。
「ひなちゃん、ほんとに怖かったでしょ……」
友達の目が潤んでいる。
俺はなんとか笑おうとしたけれど、こぼれたのは涙だった。
(俺は……今度こそ、黙ってやりすごさなかった。
大人のときに出来なかったことを、子供の声でやったんだ……)
⸻
夜。
母さんが差し出してくれた温かいスープを、両手で抱え込むように飲む。
父さんは黙って俺の頭を撫で、兄は隣で腕を組んで座っていた。
「……もう一人で帰るなよ」
「う、うん……」
胸の奥にまだ恐怖は残っている。
でも、その上から覆いかぶさるように、確かな温もりがあった。
布団の中で、目を閉じながら小さく呟く。
「……めんどくせー……でも、俺はもう、逃げない」
静かな決意が、心の中で確かに光り始めていた。
小さな体はシートに押しつけられ、外の景色が遠ざかっていく。
エンジンの唸りとタイヤの振動が、心臓の鼓動と重なった。
(……やばい、本当に連れ去られた……!)
男は運転席から後部座席をちらりと見やり、ニヤリと笑う。
「大丈夫だよ、すぐ終わるから」
その声に、全身の血が凍りつく。
俺はただの小学生の体。力では勝てない。
けど――四十五年の人生で学んだ“逃げ道を探す癖”が頭を回す。
(車内なら……ドア、鍵、ハンドル、通行人の目……何か利用できるはずだ)
⸻
シートの横に置かれたランドセルの中を探る。
指先に硬い感触。――あの鉛筆削りの金具。
迷っている暇はない。
「……めんどくせー」
小さく呟き、息を整える。
次の赤信号で車が止まった瞬間、思い切り力を込めて、男の腕に突き立てた。
「うっ……!」
一瞬の隙。
ドアを開け、転がり出る。アスファルトに膝を打ちつけ、痛みで涙がにじむ。
けれど泣いてる暇なんてない。立ち上がり、必死で走った。
「待てっ!」
背後から迫る足音。
俺は振り返りざま、脱げかけた靴を思い切り投げつけた。
「この人知らない! 助けてください!」
声が割れて、夕暮れの商店街に響き渡る。
シャッターを閉めかけていた店のおばさんが目を丸くし、慌てて外へ飛び出した。
「何してるの! 誰か、警察呼んで!」
男は舌打ちして、路地に消えた。
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足が震えて動けなくなった俺を見つけたのは、走ってきた友達と兄だった。
「ひな! 大丈夫か!」
翔真が肩を抱き起こす。
「ひなちゃん、ほんとに怖かったでしょ……」
友達の目が潤んでいる。
俺はなんとか笑おうとしたけれど、こぼれたのは涙だった。
(俺は……今度こそ、黙ってやりすごさなかった。
大人のときに出来なかったことを、子供の声でやったんだ……)
⸻
夜。
母さんが差し出してくれた温かいスープを、両手で抱え込むように飲む。
父さんは黙って俺の頭を撫で、兄は隣で腕を組んで座っていた。
「……もう一人で帰るなよ」
「う、うん……」
胸の奥にまだ恐怖は残っている。
でも、その上から覆いかぶさるように、確かな温もりがあった。
布団の中で、目を閉じながら小さく呟く。
「……めんどくせー……でも、俺はもう、逃げない」
静かな決意が、心の中で確かに光り始めていた。
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